テラーノベル
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千夏との合作作品です。
桃白(人外)(白雪女)
桃視点
冬。
俺は寒さに弱いタイプだ。
なのに、なんでこんな山奥の雪深いところに一人で来てんだろうな、と自分に問いかけながら、スコップ片手に雪をどけていた。
「……バイト代、良すぎんだよ」
大学の掲示板で見つけた「山小屋管理アルバイト」。スキー場の外れにある貸別荘の雪かきと、簡単な管理をするだけで一日一万円。
うまい話には裏がある、ってわかってたけど。財布の中身は正直だ。
「あと三日。三日だけ耐えれば……」
ガリッ。
スコップの先が固い氷に当たった。
それが引き金になったかのように――ひゅうっと、強い吹雪が俺の体を飲み込んだ。
「うわっ!? さっ、さむ……」
慌てて小屋に戻ろうとするが、視界が白に覆われて前が見えない。
その瞬間、背中に冷たい風と共に――人影が。
「……な、なんや、あんた」
振り返ると。
そこにいたのは、真っ白な髪を腰まで垂らした女。雪よりも白く透き通った肌。薄青い着物に、頬だけほんのり赤い。
「お、おい……こんなとこで何して……?」
「そ、それはこっちのセリフや! あんた、人間やろ? なんでこんな山奥でウロウロしとるんや……!」
彼女はプルプル震えている。いや、寒さでじゃないな。なんか、必死で俺から目を逸らしてる。
照れてる? いやいや、こんな状況で?
「えっと……君は?」
「……うち? ……ゆ、雪女や」
「………………は?」
脳みそが一瞬フリーズした。
「雪女、や! あんまジロジロ見んといてや、恥ずかしい……」
「いや、照れてる場合か!? 俺今、命の危機なんだけど!?」
「……あ、そうやったな。ほな――」
彼女はふわりと俺に触れた。
すると吹雪が嘘みたいにおさまって、周囲の視界が開ける。
「……え?」
「……人間一人くらい、守ったるわ」
そう呟いて、またぷいっと横を向く雪女。
おいおい、なにこのラブコメ展開。
「で、なんでうちの小屋に勝手に入っとるん?」
「いやいやいや! 俺が先に管理してたんだって! あんたこそ、なんでここに?」
「……そ、そんなん、雪女が雪山におるのは当たり前やんか……」
小屋の中、ちゃぶ台を挟んで睨み合う俺と雪女。
彼女は「初兎(しょと)」と名乗った。どうやら雪女界(?)でも珍しい名前らしい。
「で、なんや。人間と同居とか初めてやから、めっちゃ緊張するわ……」
「いや、俺もだよ!? そもそも人外と住むの初体験だし」
「……なんや、人外言うなや。女の子やぞ」
そう言って初兎は頬を赤くする。
やばい、見た目はめちゃくちゃ美人。だが、性格があまりにも照れ屋で、話すたびに「もうええ!」と顔を真っ赤にして背ける。
「ご飯どうする? 俺が作るか?」
「……え、うち、食べへんし」
「は?」
「雪女やしな。人間の飯なんか食べたら腹壊すで」
彼女はちゃぶ台に出されたカップラーメンをつんつんしていた。
なんか猫みたいだな。
「じゃあ、普段なに食ってんだよ」
「……氷」
「氷!?」
「ここの氷はな、特別やから。おいしいんやで」
そう言って冷凍庫から氷をがりがりかじりだす。
ああ、なんか犬みたいでもあるな。
「な、なにジロジロ見とんねん! うちが氷かじるの、変やと思っとるんやろ!」
「いや、むしろ可愛いけど」
「~~~~っ!? し、知らん!」
初兎は顔を真っ赤にして布団に潜り込んだ。
次の日。
「……な、ないこ」
「ん?」
「……一緒に、雪だるま作らへん?」
突然の誘いに俺は目を瞬いた。
小屋の外は一面の銀世界。初兎は雪を両手で集めながら、チラチラこっちを見る。
「雪女って、雪だるま好きなの?」
「ち、ちゃう! べ、別に……人間の遊びに興味あるとかちゃうし!」
「完全に興味あるやつじゃん」
俺は笑いながら雪を丸め始めた。
不器用な初兎は、何度も雪玉を崩しては「もうやめる!」とふてくされる。
でも、諦めずにまた雪を集めて、結局俺よりでかい雪玉を作り上げた。
「やった! 見たか! ないこ!」
「おお……すげえな」
「えっ……そ、そんな褒められたら……うち……」
初兎は耳まで真っ赤にして雪玉の影に隠れる。
いや、そこまで照れるか普通。
そのとき、雪が舞って――俺の肩にふわりと積もった。
初兎はそれをじっと見つめて、ぽつりと呟く。
「……あんた、寒くないんか?」
「ん? まあ、正直凍えそうだけど」
「……うちのそば、おったら……少しは楽になるかも」
そう言って、そっと俺の手に自分の冷たい手を重ねてきた。
「ひゃっ!? 冷たっ!」
「……あ、あかん!? うち、やっぱ触ったら凍らせてまうかもしれん!」
「え、ちょ、ちょっと待て――」
慌てて手を離そうとする初兎。
だが、俺は逆にぎゅっと握った。
「大丈夫。冷たいけど……心地いいよ」
「な、なに言うとんねん……ば、ばかぁ……」
初兎は顔を真っ赤にして、雪だるまの陰に全力で隠れてしまった。
それから二人で作った雪だるまは、少し歪で不格好だったけど。
なんだか温かい気持ちになった。
初兎は照れ隠しに「しょーもな!」とか言ってたけど、口元は緩んでいた。
俺は確信した。
――この雪女、絶対放っておけない。
そしてその夜、布団に潜りながら思った。
「……てか、これ、ラブコメだよな」
翌朝、初兎の「う、うちの寝顔見てたやろ!!」という怒号で目覚める俺。
――奇妙で笑える共同生活は、まだ始まったばかりだった。
短くてごめんね😭
コメント
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桃白てぇてぇッッッ
😭😭😭😭😭😭💖💖 桃白しかかたん