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夜の明かりに照らされて、今日もレストランのドアが解錠された。プライベートが完全に守られた空間で誰にも気にすることなく色とりどりの料理と、美しい水面にどのお客様も上機嫌で手を伸ばす。

それが、ここ。レストラン・マスカレードである。

「ようこそ」

口元を緩ませ、仮面の下で今日も俺は笑っている。




本日ご予約のお客様の名簿を眺め自然と口角が上がる。「V.I.P」と書かれた写真の横には最近ご贔屓にしていただいている彼の名前が載っていた。

「今日は、がんばるぞー!」

浮かれすぎたのか、ロッカーで着替えていたナオから怪訝な目で見られたが今だけは許してほしい。

「なに浮かれてるんですか?」

怖いんですけど、というナオの言葉に曖昧に微笑み返せば俺の手元にあった資料をちらりと一瞥するとなるほど、と納得したように頷いた後にため息が聞こえてきた

ちょっと心外

「浮かれすぎてへましないでくださいね」

「わかってるよ」

ロッカーに備えられた鏡で髪をセットし確認する。うん、良い感じだ。スーツにもホコリはないし、皺もない。今日のスーツはデザインがシンプルなのでいつも胸元にアクセントとしてブローチをつけるが、今日は彼をイメージして少しテイストの変わったものをチョイス。和紙で作られているので模様もとても凝っている。

横を向いたりして違和感がないか確認すると、ナオが珍しそうに胸元のブローチを覗き込んできた。

「それ、花札…ですか?」

「お、よく知ってるなナオ!そうなんだ。この前いらっしゃったときに耳飾りが花札だったのを思いだして店長…じゃなかったオーナーにサンプルだったものを貰ったんだ」

良く見てますね、と感心したように眺める彼にくるりとその場で回って見せる。うざったそうにしてくるナオに俺はめげずにどうだと胸を張った

「そのうるさいドヤ顔がなければ完璧ですよ」

「なんとでも言え」

靴もシンプルに今回は光沢のない革を選んでみた。うん、俺にしてはなかなか。まあこれもセンスがないと嘆いた先輩の教育のおかげだな。いつの間にかナオも準備を終えており俺の前を行っていた

置いていきますよ、と振り向いた彼の目元には仮面が付けられており俺も胸元の赤い仮面を取りだした

「よし、行くか」




黒光りをする高級車が入口に横づけされる。運転手が扉を開けると普段とは違い少しラフなスーツを身にまとった本日最後のお客様が下りてきた。

「ようこそ。レストラン・マスカレードへ」

俺の貼り付けた笑みにひらりと片手で答える彼は、今日もとても輝いている。

「よう、久しぶりだな」

「お待ちしておりました。鶴蝶様」

引き締まった体を引き立てるような、ぴったりのスーツは普段の黒いものではなく。ジャケットはストレッチの効いた素材で、少し赤みのはいったものだったが彼の健康的な肌に良く映えていた。

「直前の連絡だったのに、悪いな」

「とんでもありません。鶴蝶様でしたらどんな日でもおもてなしいたします」

鶴蝶様から店に来ると連絡があったのは3日前でこのレストランは最低でも5日前までに予約をすることが規約にある。プライベートの利用だから、と申し訳なさそうに告げた電話越しの声に俺は何としてでも空き枠をもぎ取ると決意した。…というか、鶴蝶様なら俺はいつでも歓迎なので予定を無理にでも捻じ込んでしまった。

事後報告ではあったがオーナーも上客が利用するとあって予約は最低1日前でも厭わないと言ってくれた。さすが金に目のない人。ブレなくて逆に感謝したくらいだ

「本日は2名様でいらっしゃると伺ったのですが」

「ああ、今日は―――」

鶴蝶様の声を遮るように、彼より少し高い声が後ろからかかった。


「おい、下僕いつまで立ち話してんだよ」


不機嫌さを隠そうともせず、ふらりと現れた男性はこれまた顔の整ったイケメンさん。俺は少し驚いたが、マニュアル通りに慌てて胸に手を当てて頭を下げる。同伴者の名前まで聞いていなかったのだが、どこかで見た顔に頭の中で記憶を引っ張り出し何人もの名簿を思いだして、鶴蝶様を小突いた彼の名前を探す

この方はたまにいらっしゃる…廊下でも何度かすれ違ったことがあった。担当の卓の人はこれまたコロコロ変わるので、問題のありそうな客だとは思っていたが…まさか鶴蝶様のお知り合いだとは。

