静まり返る部屋の中
アクシアに使った救急セットを片付けていると、目の前に宇佐美が立った
「‥‥小柳、お前‥‥生徒に手を出して‥‥」
「ないよ」
「じゃあ抱きついてキスされて‥‥」
「違う。あれはそうなんじゃない」
「違う?先生と生徒が抱き合っていちゃついてて?‥‥まさか付き合ってる相手って‥‥」
「違うに決まってるだろ!あの子は‥‥ちょっと油断しただけだ」
「小柳はいつも‥‥目を離すと誰かにつけ込まれそうだから」
「なんだよ‥‥それ」
「そうだろ?昔だってすぐに誰かが近寄って来て‥‥」
「昔の話はもういいよ!」
「いいってなんだよ!」
片付けていた手を宇佐美に掴まれる
俺は慌てて手を振り上げ、その手を解こうとした
相変わらずの馬鹿力なんだが‥‥
「痛いよ、宇佐美‥‥」
「お前、本当にあの子と付き合ってないんだな?まさか‥‥二股‥‥」
「んな訳あるかよ!違うって言ってるだろ。お前俺の事どう思ってたんだよ」
「離れてた期間に変わってる事もあるだろ?もしかしたら」
「あ?お前本当に‥‥いいから離せよっ!もう関係ないだろ!!」
「関係なくない‥‥俺はまだ‥‥‥‥」
空気が変わったのを察知して俺は立ち上がった
腕に力を込めながら踠く
「宇佐美、この前俺言ったよな?付き合ってるって‥‥」
「聞いた‥‥けど‥‥」
「宇佐美こそ、そんな奴じゃないよな‥‥そうだろ?」
「‥‥‥‥‥‥」
「宇佐美?」
ガチャ‥‥
保健室のドアが開く音
その音で宇佐美の手の力が弱まった
目の前に宇佐美が立っているせいで、入り口に誰が居るのかわからない
「‥‥宇佐美先生?」
この声‥‥
俺は咄嗟に手を引き抜き、声の主の元に駆け寄った
「‥‥ロウ?」
「‥‥‥‥」
俺は黙ってローレンの隣に立ち、ドアを閉める
そしてローレンの手を握った
「ろ‥‥小柳先生?」
「この人が俺の付き合ってる人」
「え‥‥?」
三人に流れる沈黙
もうここでみんな話そう
無駄な行き違いはごめんだ
「だからさっき来てた子がローレンの事が好きで俺に相談しに来た。相談に乗ったらありがとうのハグと‥‥頬にキスして来た。それを見て宇佐美が勘違いした。これがさっきの流れだ」
「‥‥そして俺は小柳の恋人を紹介された訳だ」
「そうだよ。俺はローレンと付き合ってる」
「なのにまだ俺は横恋慕してた訳だ‥‥本当に申し訳ない」
「‥‥いや‥‥別にその‥‥」
宇佐美もローレンも気まずい空気になる
「あの時‥‥家族に反対されて俺が逃げた時に俺たちは終わってたんだよな。なのに未練がましく‥‥もうこんな事はしませんから」
「絶対ですよ?俺最後まで油断しませんからね」
「おい、ローレン‥‥」
「あはははっ、しませんよ。本当に悪かったな、小柳」
「今度会う時は友人で‥‥いてくれたら嬉しいよ」
「そうだな。じゃあ邪魔者は退散しますね」
そういうと宇佐美は保健室を後にした
「ローレンは何しにここに来たんだ?」
「あ、そうだ。アクシアが怪我したって聞いて、見当たらないから‥‥」
「10分前くらいには戻ったけどな。もう戻ってるだろ」
「入れ違ったか」
その時また扉が開く
今日は忙しない日だ
「あ!先生ここに居た!」
「アクシア?お前どこに‥‥」
「俺、先生に話があってさ」
え?
まさかもう告白しようとしてる?
今時というか、この子がせっかちというか‥‥
「アクシア君。ここじゃなくて‥‥」
「え?俺今がいい」
「俺は気まずいが‥‥」
「良いじゃん!俺は気にしないし。ローレン、俺ローレン先生の事好きだよ。好きでした」
「‥‥ありがとう。でも俺には恋人がいるんだ」
「うん、分かってる」
そう言うとアクシアが俺達に向かって駆け寄り、飛びついて来た
「うわっ!お前またっ‥‥」
「先生達も幸せになってね!」
「え?アクシア‥‥?」
今度はすぐに離れて保健室を出て行った
なんだかいつもより疲れた1日だ
「アクシアの事も宇佐美先生の事も‥‥全部終わったのか?」
「だな。今日は疲れたからお前に奢られたい気分だ」
「え?急じゃない?別に良いけど」
奢って欲しいって珍しく言ってくるから、どこか美味しいところに連れて行こうと思ったのに‥‥
俺の手には牛丼が二つ入った袋がぶら下がっている
「これで良かったの?」
「美味しいだろ?」
「そうだけど」
「美味しいしお金もかからないし、家でゆっくり出来るだろ?」
「先生って俺に甘いんだから」
「今更だろ」
本当に
今更後悔しても遅いんだからね?
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