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#溺愛
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「……上層部の判断だって」
レオンの手の中で、手紙がぐしゃりと歪む。
「……バイオレッタ、僕の力が足りなくて、ごめん」
申し訳なさそうにレオンは目を伏せた。
(……上層部。つまり、皇后が裏で糸を引いたのね)
継母ベラドンナの生家――マレフィカ侯爵家。第二王子であるレオンと対立する、皇后派の筆頭貴族である。
証拠はこれ以上ないほど揃っていた。偽造された許可証、押収された薬物、そして共犯者の男(ブタ)の証言。それでも権力は、それすらもねじ曲げる。
「犯罪者なのに……! 捕まらないなんて、そんなことがあっていいはずがありません!」
フローラが震える声で叫ぶ。
「『ベラドンナは後継者ナルシスを養育する義務がある。よって今回の件は不問とする』……だってさ」
ナルシス。バイオレッタより三歳年下の異母弟だ。 継母の言いなりで、表向きは誰にでも愛嬌を振りまくが──裏では、自分より弱いバイオレッタや使用人たちを殴って鬱憤を晴らす、最低の人間だ。
とくに父が病に伏してから、ウィステリア伯爵家はあの親子に食い荒らされてきた。
民は重税に喘ぎ、領地は荒れ果て、かつて黄金の穂が揺れていた農地も、今や見る影もない。
(それでも――今の私には、何もできない)
この国の法では、女性に継承権はない。男子の後継者さえいれば、その後見人である継母がすべてを支配できる。
(法が守るのは、正義ではなく『権力』なのよね……)
私は膝の上で拳を握りしめた。
「バイオレッタ、このまま家に戻るのは危険だよ。 夏休みは僕の城へおいで。警備は万全だし、退屈しないように毎晩、楽しい宴も用意させるから」
レオンが手を差し出したが──その手は隣に座るアレクによって遮られた。
「……出過ぎだ、レオン」
低く、鋭い声だった。
「バイオレッタは俺の婚約者だ。ベルシュタイン領で保護する」
「お二人とも!」
フローラが割って入る。
「いい加減にしてください!お姉さまは体調が万全ではないんです。エミリア子爵家で、私のつきっきりの看病が必要なんですっ!」
三人の主張が火花を散らす中、私の脳裏に、前世の記憶――この「ゲーム」の設定が蘇った。
(……待って。まだ、手はあるわ)
「……三人とも、落ち着いて」
私が言うと、全員が口を閉ざした。
「亡くなった母名義の土地が、ウィステリア領のすぐ隣にあるはずよ」
「……領地、ってこと?」
意外そうに、レオンが目を見開いた。
「ええ。母は元々、王室に仕えていた外国出身の補佐官で──その功績が認められて、小さな領地を授かったの」
「……外国独立特区か」
呟いたのは、アレクだった。
私は頷く。
「ええ。そこは外国の法が一部適用される地域。つまり――私のものよ」
若き日の母は、その領地の経営のためにこの地を訪れ、そして、隣接する領主だった父と出会い――恋に落ちたのだった。
(すべてを継母に奪われたなら、その場所を拠点にして、一からすべてを奪い返すだけよ)
私は顔を上げた。
「私、このまま終わるつもりはないわ。……あいつらの好きにはさせない」
「夏休みは、母の領地で過ごすことにするわ。そこで力を蓄えて、ウィステリア伯爵家を……全部、取り返してやるわ!」