そういえば、全然気配がなかったな…。

「申し訳ございません黒川様。ようこそ、レストラン・マスカレードへ」

「…」

透き通るような銀色に輝く髪、そして健康的な褐色の肌。その中心にはアメジストをはめ込んだかのような鮮やかな薄紫色の瞳が伺える。着る人を選ぶであろうレースで覆われたロングコートをサラリと羽織った彼は苛立たしさを隠そうともせずに眉間に皺を寄せていた。これまた顔の整った客に、俺のライフは少し削れた。世の中とはなんと理不尽なのか…。

少し不機嫌そうに眉を顰める彼にもう一度深く頭を下げれば、彼―黒川イザナ様は俺の事を一瞥してふん、と息を吐いた。

「早くしろ」

「かしこまりました。鶴蝶様、お荷物をお預かりいたします」

俺の言葉に鶴蝶様は手に持っていたハンドバッグを俺に預けた。その時、耳に寄せた鶴蝶様は俺にしか聞こえないように声を潜めた。

「お前、イザナと面識あったのか?」

「直接お会いするのは今日で3回目です」

それ以上は守秘義務がありますので、と眉を下げれば鶴蝶様はそうかと引き下がってくれた。この潔さ、どこかの物騒ブラザースも見習ってほしい

「ご案内いたします」


迷路を辿り、部屋につけば鶴蝶様の椅子を引きに行こうとすれば目線で制される。

その様子にサッと方向を変え黒川様の椅子を引けば彼はそのまま席に着いた。彼らの関係性がわからないが、先ほどの口ぶり「下僕」っていってたから鶴蝶様の主人…なのか?

勘ぐるわけではないが、鶴蝶様は梵天の最高幹部であり幅広く顔が利く。黒川様と知り合いであることは何ら不思議なことではない。

でも、なんというかお二人の空気感が他の方といらしたときの空気感と何かが違って見えた。

「おい、お前」

ぼーっとしていたらしくイザナ様に強めに呼ばれると慌てて彼の傍による。

「も、申し訳ございません。ご用でしょうか?」

「とっとと飯持ってこいよ、こっちは腹減ってんだからな」

「かしこまりました。お飲み物はいつも召し上がる赤ワインでよろしいですか?」

こちらにご用意しています、とワインを見せる。本日のメインはお肉料理ですので、ぴったりだと思います。そういった俺にイザナ様はわずかに目を見開いた。

その反応を不思議に思っていれば、向かいにいた鶴蝶様から声がかかる。

「お前、イザナの頼むものも把握しているのか?今日は予約したときこいつの名前出してなかったのに」

どうして、と言われても…

鶴蝶様の言葉に、俺は無言で差し出されたグラスに黒川様のお気に入りのワインを傾けながら続けた。

「黒川様は鶴蝶様たちの次にご贔屓にしていただいている常連様ですので…好みやお飲み物も従業員であればある程度は把握しております」

もちろん、卓の担当ではないので完璧に把握はしていないが…この一回くらいなら乗り越えられるくらいに嫌でも印象に残っている。一度だけ垣間見た卓は戦々恐々としていて、足早に立ち去ったことを昨日の様に覚えている。

卓の担当は梵天よりもサイクルが早く次々と店員が負傷していく…ある意味かなり有名なお客様で要注意するべき人間だと認識している。

鶴蝶様はクイッとワインをあおり、黒川様をチラリと見た。そんな視線の先にいた彼は動じることなく注がれたワインをグラスをゆっくり回して眺めている。

そんな様子に俺は苦笑いを浮かべて二人の前に料理を並べていく。コースターの位置を少し直し、所定の位置に配置すれば華やかな料理が白い空間を彩った。

中心にバケットを置いて一歩下がれば、鶴蝶様は片手をあげて俺にお礼をしてくれた。

「今日も美味そうだな」

「本日は、お二人のお好きなものをご用意いたしました…スープは器が熱くなっておりますのでそのままお召し上がりください」

俺の言葉にわかったと頷く鶴蝶様…ああ、とても優しい。どこかのピンクさんとは大違いだ…俺が何をするにも噛みついてくる彼がいないのはこんなにも気持ちに余裕ができる…。

