脳裏にかつて彼女が演奏していたアイネ・クライネ・ナハトムジークが流れる。まるでこの状況を祝福しているのかのように。ああ、なんて残酷なのだろう。傷口がジンジンと痛み、視界も悪くなってきた。彼女は最初から分かっていたのだ。私が過去の話をしない理由を。
暗転
「大丈夫?私が手伝ってあげるわ。」
と彼女が手を差し伸べて来た時から、私は彼女に惹かれていた。私たちは音楽学校で出会った。私はピアノを演奏していて、彼女はヴァイオリンを演奏していた。私たちは音楽の授業で一緒になり、彼女の演奏に魅了された。彼女の美しく、情熱的な演奏は私の心に深く刻まれていた。
ある日、私はクラスの花さんに目をつけられてしまった。なぜかは分からないが、彼女が言うには、私が花さんの彼氏に色目を使ったらしい。私に色目を使った覚えはないし、その人とはただ委員会が一緒で少し話しただけだった。しかし、どんどんいじめは加速していくばかりだった。でも、私は誰にも相談することが出来なかった。もちろん、彼女にも。心配をかけるのが嫌だった。
そして、また花さんに呼び出しを食らった。いつか収まるだろうという希望と今日は何をされるのかという恐怖に怯えながら、私は花さんの元に向かった。
「あのさあ、いい加減に私の彼氏に手ださないでよ!!お前さえいなければ!!お前のせいで!!」いつもよりさらに怒った様子の花さんに違和感を覚える。すると、急に視界の端に赤いものが映る、花さんの手元を見ると、その手にはライターが握られていた。やばい、と脳にサイレンが鳴り響くが、体は恐怖で動かない。
「お前がそもそもいなければよかったのよ!!そうすれば私が彼に振られることもなかった!!」
そして、花さんが恐怖に体が固まる私にライターをつきつけようとした時、彼女は現れた。
「私の友達に手を出さないで。」
その言葉を聞いた瞬間、私は目を見開いた。上を見上げれば、彼女がいる。彼女の、燃え尽きるような目に惹かれた。彼女の声には激しい情熱が込められていた。私はその瞬間、彼女に恋をしていた。
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