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明るい時間帯に外へ出て、ナギが小さな子供と一人で遊ぶ姿なんて、これまでの彼からは想像もできなかった。 蓮の思いがけない申し出に、ナギの顔がぱぁっと華やぐ。
「い、いいの? でも、忙しくない?」
「暇で仕方なくてさ、ランニングでもしようかと思ってただけだから。気にするな」
「そう、なんだ……」
何処か嬉しそうな表情を向けられると、こちらまで胸の奥が温かくなってくる。 だだっ広い公園には色とりどりの遊具が並び、冬休みに入ったばかりの子連れ客で賑わっていた。巨大なアスレチックの中には大勢の子供たちがひしめき合っており、ナギの弟――海斗(かいと)くんは、ナギの手を離れるなりその迷宮の中へと突進していった。
蓮は海斗くんの行方を目で追いながら、ナギと連れ立って、アスレチックが見渡せる位置にあるベンチへ腰を下ろした。 中に入った海斗くんは、滑り台を滑り、不安定な吊り橋を渡り、網状のネットを登り……と、実に楽しそうに一人で遊び回っている。時折こちらをチラチラと見ては、大きく手を振って存在をアピールしてくる姿が微笑ましい。
「まさかフラれた理由が『弟の面倒を見るから』だなんて思わなかったよ。おかげでクリぼっち(一人きりのクリスマス)になるところだった」
冗談めかして言うと、ナギは気まずそうに視線を彷徨わせた後、「ごめん」と小さく謝った。
「……俺の母さん、俺が小さい時に離婚しててさ。四年前、今の父さんと再婚したんだ。海斗は俺とは半分しか血が繋がってないけど……。育ててもらった恩もあるし、たまには母さんを育児から解放してあげたいから、時々こうやって預かってるんだ」
まさかこうして、ナギの家族の事情を聞く日が来るなんて。 彼の口から語られる、まだ自分の知らない過去。ほんの少しだけ、彼の秘められたプライベートに触れられた気がして、なんだかくすぐったい心地がした。
「でもさ、俺の都合も聞かずに自分だけクリスマスを満喫するのって、ちょっと狡いよな」
「俺だって、お兄さんと二人きりで過ごしたかったのに」
――なんて、甘えた声を出しながら、ナギがするりと蓮の肩に頭を預けてくる。不意の密着に、ドクンと心臓が跳ねた。 それだけでは飽き足らないのか、ナギは太腿をそっとなぞるように撫でてきた。蓮は思わず身体を硬くする。
「……っ」
コイツ、わざと煽っているのか? こんな、子供や親御たちの目がある場所で。
「ほ、ほらっ! 海斗くんが手を振ってるぞ。一緒に行って遊んであげなよ」
「……お兄さんは、どこにも行かない?」
捨てられた子犬のような瞳で見つめられたら、ノーと言えるはずがない。そもそも、どこかへ行く気なんて端からないのだ。
「行かないよ。ここにいるから」
苦笑まじりに答えると、ナギはパッと顔を輝かせて、海斗くんの待つ滑り台へと走っていった。 彼の後ろ姿を見送りながら、
蓮は大きく溜息をつき、項垂れた状態でガシガシと頭を掻き回した。
「はぁー……心臓に悪い」
というより、身体に毒だ。会えないと思っていた反動か、気持ちが高揚して油断していた。さっきの仕草が計算か天然かは分からないが、不意打ちで「可愛いこと」をされるのは、実にタチが悪い。
「お兄さーん!」
巨大な滑り台の頂上で、海斗くんと一緒になってとびっきりの笑顔で手を振るナギ。その無邪気さは、まさに反則だった。 蓮は手で顔を覆い、ニヤけそうになる口元を必死に抑え込んだ。
だが、平和な時間は長くは続かなかった。 ナギたちがアスレチックへ向かって数分も経つと、彼の正体に気づいた親子連れがソワソワと周囲を囲み始めた。
「ねぇ、今の見た? あれ、獅子レンジャーのナギ君じゃない?」
「見た見た! 本物だよね、顔ちっちゃい! 子供は誰の子かな?」
ヒソヒソ声が波のように広がっていく。今の親世代は『獅子レンジャー』をリアルタイムで視聴している世代だ。帽子を深く被る程度では、バレるのも時間の問題だった。 案の定、二人の周りにはあっという間に人集りができ、黄色い歓声が上がり始めた。
「やっばい、ナギ君可愛い!」
「なんかいい匂いするーっ」
遠巻きにその光景を眺めながら、蓮は何故か誇らしげな気分で鼻を擦る。
(そう、そうだろう。ナギは可愛いんだ。二人きりの時は、もっと可愛いんだぞ……)
内心で満更でもない様子で鼻を鳴らしていると、不意に頭上に影が差した。
「あの……御堂蓮さん、ですよね?」
見上げると、清楚な雰囲気の女性が生後間もない赤ちゃんを抱っこ紐であやしながら、恥ずかしそうにこちらを見ていた。
「っ、あ、はい……」
「やっぱり! 獅子レンジャーチャンネル、毎日観てます! 私、蓮さん推しなんです。この間の女装動画、すっごく素敵でした!」
女装を褒められて手放しで喜ぶべきかは微妙なところだが、蓮はひとまず「ハハッ、どうも」とプロの笑顔で返した。銀次の編集の妙か、あるいは弓弦の破壊的なクオリティか。
コラボ第二弾の動画は驚異的な再生数を叩き出し、蓮への応援メッセージも激増していた。
「蓮さん、本当にカッコいいです。ナギ君も可愛いけど、お二人ともイケメンで大好き。……握手、してもらってもいいですか?」
自分にまで声がかかるとは思っていなかったが、無下にはできない。右手を差し出すと、それを合図にしたかのように、周囲の視線が一気にこちらへ集中した。 ナギの方だけでなく、蓮の周りにも人の輪が広がり始める。
(まずいな、これじゃナギと合流できない……。早急に退散しないと)
そう焦った矢先、頬に冷たい雫がポツリと滴った。 いつの間にか空はどんよりとした鉛色に変わり、分厚い雪雲のような塊が、音もなく上空を覆い尽くそうとしていた。