あ、と思ってこのタイミングで鶴蝶様のオーダーされていた。ワインを取りだした。お肉料理にはもちろんだが、この後に来る料理には特別合う!とシェフが得意げに笑っていたのを思いだす。そんなにすごいワインを知っていた鶴蝶様はやっぱりすごい人だ。そしてその人が慕っている黒川様はもっとすごい人なのかも…。

「こちら、リクエストいただいたワインです。とても相性のいいお料理ですので是非ご賞味ください」

トクトク、と注げば鶴蝶様は香りを楽しむようにグラスに顔を近づける。

「ああ、ありがとう」

「…」

「それにしても、お前はなんでも知ってるな…俺達より、いろんな事情にくわしいんだろうな」

探るような視線に苦笑いを浮かべれば、緩く首を横に振る。

「とんでもありません。お客様の会話は全て忘れておりますので…それよりも、私にとってはお二人がお知り合いだったことが驚きです」

そういって空いた黒川様のグラスに同じものを注いで笑みを浮かべれば、横から鋭い視線が飛んでくる

「店員の分際で客の詮索すんじゃねーよ」

「っ!、ご気分を害してしまい、申し訳ございません。そんなつもりは無かったのですが…」

しくじった…。鶴蝶様と来てるから油断してた。額に脂汗が浮かびじっとりと流れるのがわかる。黒川様は視線を反らすことなく俺を見つめていたが、俺もここで視線を反らしたら負けだと思ってジッと見つめ返す。

「イザナ、やめてやれよ。武道だって悪気はない…」

「あ?下僕てめえも口答えするなよ…イラつかせんな」

ジッと俺を見つめたまま肩肘をテーブルについて頬杖を突くと、黒川様は飲みかけたグラスを手に取りゆっくりと傾けた。

赤い雫がグラスを伝って、白いシーツにシミを作っている。


「!、イザナ」

わざと傾けられたグラスに慌てて彼のスーツを確認する。シミはついていないみたいだけど、これは随分と機嫌を損ねてしまったらしい

「あ?空になっただろうが」

ほらよ、とまたグラスを持ち上げられる。言わなくてもわかる…注げ、と目線で命令されるのだ。

「畏まりました」

笑みを崩さずに同じものを注げば、また彼は同じ行動を繰り返すのだろう

俺を試しているのか、それとも…

そう思って鶴蝶様を見れば、彼も困り果てた表情をしている。まあそうだろうな。彼の性格は店での対応を任されたスタッフの裏口コミランキング下位常連…連れてきた鶴蝶様のメンツは保たれない。うーむ、と考えて注ごうとしたグラスから瓶を離せばイザナ様は何してる、と睨みを鋭くした

それに伴って俺はそのまま代わりの料理を目の前に出した。

「黒川様、お腹すいてませんか?」

ここの料理は絶品です!と自信ありと胸を張って言えば俺の態度に彼の機嫌は急降下していく

「あ“?ここの店員は客の要求にも応えられねえのか?」

いいから酒よこせ、と黒川様はいっそうに睨みを強くする。俺はそれに泣きそうになるが何とかグッとこらえ先ほどと同様に料理を目の前に出した。

口元に笑みを忘れず、いたわる様にそっと皿を前に出す。そして、気が立っているお客様にはなるべく刺激しないように立って接客はせず、目線を合わせて話す事。オーナーや先輩たちに教えてもらったことだ。サッと片膝を折って跪くように黒川様の傍に控えれば彼はうかがうように視線を向けた。正直すぐにグーパンが飛んでくると身構えていたので、話を聞いてくれる姿勢に俺は少しだけ安堵した。


「黒川様、失礼ながら前回お越しいただいた時よりも疲れていらっしゃる印象を受けました。いつもここに来るとあなたはお酒をグラス半分飲んでからバランスよくお食事を取られていました。本日は、いささかお酒のペースが速い様子…お酒は逃げませんので、どうかお料理も召し上がってみてはいかがかと」

「…お前いなかったろ、前に俺がきた時」

「ふふ、実は俺は扉の外で下膳や配給のため待機していたんです。テーブル担当ではありませんでしたが扉の外から皆様の様子を少しだけ見ていました」

扉が開くのはほんの一瞬。完全に他の視線を気にせずくつろぐ空間を提供しお客様に不快な思いをさせないために最低限の動きで連携が取られている

「だからなんだって言うんだ」

黒川様はサッと俺の手元からワインの入った瓶をひったくるとそのままグラスではなく俺の頭に向かって傾けた

「あ…」

鶴蝶様の焦ったような顔が見る見るうちに赤くなっていく。頭から注がれたワインは髪を伝って白いシャツを赤く染め、この日のために用意した花札のブローチも色が変わっていく

