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第二十一話「そこにいた」
息が、上がる。
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坂道を駆け上がる。
足がもつれそうになる。
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「……っ、はぁ……!」
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山本美憂と小太郎は、止まらずに走った。
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そして——
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「……っ」
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見えた。
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夜景の場所。
あのベンチ。
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そこに——
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「……佳」
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いた。
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間違いなく、そこにいた。
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ベンチに座っている。
少し俯いたまま。
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「……佳!」
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美憂が、少し離れた場所から声をかける。
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「……佳!」
小太郎も続ける。
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でも——
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反応がない。
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微動だにしない。
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(……あれ)
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嫌な予感が、走る。
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(……なんで)
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「……佳?」
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もう一度。
今度は、少し近づいて。
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それでも——
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動かない。
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返事もない。
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「……おい」
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小太郎の声も、少し強くなる。
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足が、自然と速くなる。
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近づく。
距離が縮まる。
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「……佳!!」
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すぐ目の前。
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それでも——
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何も、返ってこない。
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静かすぎる。
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(……嘘でしょ)
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美憂の手が、震える。
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そっと——
肩に触れる。
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「……っ」
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冷たい。
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信じられないくらい。
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冷たかった。
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「……佳?」
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声が、崩れる。
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揺らす。
少しだけ。
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でも。
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何も変わらない。
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そのまま。
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止まっている。
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「……嘘」
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理解が、追いつかない。
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「……嘘でしょ」
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何度も、繰り返す。
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小太郎も、手を伸ばす。
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首元。
手首。
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確かめる。
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「……っ」
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言葉が、出ない。
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分かってしまった。
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もう——
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遅い。
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「……佳」
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美憂の声が、震える。
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「……ねぇ」
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返事は、ない。
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ただ。
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そこにいた。
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一人で。
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まるで——
眠っているみたいに。
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少しだけ。
穏やかな顔で。
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その手には——
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一枚の紙。
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そして。
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プリクラ。
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あの日、撮ったやつ。
二人で笑っている写真。
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さらに——
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ぬいぐるみ。
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ゲームセンターで、一緒に取ったもの。
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「……っ」
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美憂の視界が、滲む。
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(……なんで)
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こんなところで。
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(……なんで一人で)
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昨日の光景が、蘇る。
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一人で巡っていた場所。
一人で泣いていた背中。
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そして——
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“愛してたよ、美憂”
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「……っあ……」
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声にならない声が、漏れる。
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膝から崩れ落ちる。
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「……やだ……」
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手を伸ばす。
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触れる。
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でも。
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もう、温もりはない。
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「……やだよ……」
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涙が、止まらない。
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「……ねぇ、起きてよ……」
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願うように、揺らす。
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でも——
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もう、動かない。
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小太郎は、ただ立っていた。
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何も言えない。
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ただ。
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その光景を、受け止めるしかない。
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夜景は、変わらず綺麗で。
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世界は、何も変わらないまま。
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一人の時間だけが——
静かに、終わっていた。
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