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「皆、今回はご苦労だった!」
おお、領主様はご機嫌だね。
無事に討伐できました、とギルマスが代表して答えている。
座れ座れ、と応接室のでっかいソファの群れにそれぞれが腰を下ろす。フラットは大きな身体を俺の足下に横たえた。
「この度も大活躍だったそうだな、ナギ、フラット」
えへへへ、と頭をかけば、ふぁふっとフラットが答える。
一連のことをマックスさんが話し始めた。
魔物のことを話すうちに、領主様が首をかしげる。
「なんだそれは。洞窟の中からオークが出てくる。穴の底にミノタウロスが出てくる。そんなことはあり得ないことだが、何が理由だ?」
予想ですが、と迷宮との関わりではないかとマックスさんが答えた。
迷宮か……
今のところは、魔法で止めているが、この先どうなるかわからないと伝えた。
そんなことより、目の前におかれた焼き菓子と紅茶が気になっている、フラットは置いてもらったボウルに顔を突っ込んで食べてるんだ。俺も食べたい~
「皆、菓子くらいしかないが、食してくれ」
そう聞こえたので、さっそく皿を持ってフォークを突き刺した。うん、おいしいね!
嬉しくてたべ進めていたら、隣から菓子の皿が押されてくる。反対側からも。何? と見上げれば、マックスさんとピットさんだ。
食べていいぞと言ってくれたので、ありがとうと受け取った。
話しはいろいろ続いているけど、俺はお菓子に夢中。フラットも同じだ。
甘いものをとることがあまりないから、今度常備しておこう。やっぱり甘いものは必須でしょ、旅には。家ができればパンケーキでも作るかな。それには泡立てが必須だよ。でも、六歳の俺じゃむりだ。
日本では、電動のでやってた。こっちには電気はない。魔力ならあるけど。ん? 魔力を使うって事は魔道具ってこと? 僕の意識したものは作れるって聞いたような。それなら作れるかな。
家でやってみよう。成功すれば家電っていうか、家事魔道具ができると思う。炊飯器とかホットプレートとか。冷蔵庫みたいな魔道具は既にある。それならできると思う。ただ、魔道具の作り方は知らないから、クリエイトさんにお願いすることになるけどね。
「魔物のことは引き続き調査が必要になりそうだな。陛下に報告すれば、王都から研究者がくるだろう。そちらに任せて方がいいかもしれない。それとは別に、隣国の迷宮に入って痕跡を探す必要もあるだろう。地上では探索は無理だろう? ならば、迷宮探索しかない。その時は指名依頼を出したい。マックス、ピット。お主らのパーティーには参加してもらいたい。そしてナギとフラットもな」
なに?
今迷宮って聞こえたけど?
「そのことですが、領主様。ナギは六歳故、Cランクではありますが、単独で森に入ることを制限しております。もうすぐ七歳にはなりますが、それでも七歳。ランクと年齢を考えれば、マックスたちと同じ階層まで潜るのはどうかと思います」
そうなの? 年齢制限とかランク制限があるのかな。まあ、ランクの高い迷宮ならそういうこともあるかもしれないね。
「そうだな。陛下にも相談してみるが、特例として許可するしかないだろう。王都のギルドは問題ないが、世界中のギルドの納得が得られるかどうかだな」
そういうことですか。でも、今のままでいいけど。
「では、やはり王都へ向かわれますか?」
「うむ。陛下がナギとフラットに会いたいと言われてな。当然、今回の功労者にも会って礼を言いたいそうだ。だから皆、行ってはくれないか。当然、依頼として頼みたい。まあ、護衛依頼も重ねて出そう。どうだ?」
マックスさんが、全員を見回す。後で相談することになりそうだけど、僕は行きたくないよ。
特別報償だと、それぞれに革袋が渡される。執事が名前の付いた革袋を渡してくれるんだけど、これ、すごくいい革つかってるよね。
ありがとうございます、と全員で礼をいい、後日連絡するという領主様の言葉に頷いて舘を辞した。
帰りは馬車に乗れと言われる。
王都行きのことを相談するらしい。なるほど、と馬車に乗り込んだ。馬車といっても幌がかかっているだけで、普通の馬車だ。対面で座って話しが始まった。
「それで、陛下との謁見に行きたくないやつはいるか?」
そっと手を上げれば、俺だけだ。
「ナギは行きたくないのか?」
「うーん。六歳の冒険者なんて、いろいろ目をつけられそうで嫌です。この前の小隊長みたいに」
ああ、それがあったな。
「あれはあいつ自身が勝手にお前に対して対抗心を持ってただけだ。普通なら、負けないように鍛錬を、と思うだろうが貴族の坊ちゃんじゃあんなもんだろうな」
あはは、貴族ってくだらないね。
「でもナギ。一度、お前も王都に行ってみたくないか? 謁見は数分だろうし、そのあとは王都見物ができるぞ。片道四日はかかるけど、二日くらい買い物や見物してもいいだろう。帰りも依頼にしてくれるのかどうかは解らないけど、どのみち戻るなら依頼はいくらでもある。だから楽しめばいい」
マックスさんの言葉に、ピットさんとショルダーさんが頷いている。
うーん、でも気が進まないんだよね。
「だがな、ナギ。領主様の迷宮依頼があるから、お前のランクをどうにかする必要がある。そのことも領主様は先に陛下と話してくれるらしい。おそらくだが、世界のギルドをまとめている総本部の方で検討することになるからな。その結果によっては、王都中央ギルドでランクアップになると思うぞ」
ギルマスの言葉に呆れてしまう。
それじゃ、絶対に行かなきゃってことじゃないか!
