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いつの間にかこんないいね貰ってる……嬉しい。いいねしてくれると私のモチベに繋がりますのでどうか、お願いします……。私もできるだけ進めますんで。
ブラックマーケットへと足を踏み入れた、アビドス対策委員会と私たち大人組。
現在、ひょんなことから行動を共にすることになったトリニティの生徒、ヒフミを連れ、未だに彼女を狙っているであろうスケバンたちの目を掻い潜りながら、目的の場所へと向かっているのだが……。
雑多な人々と、怪しげな店がひしめき合う路地裏を進む、その道中。 不意に、それまで黙って前方を歩いていたシロコが、足を止めた。
「ん、アヤネ。私、いいアイディア思いついた」
その静かな、しかし確信に満ちた声に、無線越しの空気が一瞬で凍りつく。
「……何だか、ものすごく嫌な予感がしますが……」
アヤネの震える声が、これから始まるであろう無茶な提案の、不吉な序曲のように響き渡った。
「今からあいつらをぶっ飛ばす」
「やっぱり!?」
キラキラと目を輝かせながら自信いっぱいに告げたシロコに、アヤネは思わず声を漏らしてしまった。
「おっ。やっぱりアンタもそう思ってたか! さっきからずっと邪魔してくる奴らには、もううんざりだもんな!」
「ん、やっぱりヒースクリフとは気が合うみたい」
最近よく見る危険なペアが、いつものように意気投合し、そのまま人目が多い大通りへと駆け出そうとしている。
“誰かあの二人を止めろっ! ここで戦争でも吹っかける気だ!?”
先生の悲鳴にも似た制止の言葉も虚しく、ヒースクリフの狂ったような笑い声と共に、シロコとヒースクリフは前進を続ける。だが、その二人の暴走は、不意に首元を掴まれたことでぴたりと止まった。
「ま、待ってください! ここで戦っちゃダメです!」
「どうして?」
制止させたヒフミが必死に訴えかけるが、納得がいかないシロコは、まるで子供のように手足をバタバタさせながら問いかける。
「だ、だって……。ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安維持局に見つかってしまうかもしれません! そうなったら、本当に大変なことになります……! まずはこの場から離れましょう……!」
こんな、治安という概念が存在するかも怪しい場所に、治安維持局があったとは……。それはともかく、ヒフミの必死の説得に、ホシノが同意した。
「ふむ……分かった。ここはヒフミちゃんの方が詳しいだろうから、従おう」
ホシノの一言により方針が決まり、ヒフミが先導して彼女らの目が渡らない場所まで誘導してもらったが……。ちょくちょくあの2人を一瞥してみると、まだ不満を持ってそうな顔をしてたような顔をしてままならない。
「ここまで来れば大丈夫でしょう 」
先程とは別の繁華街に辿り着き、ヒフミの安堵の言葉を口にする。
「ふむ……ここをかなり危険な場所だって認識しているようだね」
シロコの静かな一言に、ヒフミは「何を当たり前のことを?」と言いたげに、困惑した表情で喋り始めた。
「えっ?と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所の一つですから。ブラックマーケットだけでも、学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……。それに様々な『企業』が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きましたし、それだけではなく、ここ専用の金融機関や治安維持局があるほどですから……」
〈つまり、ここはキヴォトスとは別のルールで動く、独立した都市っていう解釈でいいのかな?〉
“まあ、ここに連邦生徒会の手が届かない独自の機関があるとなると……”
「まぁた、面倒いのと対面しちゃったな……」
「何それ!?銀行とか警察があるんなんて……どれも非認可の組織だよね!?」
「スケールがケタ違いですね……」
セリカが驚愕の声を上げ、流石のノノミも、もはや一つの都市国家と化しているこの場所の異質さに、困惑を隠せないようだ。
「中でも、治安維持局は、とにかく避けるのが一番です……万が一騒ぎを起こしてしまったら、身を潜めるべきです」
「ふーん。ヒフミちゃん、ここのことに意外と詳しいんだね〜」
「えっ?そうですか?危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか……」
ホシノはきょとんと首を傾げるヒフミを見ながら、ふむふむ……と吟味するように声を漏らしながら眺めていたが、突然、何か思いついたような悪戯っぽい表情を見せた。
