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奥からは和服ではなく洋服を着た白髪の男性が現れた。
「あなた、こちら城木さんと仰られるそうです。蓮美のお知り合いだそうです」
「こんにちは、城木さん。私は蓮美の父親です。彼女は私の妻、蓮美の母親です」
再度一礼する女性。
――――(蓮美はどこにいるのだろう? 出て来てくれないのか?)
蓮美の父親がしゃべり始めた。
「あの、本日はどういったご用件で」と豊に尋ねて来た。
「私は、蓮美さんの恋人です。しばらく連絡が取れないので、たまらずこうしてお訪ねしてしまいました。私達の仲は大変旨く行っていたものですから、どうしたものかと気が気じゃなくなっております」
顔を見合わせる蓮美の父母。そのあと二人は神妙な面持ちで「うん」という具合に頷き合った。
「こちらへ」
蓮美の母親が先に立ち長い廊下を案内する。
どんどん辺りがセピアカラーに染まって行く。めまいを覚える豊。
突き当りの部屋の引き戸が開けられた。その瞬間色は戻った。
その部屋は和室だ。
煌びやかな仏壇がある。
(なぜ、ここに? まさか!?)
しかし鴨井に飾られている写真の女の子に、豊は見覚えがない。中学生? 高校生か? 否、そんな事はない。見覚えがないなど、そんな事は! これは。
蓮美の父親が、彼女の遺影を見上げつつ口を開いた。
「今日9月9日は、蓮美の誕生日。そして……月命日です」
「え?!」
唖然とする豊に向かって蓮美の母親が言う。
「繊細な子でした。良い子でした」
ここで言葉を詰まらせた母親。しかししっかりと話を続けた。
「虐めを苦にし、17才の時に校舎の屋上から飛び降り自殺したのです!」
その直後わっと泣き崩れ、父親に支えられる母親。
父親が懸命に母親を慰めつつ言った。
「城木さん、もしかしてあなたは『豊君』じゃないですか?」
「え!」
「『鉛筆を拾ってくれた豊君が好き』いつも蓮美はそう言っていました。『ずっと豊君と一緒にいたかった』『引っ越しなんかしたくなかった』と」
セピアカラーの記憶が脳裏に浮かび、頭がガンガンする。
「はっちゃんだ!」と豊は叫んだ。
想い出したのだ。蓮美の事をはっちゃんと呼んでいた。
はっちゃんは大人しい性格で、授業中に落としてしまった鉛筆を拾う事すら出来ない内気な女の子だった。
「蓮美ッ――――!」
オイオイと男泣きする豊。
衝撃の現実が、夢のようだった蓮美との幸せなひと時が、全部を受け止めきれずに壊れてしまいそうだ、豊は。
「ああ――――ツ! ああ――――! 蓮美、帰って来てくれよ、お願いだよっ」
蓮美の父母も泣き崩れている。
父親がそっと、蓮美の位牌を豊に差し出した。
「抱いてやって下さい、豊君」
豊は狂ったように小さな文字だけになった蓮美の魂を抱いては撫でた。
「蓮美、お誕生日おめでとう。辛かったね……。オレをもう一度探し当ててくれてありがとう。オレは今でも蓮美を愛してる! 守ってあげたかったよ、蓮美……! 蓮美」
*
――――豊にこれまで恋人が出来なかったのは、蓮美と深く幸福な愛情を与え合うためだったのかもしれない。
豊はこれからも生きて行く。
たとえば、高層ビルから鳥になったとて、蓮美には逢えそうにない気がする。
生き延びた後に、やっと蓮美に逢える気がするから。
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