ずるいよ。大人はずるい!
「すごいな、ナギ君。俺たちなんかまだまだだよ」
いえ、それが普通ですよ。だって、俺六歳だし。
はぁ、とため息をつけば皆はなぜだか笑顔だ。なんでだよ!
ギルドに戻ってくれば、全員呼ばれる。
それぞれに素材をどうするかと聞くためらしい。俺たちはまだだから関係ないよね。
時計がないから不便だけど、ギルドには掛け時計がある。
もうすぐお昼ご飯だよ。
その時、ギルマスから声がかかった。
「ナギ、明日の昼、家を引き渡すそうだ。家で待ってるってよ!」
やった、良い話しだ!
「ありがとうございます。お昼に行ってみますね」
じゃあ昼食をとって買い物に行こうか、とフラットと食堂に入る。
昼間は冒険者はあまりいないので、近所で働く人たちがほとんどだ。
いつもの椅子によじ登れば、フラットはひょいっとジャンプして隣りに座った。子犬の姿なので、とてもかわいい。
「フラット何を食べる?」
何にしようかとメニューを見てるけど、かなりレアな姿だよね。
新メニューとかかれている。見てみれば、グラタンだ。
そろそろ寒くなるから? それにしても少し早い気がする。
『ぐらたん、ってやつとクリームパスタ。それとオークステーキとグリルチキン、ディグビッグのステーキがいいな。ステーキは十枚でお願い。あと、パンね』
わかったよ、と俺もグラタンを食べてみたくなった。
グラタンとグリルチキン、そしてクリームパスタとパンを注文したけど、ちょっと多かったかな。残ったらフラットが食べてくれるというので、安心して食べられそう。
次々とテーブルに並ぶ料理を片っ端から食べて行く。
この料理ともあと少しでお別れだ。また食べに来るけどね。
毎日は無理そうだから残念だ。
クリエイトで作る時には、ここの料理を思い浮かべてみよう。それなら美味しいものができそう。
じゃあ、とお金を払ってから、明日、家ができると伝えた。
とても嬉しいけど、朝夕俺たちの顔が見えないのは寂しいと料理長は言ってくれる。
でも、これからも時々食べに来るからと言えば、是非! と言ってくれた。明日の夜はどうするか解らないけど、今から買い物に行くんだと手を振って出かけた。
さて、どこに行くかな。
街道を歩いていて、ドールーハの店の前から店内を見た。あれ、お客さんがたくさんいる。それなら次の機会だ。
再び歩きはじめた。
食材も心許ない。
食器などもそうだけど、忘れないように買わなきゃ。
家の斜め前の商会で買い物する予定だ。
家を通り越し、といっても数メートルだけど、商会に入って行く。フラットは大型犬ほどの大きさだ。
「いらっしゃいませ。本日は何をお探しですか?」
先日はありがとうございました、と会頭さんが出てきてくれた。
「明日、家が出来上がるので買い物に来ました」
それはありがとうございます。何をお出ししますか? 優しく聞いてくれるんだよ、このおじさん。
じゃあ遠慮なく。
大きなベッドとマットがたくさん。それに伴うリネン類、毛布、上掛け、枕など。
ご飯を炊く鍋、煮込み鍋、天ぷら用鍋、フライパン、レードル、フライ返し、油処理機などなど……
食器やコップなど、一般家庭で必要なものを揃えてもらう。
そして、調味料や油など、先日買ったものを多めに一揃え。
あとは食材。
野菜、パン、小麦粉、ソース類……
今回聞いてみたのは、鉄と銅があるかどうか。できるだけ純度の高いものを探していると伝えれば、問題なく量を聞かれる。どちらも一辺一メートルくらいの立方体以上と言えば、問題ないらしい。職人さんに材料を卸すから常備してると聞いた。
すごい商会だね。なんでも揃うよ。
じゃあ次は。ソファセット、ダイニングセット、タオル地のマット、毛足の長いラグマットなどをと言えば、場所を移して選んで欲しいと言ってくれた。内装が茶色だから、ソファセットはくすんだオレンジ色にする。ダイニングテーブルや椅子は素朴な感じにした。
あとはライト。もちろん魔道具だ。
壁付けのものを部屋数以上に購入。そして屋外ライトも五個買った。あとは何が必要だろう。
トイレットペーパーやタオル、バスマットなども量を揃えた方がいいと言われる。冒険者は店が開いているときに来られないことがあるから、らしい。うん、納得だね。
思いつくものを片っ端から買うことにして、明細をもらった。
全てをアイテムボックスに収納してお金を払った。
その時、小さな箱を渡される。
なに?