「よーし、決めた〜。助けてあげたお礼に、私たちの探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうね〜♪」
「え?ええっ?」
突然宣告され、当惑するヒフミ。しかし 仲間達は彼女の気持ちにお構いなしに次々と賛同する。
「わあ☆いいアイディアですね!」
「なるほど、誘拐だね」
「はい!?」
シロコのあまりにもストレートな物言いにさらに混乱するヒフミを見て、流石に見かねた セリカが冷静に言葉をまとめた。
「誘拐じゃなくて案内をお願いしたいだけでしょ?もちろん、ヒフミさんが良ければ、だけど」
「あ、あうう……私なんかがお役に立てるかどうか分かりませんが……アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」
「よぉーし。それじゃあ、ちょっとだけ同行頼むね〜」
ヒフミの同意を得て、彼女は一時的にアビドス対策委員会の案内役となった。これで、少しは安全にブラックマーケットを進めるはずだ。 ……ところで、私たちは一体どこへ向かっているんだっけ? そういえば、具体的な目的地はまだ何も決まっていなかった。やはり、どこまでいっても不安なままのアビドス対策委員会であった。
さて、あれから、一体どれほどの時間歩いただろうか。 例の二つの事案に繋がるような情報は、何一つ見つかっていない。そもそも、情報を得られそうな機関や組織の影すら、見つけられていないというのが現状だ。 皆、あてもなく歩き回ったことで、その顔には隠しきれない疲労の色が浮かび、口からは苦痛と倦怠を示す言葉が、ぽつりぽつりと漏れ出していた。
そんな途方に暮れる最中、ノノミが何か見つけたか明るい声で皆に知らせた。
「あら!あそこにたい焼き屋さんが!」
「あれ、ホントだ〜。こんなところに屋台があるんなんて〜」
「あそこでちょっぴり休みませんか?たい焼き、私がご馳走します!」
偶然見つけた羽を休めるような事態に、皆歓喜の声を浴びせていたが、罪悪感共鳴残酷世界に住んでいた私達は、首を傾げた。
そんな私達に対して、ここの世界の人達は次々とたい焼きという食べ物を購入しそれを頬張ると、美味しそうに味わう表情を見せた。その集団から先生がひょいと身を乗り出 させ、二つのたい焼きを手に持ちながら私達の元へと歩み寄ってきた。
“はい、どうせ知らないとは思ってたから持ってきたよ。まあヒースクリフの分しか持ってきてないけどね……”
「ありがたいな。……何だこれ、魚か?魚のお菓子か?」
“魚……は外見だけだね。中に豆を煮て砂糖を混ぜた甘い材料を詰めたお菓子だね”
先生の説明を聞きながら、横で食べているヒースクリフの手元のたい焼きを見てみる。見た目は魚のようだが、割れ目からに黒く粘着性のある物が入っているのを確認できた。
〈へぇー。そんなのもあるんだ。私はアイスクリームに魚を混ぜたお菓子とかなら知ってるけど……〉
“美味しいの?それ”
〈美味しいらしいよ〉
「……うめぇなこれ。まだあるか?」
“えっ、もう食べ切ったの?そうだな……ノノミの所に行ってみればいいよ”
〈先生が生徒に奢ってもらうのを推奨するのは、どうなの?〉
暫しの休憩と甘い菓子(私は食べてないけど)を味わっていると、今回の状況に違和感を持ったヒフミが話題を持ちかけた。
どうやらここまで情報が出てこないのにはブラックマーケットでも何かと妙であるらしい。普通、ブラックマーケットの企業は、ある意味開き直って悪さをしているので、逆に変に隠したりする事はそうそうないという事。
例えば、とヒフミが指した、 あそこのビルを拠点とするブラックマーケットに名を馳せる闇銀行。キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているらしく、横領などの様々な犯罪によって獲得した財貨が、違法な武器や兵器に変えられ、また別の犯罪に使われるという、とんでもない悪循環が続いているとのこと。
〈都市でも見ない規模の大きい犯罪だな……〉
「あんた達のところでもそんな事あったんじゃないの?」
「いいや?そんな回りくどい事しないで、そこら辺の人ぶっ殺して臓器を売るのが効率いいし、そんな事出来たとしても、規模がデカすぎて、頭に、組織の人ごと粛清されるのがオチじゃねぇか?」
「えぇ!?そっちの世界の方が物騒じゃないですか!?」
〈どっちもどっちじゃない?〉
私のその呟きに誰も反論するものはいなかった。
と、そんな物騒な会話をしていると、私たちの耳に2つの異なる音が耳に入った。
1つはアヤネの警告の声。どうやら近くに武装した集団が接近しているらしい。もう一つはと言うと……。
「うわっ!?あれは、マーケットガードです!」
