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元貴はノンアルビールのジョッキを持つなり、俺の方にグイッと寄せてくる。
「ん」
俺はこちらに出されたジョッキと元貴の顔を交互に見つめる。なかなか答えが出ず、首を傾げると、元貴は、
「ほら、乾杯」
「せっかく二人で飲みに来たんだし、ね?」
と更にジョッキをグイグイと寄せてくる。俺はすぐに「あ!」と察したように、手元に置かれた自分のジョッキを手にする。
「はい、かんぱーい」
「かんぱーい…!」
かちゃっとジョッキがぶつかり合うと、跳ねた水滴が元貴のジョッキの中へと交わっていく。元貴は片方の手をジョッキに添え、グビっとノンアルビールを口にする。
そんな元貴を見て、俺も恐る恐るジョッキに顔を近づけ、口に含んで見ると、口の中に冷たい麦のコクとホップの苦味が広がる。
「…うま」
元貴の口元は緩んでいて、濡れた唇とパーカーの大きく開いた首元から見える鎖骨が、なんとも言えない色気を醸し出していた。
「……ぁ、もとき…」
彼の名前を口にするも、その声は店内の人の声でかき消されてしまうほどに、小さく、ほぼ吐息に近いものになってしまう。
「ん?」
それでも元貴は気づいてくれたようで、目線と手元は焼き鳥の乗った皿にあるものの、返事を返してくれた。
「その……彼女さんの話…」
俺が恐る恐る話を戻そうとすると、元貴は一瞬だけ、焼き鳥を取ろうとした手を止めた。でもすぐにその手は再び動き出し、自身の取り皿に焼き鳥を手際よく持っていった。
「あー、なんだっけ?どう思ってるか、だっけ?」
俺が頷くと、元貴は焼き鳥を口に運びながら、少しだけ「んー」と考えたあと、すぐに話した。
「……別に、嫌いってわけじゃないよ?」
元貴の曖昧な答え方に、俺は食いつくように
「好きでは……ある?」
と、問いかける。すると元貴は、少し黙り込んでしまった。
(図星…?)
元貴は何かを考えるように、ジョッキの水滴を指でなぞる。その際も、元貴は「んーっとね…」となんとか言葉を出そうとするも、なかなか返事が出せないようでいた。
「……うん、好きだよ、ちゃんとね」
元貴の答えに、内心ホッとした。元貴が好きでもないのに、彼女さんのために付き合ってあげてるのだとしたら、きっと俺はいても立ってもいられなくなってしまうだろう。
安心で、「それなら良かった」と呟こうとしたその時。元貴はそれを遮るように続けた。
「でもね、わかんないんだよ」
「喧嘩してばっかだし、何度も別れ話もしたし…俺、本当はあいつのこと好きじゃないのかなって……」
元貴は眉を下げ、寂しそうに自身の手元を見つめていた。
俺はそんな元貴の表情に、つい身を乗り出してしまう。
「そんなことないよ!!」
「喧嘩ばっかしちゃうのは、元貴も彼女さんも、お互いにちゃんと好きな証で…」
「別れ話するのは、ちゃんとお互いのこと考えてるってことで……!!」
あまりにも突然俺が口を開くものだからか、元貴は完全に呆気にとられたように、目を丸くさせていた。そんな元貴の様子を見て、ふと我に返り、ちゃんと座り直し、
「……ごめん、つい」
と口にする。元貴はそんな俺を見て、すぐに「んーん」と首を左右に振った。
「俺、元貴には幸せになって欲しくて…」
「だって元貴、みんなのこと考えて、自分のこと忘れちゃってる時あるし…」
「ちゃんと、元貴のこと見てくれる人に出会って欲しくて……」
上手く言葉に出来ないこの思いをなんて言うんだろう。言葉を詰まらせる俺を見て、元貴は優しく笑う。不器用な俺の話に耳を傾け、「うん」と何度も相槌を打ってくれた。
……まるで、これじゃ俺が助けて貰ってるみたいじゃないか。
自分の弱さに、つい下を向いてしまう。言葉を発しようとするも、毎回喉のどこかで言葉は消えてしまい、口から出てくるのは「はっ」や「ふっ」という、まるで息を吐くような音ばかりだった。
悔しさと情けなさから、下唇をきゅっと噛む。その時、元貴の「ん」という声とともに、目の前に焼き鳥が差し出される。
「若井のほうが、俺の事で悩んでない?違う?」
元貴の言葉が、あまりにも図星すぎて、つい目を逸らしてしまう。
しまった。元貴はなんでも人の仕草を見ている。ひとつの仕草で、元貴には相手が何を思っているのか、どんなことを考えているのか、全てわかってしまう。
元貴の言葉を否定する訳にもいかず、俺は小さく頷く。すると元貴は「ふっ」と小さく笑うと、もう片方の手でお冷を口にする。
「俺と彼女の話はさ、もちろん若井に全部わかる訳じゃない」
「だから、若井には聞いて欲しいんだ」
「俺の思うこととか、考えること」
「それだけでも、ちょっとは楽になるでしょ?」
そう言うと元貴は、俺の方に差し出した焼き鳥を、俺の口元へとグイグイと近づけてくる。ふにっと焼き鳥の先が唇に触れると、あまじょっぱいタレの風味が口内に広がる。
「…うん」
少し照れくさくて、目を泳がせながらも、元貴からその焼き鳥を受け取る。
「…じゃ!俺の話、たくさん聞いてくれる?」
「……どんとこい!!」
俺はそう元貴に笑いかけると、ノンアルビールを一気にグビっと飲み干し、乾いた口の中を潤した。
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こっちの更新は久しぶりですね(^_^)ノ
大好きな親友のことで悩みに悩んでいる若井さんが本当に可愛いですね🤭💗
作者は最近、春休み前で少々忙しく日々を送っているため、全くお話を書けていませんඉ́ ̫ ඉ̀(「聞いて」は既に完成しております)でもでも!春休みに入ったらきっと書く時間沢山できて、書きに書きまくるので安心してください!!!
それではまた次のお話で^^
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コメント
8件

毎回更新楽しみです!この元貴と若井の関係も尊いなぁ〜笑
更新嬉しい!ほんとに若さん受けは好きなのでマジで嬉しい!
いや、ほんとに可愛すぎです