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それは、ある同窓会でのことだった。酒臭い空気の中に、思い出が漂い、満ちた頃。ふと、誰かがこんなことを言った。
「そーいえば、アイツ、死んだらしいぜ」
酒に呑まれて火照る奴の身体では、止まった空気の冷たさを感じることはできなかったらしい。ケタケタと笑いながら、奴は言葉を紡ぐ。
「あのほら、すげぇブスだった女だよ。なんだっけ、名前」
「……あぁ、もしかしてアイツ?あのほら、ずっと臭かった女」
「あぁ、アイツかぁ……おぇっ、思い出しただけで臭ェしキメェ」
歪んだ顔で話し出す同級生を尻目に、僕の口角は、僅かに弧を描いていた。彼女の存在感と云うのが、昔とまるで変わっていなかったからだ。登校しただけで、皆の口を、目を奪っていた、あのときから。だのに、誰もその名前を記憶していない。
僕は心で、彼女の名前を呟いてみる。灰色の同窓会がセピアに形を変えたのは、まさにその時のことだった。
彼女は醜かった。”綺麗”って言葉を、これほど着こなせない人間はいないだろうって、そう思えるくらいに。赤いにきびが散らばる青白い顔に置かれた小刀のような瞳を、いつも誰かに向けていて、背中は無駄な身長に曲げられて、胸はすっかり下を向いている。そのくせ、跳ねた髪と皺だらけのスカートを靡かせて、ヒロインでも演じているように歩くものだから、近寄る人間なんて誰ひとりとしていなかった。