「マーケットガード?」
「先程お話しした、ここの治安維持局でも最上位の組織です!急ぎましょう!」
もう1つの音の正体を探る前に、切迫詰まったヒフミによって中断させられてしまい、近くの物陰に連れて行かれてしまった。
〈マーケットガードって、そんなヤバいの?〉
“大量の武装した人PMCに、戦車ね……成程、これは危険だね”
〈やっば……〉
物陰に潜め、物々しい集団の行進を眺めていると、仲間達が何か見つけたようだ。
「パトロール?護衛中のようですが……」
ブロロロ……
「トラックを護送してる……現金輸送車だね」
「あれ、あっちは……闇銀行に入りましたね?」
「……ん?待て、嫌な予感がするぞ」
各々がその光景に思った事を呟いていると、その現金輸送車が甲高いブレーキ音を立て、ぴたりと停止した。そして運転席からは、スーツを着たどこか見たことがあるようなロボットが下車し、闇銀行の関係者らしい何者かと話し出す。現金輸送車の外見を見た時にも微かな違和感を覚えたが……まさか。
「こちら、今月の集金です」
「ご苦労様、早かったな。では、こちらの集金確認書類にサインを」
「はい」
「いいでしょう」
「では、失礼します」
そんな妙なやり取りを眺めていると、何かに気づいたノノミが震えた声で口を開けた。
「見てください……あの人……」
「あれ……?な、何で!?あいつは毎月うちに来て利息を受け取ってるあの銀行員……?」
「あれ、ホントだ」
「えっ!?ええっ……!?」
「……どういうこと?」
「ほ、本当ですね!カイザーローンのものです!今日の午前中に、利息を支払った時のあの車と同じようですが……なぜそれがブラックマーケットに……!?」
それぞれが、目の前で繰り広げられたあまりにも異様な光景に困惑していると、アヤネが口にしたとある単語に、今度はヒフミが、これまでで一番と言っていいほど過剰に驚いたのだった。
「えぇ!? カイザーローンですか!?」
「ヒフミちゃん、知ってるの?」
「はい! カイザーローンといえば……あの有名なカイザーコーポレーションが運営する、高利の金融業者です……!」
カイザーコーポレーション……やはり、あの黒服が言っていた企業と関係があったのか。私が一人で納得していると、シロコがヒフミにさらなる疑問を投げかけた。
「有名な……? まずい所なの?」
「あ、いえ……。カイザーグループ自体が、直接的に犯罪を起こしているわけではありません。ですが、合法と違法の間のグレーゾーンを巧みに立ち回り、利益を上げている多角化企業でして……。カイザーは、私たちトリニティの区域にもかなり進出しているのですが、生徒たちへの悪影響を考慮して、生徒会の『ティーパーティー』も常に目を光らせています」
「『ティーパーティー』……。あのトリニティの生徒会が、そこまで警戒するなんてね……」
“つまり、色々と対処が面倒な企業、ということだね……”
「まあ……大体は、そういうことです……。ところで、皆さんの学校の借金というのは、もしかして、そのカイザーローンから融資を……?」
ヒフミの鋭い指摘に、ノノミは困ったように微笑みながら答えた。
「借りたのは、私たちじゃないんですけどね……」
「話すと、すっごく長くなるんだよね~。アヤネちゃん、さっき入っていった現金輸送車の走行ルート、調べられる?」
ホシノが無線で尋ねる。
「少々お待ちください……。……ダメですね。全てのデータがオフラインで管理されているようです。全然ヒットしません」
腐っても大企業ということか。その抜かりない情報管理に、流石のアヤネもお手上げのようだ。
「だろうねぇ~」
ホシノは、まるで分かっていたかのように呟いた。
「そういえば、アイツらにカネ払う時、いつも現金だったよな……。つまり、オレらが必死に稼いだ現金が、そのままこの闇銀行に流れてたってことじゃねぇか?」
ヒースクリフの無慈悲な一言が、その場に重くのしかかる。
「じゃあ何? 私たちは……このブラックマーケットに、犯罪の資金を提供してたってこと!?」
セリカの悲痛な叫びが響き渡る。
「「「「「…………」」」」」
あまりにも衝撃的な事実に、アビドスの生徒たちは、返す言葉もなく、ただ黙り込んでしまった。自分たちが信じてきた正義が、知らぬ間に悪事に加担していた。その残酷な現実が、彼女たちの心を深く抉っていた。
「まだ、そうはっきりとは……証拠も足りませんし……あの輸送車の動線を把握するまでは……」
「……あ!さっきサインしてた集金確認の書類、それを見れば証拠になりませんか?……ってそうですよね、よくよく考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし……無理ですよね」
「いや、いい方法がある」
