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こんにちは! カエデです!
突然ですが! 今! 大大大大大ピンチです!
略してカエデ Five ピンチ!
え? いつもピンチじゃないかって?
そうなんです! 助けてください!
冷や汗が背中を伝います。
周りを見回すと、薄暗い森の中、木々の間から不気味な目が光っているのが見えます。
普段から運が悪いのは分かっていますが、今回は特別です。
えっと! 実は今ですね?
……いち、に、さん、し、ご……!!
なんと!
5匹のゴブリンに囲まれてるんですッ!!
ゴブリンたちは獰猛な目つきで私を見つめ、その口からは鋭い牙がのぞいています。
手には粗末な武器を持ち、私に向けられています。
……どうしよう……KDP(カエデ大ピンチ)です!
「こんなモンスターやっちまえよ! カエデ!」
友達のウィルソンがやたら強気ですが、こんなの勝てるわけがない!
「無理だよ! ウィルソン! ここは逃げようよ?」
……?……あッ! そうか! 皆さんは知らないですよね。
紹介しますね。この子はウィルソン。
──その辺に落ちてた良い形の石です。
1人はとても寂しくて……どうしても…友達が欲しかったんだ……
ね? ウィルソン。
……あは。
……あれ……おかしいな……口から水が……
お腹減ったなぁ…おまんじゅう……食べたいなぁ……
私は手のひらの良い形の石を見つめました。
ウィルソンは私が泣いてる時……優しくしてくれた。
ウィルソンは野宿する時も一緒に寝てくれた。
ウィルソンと見た星空はとてもキレイだった。
ウィルソンはいつもいつも! 一緒に居てくれた!
……そんな、大切な大切な友達のウィルソン。
大好きだよ?
「……ねえウィルソン?これからもずっと──
一緒に居てね?」
*
「ゴブッ!? ゴブゴブ!」
何か喋ってる。まったく意味不明。
でも、あの顔……完全に私に好意を持ってる……。
(※天の声:『あいつ石と会話してた……怖い……』)
「ゴーゴブゴブゥ……」
声震えてるし。あれ絶対、私を好きだよ……。
(※天の声:『関わるな。あれはやばい。今も絶対勘違いしてる……』)
「ゴブ…ゴブゴ……」
私の胸を指差して何か言ってる……。
(※天の声:『逃げるぞ……命は一つだ……!』)
……そんなに私が魅力的!?
「くらえッ! そんな愛と友情のウィルソン☆アタック!!」
私はウィルソンをゴブリンに投げつけてダッシュで逃げました。
──どうやらゴブリン達から逃げる事が出来たようです。
(※天の声:あいつら、戦意喪失してたからな。)
*
国外追放され、「着の身木の実ナナ」
あ、違った。「着の身着のまま」放り出された私。
ついつい韻を踏んでしまいました。てへぺろ
服は汚れ、髪は乱れ、空腹で疲れ切っています。
それでも今の私は生き抜くしかないのです。
親友のサクラならきっとこう言います。
──『元気がない時は、大声で”ぬん!!”って叫んでみ? みんなこっち見るから』──
懐かしい友人の名前を思い出し、大きな胸が締め付けられるような感覚に襲われます。
目を閉じ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。
私は決意しました。
「ぬん!!」
「ゴブ!?」
(※天の声訳:『何だ今の音!?』)
さっきとは違うゴブリンが3匹走ってきた。私は2倍速で逃げた。
足つったけど根性で誤魔化した!
ウィルソンは落とした! どっかいった! まぁいいや。
*
──1時間後。私はまだ全力疾走してた。
「ふ、振り切ったかな……はぁはぁ……」
後ろを振り返る。どうやら逃げ切れたみたい!
ふぅ。まずは……人の居るところに行かないとね!
「街とか村とか無いのかなぁ……」
私は街道をひたすら歩く。
足取りは重く、疲労が全身に染み渡っています。
肩も凝ったなぁ。
それでも、一歩一歩前に進みます。
道端の草花や木々も食べられるかもしれないし!
よーく見ないとねッ!!
「お! 良い形の石みっけ♪」
私は良い形の石を拾い、微笑みました。
「こんにちは! ウィルソン2世」
その後、大きめのリスのモンスターが目の前に現れました。
私は一瞬だけ考えて、そして、なぜか納得しました。
──大丈夫。
この子、たぶん、怖がってるだけです。
そういう顔をしています。
なんとなく。
直感です。
根拠はありません。
目が丸い。丸いものはだいたい無害です。石も丸いし。
肉まんも鍋も丸い。お腹すいた。
「大丈夫。怯えてるだけだよね……?」
私は、できるだけ優しい声でそう言って、
そっと指を差し出しました。
……。
リスの前歯が、ギチッと鳴りました。
鳴らさなくていい音です。
あれは、指が“人生を終える”音です。
「……あ、違った」
怖かったので、親友のウィルソン2世を全力で投げつけて逃げました。
逃げてる時に他のウィルソン達をボトボト落としました。
まぁいい。その辺に落ちてる。ただの石だし。
カエデのスキル:【ウィルソンを投げつける】のレベルが上がりました。
「わわッ! なんか聞こえた! ビックリしたッ!」
*
「ねぇウィルソン。私、大丈夫かな? これからどうなるんだろう……」
そう呟きながら、私は良い形の石をぎゅっと握りしめた。
ウィルソンは何も答えない。
でも、その沈黙だけが……今の私にはやさしかった。
(つづく)
──【今週のサクラ語録】──
「元気がない時は、大声で”ぬん!!”って叫んでみ? みんなこっち見るから」
解説:
意味はない。けど注目される。
注目されたら、「今、生きてる」ってちょっとだけ思える。
だから”ぬん”は、生存確認用の叫び。
◇◇◇
──おまけのカエデのステータス──
【名前】カエデ
【種族】人間(ど天然)
【職業】勇者
【レベル】1(*固定)
【スキル一覧】
・ウィルソンを投げつける (レベル2)
ウィルソンと喋れる効果は無い。
なんか石と会話始めたし…マジで引いてる(天の声)