黒川様はあっけにとられる俺の様子にそっと微笑むとそのまま残った瓶をあおる。その光景に咄嗟に黒川様の手を掴んで瓶をテーブルの上に置けば今度は黒川様が呆気にとられた表情をしていた。

やってしまった。つい、手が出たのだ。これ以上飲ませてはいけないと思って…とは言い訳になるが黒川様にうまく言えなくてお互いにじっと見つめ合う

(や、やばい。なんか言わなくちゃ)

あ、と息が漏れる。唇を伝ってワインの味が口に広がった。渋みはなくまろやかな口当たりで、飲みやすい。料理の味と見事に計算されたこの雫は、黒川様のために鶴蝶様のオーダーされたものだった。

「あ、やっぱり。美味しい」

「は?」

俺の呟いた言葉に、黒川様はまた眉を顰める

「これ、このお料理に合います」

さすが、鶴蝶様ですね。と視線を移せば彼は俺の恰好に目を丸くした後「そうか」と少し満足げに頷くのだった。

「おい」

ワントーン低い声に呼ばれ、また視線を黒川様に移せば振り向いた俺の視界のすぐそばに彼のアメジストの瞳が覗き込むようにキョロリと動いた

「く、ろかわさま」

「…」

ジッと見つめる彼にたじろぐと黒川様は俺の腕を強引に掴みグイっとそのまま引っ張られた。俺は抵抗する間もなくその勢いのまま完全な膝立ちで彼の胸に飛び込んだ。

「わ、ぁ…」

自分の状況を思いだしお客様の服にシミが付く?!と慌てて顔をあげ離れようとすれば一層にその拘束は強くなった

片腕でまとめて腕を拘束され、顎を掴まれた俺は服のクリーニングの事しか考えられない…。だって黒川様はめっちゃいいにおいするし、触ってわかったけどこのスーツ俺が思ってた何十倍もいいとこのブランドなんだもん!!!

いったいいくら請求されるんだろう…うう、と涙をこらえて黒川様を見れば彼は今までとは違う温度で俺の事を見つめていた

「へえ…」

機嫌のよさそうな、声に鶴蝶様が「おい、イザナっ!」と焦ったように席から立ち上がった。その行動に黒川様はふんっと鼻で笑うと俺の頬についていたワインの雫をベロリと舐めとった

「…まあ、わるくねえな」

ぺろっと舌を出して見せつけるように俺の前で指を舐める。色気マックスな彼の仕草に同性のはずなのに羞恥心から顔に熱が集まっていく。

「ほぇ…」

「ぶはっ!何つー声出してんだよ。はは、ウケる」

いや、全然ウケてない。破面する黒川様には申し訳ないがちっとも笑えない。ていうか今、この人に顔舐められた?!

「ぬあ?!」

ズサー!と機動力マックスで後ずされば、黒川様はそれもツボだったのか可笑しそうに俺の事を眺めている

「イザナ、からかうのはよせ」

これ揶揄う領域超えてませんか?!悲痛な俺の突っ込みは飲み込んで黒川様を改めてみるとパチリと彼を視線が絡んだ

「おまえ、今日から俺の下僕2号な」

下僕の先輩はこいつ、と鶴蝶様を指さすと「今度から、俺が来たらお前担当な」と恐ろしいほど晴れ晴れとした彼の姿に俺は今日一番の縋る視線を鶴蝶様に送った。

その視線を受けた鶴蝶様は秒速で目を反らし、彼の言うことは絶対なのだと空気で感じ取った。ていうか、いつの間にか料理食べ始めてる。

終わった。グッバイ俺の安息日セラピー…。イザナ様同伴確定の瞬間じゃん

俺は慌てて黒川様の平らげた皿を片付けると、黒川様は棒立ちになっている鶴蝶様に視線を向けた

「まあ、酒はわるくない。好みの味だ」

黒川様はそういってお食事を再開されると鶴蝶様はふっ、と肩の力を抜いて「そうか」と穏やかに笑っていた

(くそぅ…なんでそんな顔するんですか?!鶴蝶様。俺が責められないじゃないですか)

