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セレン「ふぁ〜あ……」アイラ「セレン、おはよ」
セレン「おはよ!」
冬の突き刺すような寒空が、かえって心地よいほどに晴れ渡った朝だった。
セレン「ねえ、隣町まで買い物に行かない? 新しい魔導書の入荷日なの」
アイラ「いいね、行こう!」
私たちは軽い足取りで駅に向かった。
――ボーーーッ!
セレン「急いで! 発車するわよ!」
駅員の急かす声に背中を押され、私たちが飛び乗ると同時に、鉄の塊が滑り出した。
セレン「……ねえ。この列車、少し速くない?」
アイラの言葉に、私は窓の外を見た。駅が、景色が、恐ろしい速度で後ろへと溶けていく。
セレン「各駅停車のはずよね? 様子を見てくるわ」
アイラ「いってらっしゃーい……zzz」
相変わらず緊張感のないアイラを置いて、私は車両の最前方へと向かった。
車掌室の扉を開けた瞬間、心臓が凍りついた。
セレン「……えっ?」
いない。車掌も、運転士も。
ただ、加速レバーが限界を超えて固定され、真っ赤な警告灯が血のように明滅していた。
セレン「うそ、でしょ……」
無人の運転席。列車はまるで、意志を持った獣のように速度を上げ続けている。
私は咄嗟に予備の非常ブレーキを掴んだ。
セレン「止まって――!!」
キーーーーーンッ!!
鼓膜を切り裂く金属音が響き、車輪から真っ赤な火花が狂ったように噴き出す。だが、止まらない。
あと一秒、早く気づいていれば。あの時、買い物になんて誘わなければ。
後悔が鋭いナイフのように胸を抉る。
私は震える手で通信用の水晶を叩いた。
セレン「アイラ! 起きて! 全員消えたわ、この列車、暴走してる!」
アイラ『……はっ!? ちょっと、冗談でしょ!?』
セレン「乗客を最後尾へ! もうすぐ終点。
『断崖の駅』に着いてしまう……!」
激しくのたうつ車内で、私たちは叫び続けた。
アイラ「走って! 命を優先して!!」
パニックに陥る300人の乗客。窓の外では、線路が摩擦で、白い煙が立ちこめている。
セレン「アイラ! 転移魔法よ! 無理を承知で、一人でも多く外へ弾き飛ばして!」
私たちは限界を超えて魔力を振り絞った。空間を裂き、悲鳴を上げる人々を次々と沿線の草原へと押し出す。だが、列車の速度はすでに物理法則を嘲笑っていた。
厚さ五メートルの防壁が、目の前に迫る。
セレン「間に合わな――」
――ドォォォォォンッ!!
何百トンもの鋼鉄が、壁を破壊し、宙に浮いた。
(私が、もっと早く……)
内臓が潰れる衝撃。視界が真っ赤に染まり、私の意識は暗転した。
……。
……気がつくと、私は冷たいコンクリートの上に転がっていた。
アイラ「……起きた?セレン」
アイラの声だ。いつになく低く、震えている。
セレン「ええ……。……痛い、わね……」
首から下がぐちゃぐちゃに潰れていたはずの私の体は、ドクドクと不気味な音を立てて再生を終えていた。
指先から、腕から、心臓から。たとえ塵になろうとも、強制的に「元通り」にされる。
それは、死すら許されない**「無限の牢獄」**。私たちが魔女と呼ばれる所以だった。
ふと前を見ると、真っ二つに折れた列車の残骸があった。
黒煙と血の匂い。その傍らで、一人の少女が動かない塊に取りすがっていた。
少女「おかあさん……っ! おかあさーーーん!!」
冬の凍てつく空に、少女の絶叫が突き刺さる。
セレン「……助けられなかった」
アイラが、再生途中の震える手で顔を覆った。
アイラ「……大丈夫?、セレン」
アイラが私の肩を抱く。
セレン「……うん」
私たちは沈黙し、ただその絶望の声を聞き続けることしかできなかった。
女性「あの……。魔女さま……?」
ふいに、煤だらけの女性が歩み寄ってきた。先ほど、私が無理やり空間に放り投げた人だ。
女性「ありがとうございました。あなたたちが、娘を、私を……。本当に、ありがとうございました」
その震える感謝の言葉を聞いた瞬間、私は我慢できずにその女性を抱きしめていた。
セレン「よかった……本当に、生きててよかった……」
助かった命の温もりだけが、冷え切った私の心を辛うじて繋ぎ止めていた。
完璧にはなれない。誰もが救えるわけじゃない。
それでも。
私たちは、この残酷な世界に希望の光がひとしずくでもある限り、何度砕かれても立ち上がるのだ。