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夏の穂||フォロバ|低浮
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第6話 熱を帯びる雪解け
出会ったあの日から、僕たちの関係は急速に、そして歪(いびつ)に形作られていった。
ピッチの上では、王と影。
カイザーが走れば、僕のパスは磁石のようにその足元へ吸い寄せられる。僕たちのコンビネーションは無敵で、クラブの誰もが僕たちに一目置くようになった。
けれど、ピッチの外での関係は、もっと曖昧で、もっと危ういものだった。いつも二人で居残って練習をして、同じ部屋で遠征の夜を過ごす。カイザーは当然のように僕の領域に踏み込んできて、僕もまた、彼に浸食されることを心地よく感じていた。
それが決定的に変わったのは、出会ってから1年が経とうとしていた、やはり雪の降る夜だった。
「冷てぇな。ネス、こっちに来い」
クラブハウスの誰もいない更衣室。シャワーを浴び終えたカイザーは、備え付けのソファに深く腰掛け、僕を手招きした。彼の長い足の間に僕を座らせると、濡れた髪から滴る雫が、僕の肩にぽつぽつと染みを作っていく。
「カイザー、髪を乾かさないと風邪を引きま……」
「うるさい。黙って俺に暖められてろ」
後ろから回された大きな腕。僕の体に預けられる、彼の心地よい体重。トク、トク、と背中越しに響くカイザーの心音が、僕の心臓の鼓動と重なっていく。
ただのチームメイトにしては、あまりにも近すぎる。ただの「影と額縁」にしては、あまりにも熱を帯びすぎている。
僕は自分の胸の痛みに、もう気づいていた。これはただの憧れじゃない。忠誠心でもない。僕は、この美しい王様を、一人の男として狂おしいほどに求めてしまっている。
「……ネス」
「はい、カイザー」
「お前、俺が他のやつにパスを出すなと言ったら、どうする?」
耳元で囁かれた声に、肩がびくりと跳ねた。
振り返ると、至近距離にあの鮮やかな青い瞳があった。いつも不敵に笑っているはずのその瞳が、今はひどく真剣で、どこか独占欲に飢えた獣のような光を宿している。
「そんなの……言われるまでもありません。僕の最高は、いつだってあなただけのものです」
「口先だけなら、誰でも言えるぞ」
カイザーの指先が、僕の唇をなぞる。その指が少しだけ震えていることに気づいた瞬間、僕の理性は消し飛んだ。
「嘘じゃありません……! 僕は、あなたのものになりたい。フットボールだけじゃなくて、僕の体も、心も、全部……カイザーのものになりたいんです……っ」
抑えきれなくなった感情が、言葉となって溢れ出た。
それを聞いたカイザーは、満足げに、だけどどこか愛おしそうに目を細めた。
「合格だ。だったら、お前の全部を俺に寄こせ」
重なる唇は、外の吹雪を忘れさせるほどに熱かった。
何度も何度も、確かめるように貪り合う。カイザーの手が僕の服の中に滑り込み、肌に触れるたび、そこが熱く焦げていくような錯覚に陥る。
「ネス。お前は一生、俺のものだ」
「はい……はい、カイザー……!」
付き合おう、なんてありきたりな告白はなかった。
けれど、この夜、僕たちは互いを縛り付ける見えない鎖を固く結び合った。これが、のちに僕をあれほどまでに苦しめ、そして救うことになる、「恋人」としての僕たちの始まりだった。