諦めムードが漂う中、シロコが突然、静かに、しかし力強く言った。
「えっ?」
ヒフミが、驚いてシロコを見る。
「うん。ホシノ先輩、ここはもう、例の方法しかない」
「あー、なるほどねぇ。あれか~。ついに、あれをやっちゃうのか~」
「ん、でしょ? みんな」
「あぁー、あれかー」
シロコの言葉に、ホシノが、ヒースクリフが、なぜか遠い目をして納得している。
“……まあ、今回は仕方ない。許そう……かな……”
〈……うん〉
あの、定例会議で出た、数々の物騒な案。 その中の、どれか。 何のことなのか、嫌というほど分かってしまうのが、悔しくて堪らなかった。先生も、私もそう納得するしかなかった。
「あ……!そうですね!あの方法なら……!」
「何?どういう事?まさか、あれ?」
何をするのか理解できない、いや、理解したくなかったセリカが、恐る恐るシロコに問う。シロコは、キラキラと輝かせたオッドアイで、力強く頷いてみせた。
「嘘っ!? 本気で言ってるの!?」
「あの……私、話が全然見えてこなくて……。『あの方法』とは、一体……?」
未だに状況を飲み込めていないヒフミに、シロコはどこからか例の袋を取り出しながら、静かに、しかしはっきりと宣言した。
「方法は一つ」
「銀 行 を 襲 う」
「はい!?」
ヒフミの悲鳴が、路地裏に虚しく響く。
もう、この流れになってしまったら、誰にも止めることはできない。なぜなら、ここにいる大半が、その狂った計画に、どこか楽しげに賛同しているのだから。 仲間たちは、いつの間にか、あの覆面を次々と被り始める。そして、今か今かと銃を構え、襲撃の準備を整えていく。 信じられないことに、あれだけ反対していたセリカと、無線越しの常識人であるはずのアヤネでさえも……。
「はぁ……マジで? マジなんだよね……。それなら……とことんやるしかないか!!!」
「……はぁ、了解です。こうなったら、私が何を言っても聞く耳を持たないでしょうし……。もう、どうにでもなれ、です」
二人とも、最終的には銀行強盗に合意してしまい、アヤネは『0』と書かれた黄色の覆面を、セリカは『4』と書かれた赤い覆面を、自らの覆面を被り出す始末。
〈なあ、先生。今まで多くの人間を殺してきた私が言うのもなんだが……これは、本当に……〉
“なぁに。ただ、悪を懲らしめるだけじゃないか”
〈……うん〉
先生の、妙に吹っ切れたような言葉に、私はもう、頷くことしかできなかった。私は……って?私はうるさい羅針盤なので……。
〈そういえば、ヒースクリフの覆面はあるの?〉
「オレの頭を見てみろ」
そう言われ、ヒースクリフの顔に視線を向けると、そこには『6』と書かれた紫色の覆面が、すでに被られていた。なんというか、そのとんでもないデザインの覆面に、筋骨隆々の体躯、そしてバットとショットガンという武装。彼が、この中で誰よりも『異常者』に見えるのは、気のせいではないだろう。
次々と奇行に走り出す仲間たちを前に、ヒフミが「えっ? えっ?」と驚きの声を断続的に発していると、その隣にシロコがすっと近寄った。
「ごめん、ヒフミ。あなたの分の覆面は、用意できなかった」
「うへ〜、ってことは、もしバレたら全部トリニティの仕業だって言うしかないね~」
「えええ!? ……え? ……」
ホシノの無慈悲な言葉に、呆気に取られているヒフミ。その姿を見かねたのか、『3』と書かれた緑色の覆面を被ったノノミが、「これなら」と、先ほどまでたい焼きが入っていた紙袋を取り出した。そして、その表面にマジックで雑に『5』と書き、視界確保のための穴を二つ開けると、それを優しくヒフミの頭に被せた。
「番号も振っておきました。ヒフミちゃんは五番です☆」
「オレが6番なのはどういうことだ?」
ヒースクリフが、自分の番号に不満げな声を上げる。
「ん、それは……なんとなく」
「なんで、ごちゃごちゃにしたんだ?」
意味のわからない言い争いはともかく、まだ状況を理解できず、困惑しているヒフミに『1』と書かれたピンクの覆面を被ったホシノが一言。
「えぇっと……どうして私まで……?」
「うへ〜、だってさっき一緒に同行するって言ったじゃ〜ん?」
「わ、わぁ……わ、私、もう生徒会の人達に合わせる顔がありません……」
「問題ないよ!私たちは悪くないし!悪いのはあっち!だから襲うの!」
とんでもない悪の規定され方だ。そう達観しながら眺めていると、シロコから何か一言ちょうだいと言われてしまった。うーん、ここは先生が言ったほうがいいだろうに。まあいいか。
〈銀行を……襲おうか〉
コメント
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強盗をするのを渋々なのがヒースクリフさんの常識が垣間見れる瞬間
出た‐定番のぎんこーごーとー