ごはんとにちじょう
仕事で遅くなった日、久しぶりに実家に寄った。
玄関を開けると、母の声がした。
「おかえりなさい。ごはんできてるよ」
懐かしくて、うれしかった。
台所には湯気の立った味噌汁と、焼き魚と、母の好きな卵焼き。
俺は「ただいま」と言って食卓についた。
母はあまり喋らなかったけど、ニコニコしてた。
昔と同じ顔だった。
そのまま寝て、朝になった。
リビングに行くと、食卓は空っぽだった。
皿も箸もなかったし、何より――埃だらけだった。
家には、何年も誰も住んでいなかった。
ふと携帯を見ると、未送信の通知が残っていた。
録音メモだ。昨夜、ポケットで勝手に録音されたのかもしれない。
再生すると、自分の声が聞こえた。
「……ただいま」
「……いただきます」
……そのあと、小さく入っていた。
女の声で、
「ずっと、待ってたよ」