この前蘭様に聞いたのだが、鶴蝶様はマイキー様達と居ない日は大体「大将」と呼ばれる方とともにいるらしい。おそらく、いや…十中八九。今まさに目の前で俺のおすすめした料理を頬張っている彼の事だろう。どういう経緯かも知らないし、知るつもりもないけどこの空間で俺の味方はいなくなった。

「黒川様は今後禁止な。苗字は気にいらねえ」

もう、どうにでもなれ。

畏まりましたイザナ様…とぎこちなく頷けば、早く慣れろよ?と妖艶な笑みを口元に携えた彼の薄い唇が弧を描く。

チラリと覗いた白い歯と目を引く赤い舌に、先ほどの行為が蘇って頬を触ってしまう。また赤くなった顔を隠すようにふい、と視線を外した。

なんなのあの色気…もはやこわい。

鶴蝶様はイザナ様に意見はしないし、むしろ付き従っている。くそう。下僕ってなに?!俺なにも出来ないし何もしたくない!!



順調に空になる皿を下げて、着替えるためにいったん部屋を後にしようと扉に近づけば後ろから大きな影が俺を覆った

「え、と。鶴蝶様」

振り向いた先には椅子から離れ、すぐ後ろに鶴蝶様がいた

テーブルで新しく注がれたワインを嗜むイザナ様をチラリとみれば、鶴蝶様は申し訳なさそうに眉を下げた。そのまま、チラリと視線だけ後ろに向け俺の視線に合わせるように耳元に唇を寄せ小声で囁いた。

「タケミチ、今日は悪かったな。早く着替えて来た方がいい。空調が聞いてるから、体を冷やすなよ。イザナは…多分お前を気に入ってるから近いうちにまた来ると思う」

「あ、俺は大丈夫ですよ!ちょっと驚きましたけど…体は丈夫な方ですし」

あははーと力こぶを作って笑みを浮かべれば鶴蝶様はまた申し訳ない、と呟いた。嫌われるよりは、気に入られた方が何かと仕事はしやすい…はず。

「それより、鶴蝶様はちゃんとお休みできていますか?この前も来た後にすぐお仕事だって仰ってましたし」

「ああ、今日はこの後帰るだけだから何もない。ここの料理食ったら帰って寝るよ」

何もない限りは…という彼の小声に引きつりそうになる口元をしっかりと上げて笑みを浮かべる。心配しました、と告げれば鶴蝶様はありがとうと頬を緩めた

(い、癒される…)

滅多にない常識人との会話にジーン…と感激していると鶴蝶様はそのまま俺の胸についているブローチをつい、と指で撫でた

「なあ、これ…」

「あ、…気づいてくれたんですね。実はこれオーナーに用意してもらったんです。以前、鶴蝶様がいらしたときに花札の耳飾りが印象的で」

今日も、よくお似合いです。と口にすれば彼は少し恥ずかしそうに視線を反らした。

なんだか、バレたらバレたで…この言い訳が少し恥ずかしい。意識して準備したと堂々と宣言した言葉に気まずい空気が流れた。

「あ、俺…そろそろ行きますね」

居たたまれなくなって、再び扉に手を掛けようとすれば鶴蝶様の手が俺のブローチに伸ばされる

和紙で出来た生地にはじんわりと赤い模様が浮かんでいる。花札特有の赤と白の境目が無くなり、ワインで染まったピンク色のそれは優しく鶴蝶様の手に包まれ、愛おしむ様な視線に思わず俺の視線は釘付けになった。

「あ…」

「お前も、良く似合ってるよ」

ブローチに触れた手を滑らせて俺の頬にそっと添えられると、ごつごつと硬いのに壊れ物を扱うかのように優しい手つきだった

「なあ、良ければこれ…貰っていいか?」

「え、これですか?!いけません!お客様に汚れたものをお渡しするなんて…」

「これがいいんだよ」

頼む、と困ったように笑って言われれば渋々ながらも頷くしかない。俺の答えに鶴蝶様はそっと微笑むと俺の胸元から器用にピンを外して大事そうにそれを握りしめた。

そして、そのまま肩に手を置くと俺を扉の方へ向き直らせる様にくるりと回転させる。

両肩に添えられた手がゆっくりと撫でるように腕に降りてくれば、緊張して俺の体は強張った。ピタリと止まった掌は俺の手の甲を撫でてぞわりとした感覚に指先まで力が入る

「…今度、俺に代わりの物を贈らせてくれ」

そのまま鶴蝶様は仮面をそっと撫でていく。お前には、赤が似合う。そう言ってふ、と息を漏らした鶴蝶様は今度こそ俺を送り出すように背中を押してテーブルへと戻っていった。