「これは額の中の景色が立体的になっていて、月と湖に写る月にほんのり灯りがともります。新築とたくさんのお買い上げ、これからのお付き合いをお願いする意味も込めましてプレゼントさせて下さい」
ほんと? 箱を開けてみれば、ほわりと灯りが点る。魔道具らしいけど、かなりの代物だろうね。
「ありがとうございます、お言葉に甘えていただきます。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
深く頭を下げて送り出してくれた。
引っ越せば足りないものも見えてくるからね。その時にまた来よう。
フラットとのんびり歩いてギルドへと向かう。
まだ時間は早いけど、少々気疲れした。少しやすみたい。
ギルドに戻れば、ワイワイ聞こえる。
なんでこんなに人がいるの?
時計を見れば、そろそろ夕方の五時だ。
どれだけの時間買い物してたんだよ、俺たち。
フラットは大きな身体を揺すって中に入った。
すると、間髪入れずに呼ばれる。
「ナギ、お前の獲物だせ!」
あーはいはい。
「全部出していいですか? あ、でも無理ですね二十頭以上いますから」
はぁ? と呆れてるよおじさん。
「じゃあ、とりあえず五頭だな。王都に行くんだろ? その間はお前のアイテムボックスにある方がいい」
なるほど、と頷いた。肉は? と言われたので、まだありますよと言う。二頭分弱くらいはあるから大丈夫でしょ。
本当に行くのかな、王都。
それなら、明日、家を引き渡してもらった時、旅で使う小屋を作るかな。土魔法で家にしてもいいんだけど。どうするかな。まあ、とりあえず、土魔法で行ってみようか。それで不便なら木造だね。
オークを取り出してミノタウロスはいつになるんだろうとため息をつく。
お願いします、とその場を離れた。
夕食はどうする? と問えば、今食べておかないと、酒を飲む人がくるというフラットの冷静な分析に頷いた。
食堂でいつものワンプレートと、オークの塊を取り出す。今日はロースだ。フラットは十枚のオーダーだ。残りはスライスしてもらう。それとは別に、フラットはオークの煮込みから始まって、パスタ、野菜煮込み、グリルチキンなど、大量に注文した。
ゆっくりと夕食を食べた俺たちは、そろそろ酒の注文が増えてきたので部屋に戻ることにした。
階段を上がっていれば、皆が手を振ってくれる。
部屋でクリーンをかけて着替えして、ベッドに転がった。
そうだ、アルムおじいちゃんにメールしようとタブレットを握った、はずだったけど……
目を覚ましたのは朝だ。
今日も天気がいい。
ゆっくりと起き上がれば、フラットも起きた。
一緒にクリーンをかけてから、冒険者に変身する。
帯剣ベルトを腰に下げて、タブレットを肩からかける。
食堂に降りて、いつものワンプレートを注文する。
フラットもたくさん注文した。
いつも変わらず美味しい朝食に名残惜しくなる。
そうだ、お弁当を作ってもらえないかな。何種類かの弁当を各十個くらい。それなら、軽食代わりにもなる。王都へ行くなら、パン屋さんで惣菜パンを買うことはできない。あとで相談してみよう。
朝食を終えて、さっそく料理長に相談した。
値段は気にしなくていいから、美味い物をぎゅっと詰め込んで欲しいと頼めば、喜んで引き受けてくれる。アイテムボックスに保存しておけばいつでも食べられるから、定期的に注文したいと言えば、かなり喜んでくれた。
俺も嬉しいよ。
さて、今日は何をするか。
昼には家の引き渡しだ。
それまでに、多分オークを出せと言われるだろう。それはありがたいことだけど、いつ出発するんだろう王都へは。
「ナギ、フラット! 上がってこい」
おお、ギルマスのお呼びだよ。
「おはようございます」
おはよう、と正面に座る。
「王都行きだが、明後日になった。行ってくれるな?」
メンバーを聞けば、俺以外全員らしい。
「謁見用の服なんかは気にしなくていい。お前、ローブとか持ってるか?」
ローブ?
「そうだ。旅にはあった方がいい。お前のサイズがあるかどうかだが、フラットに乗って行くときにはあった方がいいぞ。厚いとき寒いとき、どっちにも対応出来る。できたら質のいいものがいいけど。ローブなら簡単に脱ぎ着できるからな。それ以外なら、ドールーハの店にあるような、魔物素材のコートだな。そういうのがあった方がいい。聞いてみろ」
ふむ。ギルマスのアドバイスなら聞いてみよう。