ドアのキーを見せない俺達の仕事まで配慮されたスマートさに、一瞬あっけにとられたが扉の向こうに一歩出れば俺は大きく息を吐き出した。

「はあ~~~」

思わずしゃがみ込んだ俺を廊下を通る従業員が白い目で見てくる。仕事しろとか今はそんな場合じゃない



―――

新しいスーツに着替え、最後の役目を終えた俺は来た時と同じように二人を見送るべく黒塗りの車へと案内する。

あれからは穏やかな談笑を交え、俺も少し話に入ったりして二人の過ごしやすいように努めた。決して前には出ず相槌を、心地よい会話は聞き役になるべし。オーナー…俺はできていたでしょうか…?といっても彼は今頃部屋でたばこでも吹かしてそうだが。

また来るよ、と振り向いた鶴蝶様は寂しくなった俺の胸元をそっと撫でる。そのままポケットからあのブローチを取りだすと見せつけるように口元に持っていきチュッとリップ音を立てて軽く唇を当てた。

「え、ちょ!?」

パクパクと声にならない音を発する俺に鶴蝶様も少し赤い頬を緩めながら微笑んだ。ねえその顔は反則…やっぱり俺のVIPは貴方です。と考えながらもう1人のお客様と向き合う

「くろ…イザナ様」

「下僕…次間違えたらお仕置きな」

危ない、と思ったらもう口から出ていた。一段と鋭くなった瞳にひゅっと息を呑むと俺はイザナ様イザナ様…と念仏を唱えるように彼の名前を頭の中で繰り返す。

そんな俺を横目で軽く笑ったイザナ様はグイっと俺の腕を引っ張ると、ぶつかりそうになるほど近くに彼の顔面が迫る。思わず目をつむった俺にふ、と息を漏らした彼の声が聞こえたかと思うと瞼に軽く何かが触れた

「え、?」

「また来てやる。今度は俺に付き合えよ?タケミチ」

驚いて目を開ければ至近距離にあるアメジストの瞳とかち合う。ポカンと呆けた俺の顔を見ておかしそうに瞳を細めた彼は、俺の頬を先ほどの様にぺろりと舐めて「ごちそうさま」と踵を返す。

「あ、ありがとうございました」

何とか絞り出した俺の言葉にイザナ様は一瞬振り返り、レースがあしらわれた高そうなロングコートを翻した彼は片手を振って鶴蝶様が開けた車のドアに吸い込まれるように消えていった。

それに続くように鶴蝶様も俺に向かって手を挙げると、そのまま車に乗り込んでいった。

慌てて何とかマニュアル通りに頭を下げれば、二人を乗せた車はあっという間に見えなくなった。


車のエンジン音が完全に消えると、俺は足早にロッカーへと駆け込んだ。あんなに出勤前は意気込んでいたのに、今は熱を冷ましたい一心で冷たいロッカーに額をつけて顔を覆った


「もう…どんな顔していいかわんないよ」

顔を覆った掌に吐き出すようにポツリとこぼした言葉は誰にも拾われることはない。







補足…というか願望です。

鶴蝶は性癖こじれているとありがたい。

タケミチが自分のために用意した物をイザナが汚したのがイイ!!ほちい!!ってなってくれたら嬉しい。真っ直ぐに自分を見てくれるタケミチに夢見ててほしい。

そんでもって、新しいのを送って俺やイザナ色に染めてからいずれ天竺に引入れたいと考えてくれてたらなおよし

イザナは完全にタケミチ君は下僕スタートだけど、カワイイペットとして手に入れたのにいつの間にかにほだされればいいと思う。俺のもんどうよ?って赤いスケスケレースの上着羽織り膝に困り顔のタケミチ侍らせて(太ももに手を置いています)全員に見せびらかしてほしい。誰かこんな話書いて!!!

それぞれタケミチに似合うと思っている色

鶴蝶、イザナ→赤

マイキー→黒

ココ→白

物騒ブラザース→紫

薬キメ→ピンク

なので、タケミチが他の色とか付けてたら機嫌悪くなるか着替えろって言ってその場で脱がしにかかります。そんな妄想が止まらない。



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