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次の日、私たちは病院のベッドで横になっていた。起きてからというもの病院の看護師さんにはこっぴどく怒られたけれど、ヒロト先生、アキラ先生、コウタ先生は
「もうお前達だけで飛び出していくんじゃないぞ」
そう言うだけで他には特に何も言われなかった。
そうして私たちは日常を取り戻した。あの後あの男は違法薬物を使ったとして警察に逮捕されたらしい。
その日、私たちはいつものように鍵を借りに職員室へ入った。いつものように担任の先生に断りをいれて鍵を借りようとする。その時だった。
「ちょっとちょっと松川先生!なぜそんなに簡単にこの子達に鍵を貸すのです?」
「いいではないですか弘田先生。別に第四音楽室なら吹奏楽部も授業でも使わないでしょう?」
「でもこの子達はただ楽しいからバンド活動をしているのであって何か功績を残したわけではないでしょう?それにこの子達は奇妙な病気をもっているではないですか!病気がうつるから使いたくないと言い張る生徒もいるのですよ!」
まぁ、正直こういうのは慣れている。幼いころから気持ち悪いだの病気がうつるから近寄るなだの言われていた。だとしても先生がそれを言ってくる生徒の味方をして一緒に言ってくるのはどうなんだ。
「まぁ、その生徒や弘田先生の気持ちはわかりますがね。彼女たちにだってやりたいことがあるのです。それならやらせてあげたらどうですか?」
「ふん!私は認めませんからね!そんなに練習がしたいなら路地裏にでも行けばいいんだわ!」
そう言って先生は鍵を奪い取り、私に見えるように念入りに消毒をし始めた。まぁ、よく思わない人たちは一定数いてその人たちが何かしてくるだろうというのは予測できていたからその光景を見てもなんとも思わないのだが。
「でしたら弘田先生。彼女たちに文化祭で実力を見せてもらうのはいかがでしょう?」
「こ、校長先生!?」
校長先生は弘田先生から鍵を取り上げ私に手渡してきた。
「彼女らの音楽は素晴らしい。それに彼女たちの友情もとても素晴らしいものです。それを全生徒に知ってもらうことにもなりますし、あなたも納得せざるを得ないでしょう?」
「た、確かにそうですね……」
「そういうことです。海宮さん。皆様に伝えてください。一か月後の文化祭であなたたちの音楽を披露するように言われたと。そして先生方は彼女たちの邪魔をしないように生徒を見張ること。よいですね?」
「はい!!」
そういうことでお昼休み、事の全容をみんなに話した。
「面倒なことになったね。」
「いいじゃん!あの先生、私気に入らなかったんだよね。この際ぎゃふんと言わせてやろうよ!」
奏もその言葉にうなずく。どうやら二葉と奏はやる気満々のようだ。
「それはいいけれど、曲はどうするんだい?」
「うーん……今練習している曲をもう少し書き直して練習しよう。一カ月後だと一から作成するとたぶん間に合わないし。」
二葉はさっそく紙とペンを取り出し書き進めた。
「しょーがないな。やればいいんでしょう。」
桜もそう言いながらやる気は十分のようだった。
「まぁみんなやる気のようだし私も頑張りますかね。」
真希はそういうと大きく伸びをしてキーボードの前に立った。あの先生にたきつけられたのかみんなやる気になっているようで何よりだ。それなら私も頑張らねばなるまい。
一か月後。文化祭の準備も佳境に入っているころ、私たちの曲もだいぶ仕上がってきた。本番は明後日。あまりにも練習のし過ぎで隈を作っていた私たちは担任の先生に言われ今日は早く帰ることになったのだ。二葉や真希と別れ、私たちは病院への道を歩いていた。しばらく歩いていると、墓地の近くにたどり着いた。そこには、以前コウタ先生と一緒にいた初老の男性が立っていた。白スーツと青いシャツに身を包み、髪は黒髪に白いメッシュが入っていて一見若々しく見えるが髪にはところどころ白髪が見え、顔にも少ししわができていた。
「おじさん、もしかして……」
「あぁ、コウタたちの患者か。この前は大変だったな。」
男性は煙草を吸いながら私たちにそう言った。
「ここって墓地ですよね?なぜこんなところに?」
「あぁ。俺の友人がここに眠っているんだよ。」
そう言うと男性は「ついて来い」と言い、私たちを連れて敷地内に入っていった。そして男性はあるお墓の前で立ち止まった。そこには「雨宮家ノ墓」と書かれていた。
「雨宮……?」
「雨宮ってこの辺では結構有名なお屋敷の人だったっけ。」
奏はそうだとうなずいた。男性はお墓の上にある星のかけらのようなものをハンカチで拭き、綺麗にし始めた。
「こいつはな。この街のヒーローだったんだ。」
「ヒーロー?」
男性はうなずくと手を合わせる。私たちもそれに続いて手を合わせた。
「もしこいつがいなかったら、今頃この街の夜はとんでもないことになっていただろうぜ。」
「そんなにすごい人だったんですか……?」
桜が男性にそう聞いてみる。男性は空を見上げ、ゆっくり深呼吸をすると私たちの頭をなでた。
「もし気になるならコウタたちに聞いてみるといい。じゃあな。」
彼はそう言うと、敷地内に止められた車に乗り込んでどこかへ行ってしまった。私たちはその場に立ち尽くし、再び静寂が戻った墓地に佇んでいた。
私たちはこの話が気になり、ちょうど病院の外で出迎えをしていたヒロト先生に尋ねてみた。
「そうか、獅子合お兄さんに会ったのか。いや、今はもうあの人もおじさんだけどね。部屋で待っていなさい。寝物語に聞かせてあげるよ。」
先生はそう言うと他の子の対応に回った。
夕食と入浴を済ませた後、私たちは部屋のベッドにもぐり寝ようとしていた。するとノック音が聞こえ、ヒロト先生が入ってきた。
「お待たせ。」
「ヒロト先生!」
中央のテーブルを囲むように座り、ヒロト先生が持ってきたハーブティーを飲みながら私たちはヒロト先生の話に耳を傾けた。
なんでもこの街には昔、雨宮玲子という女性がいたらしい。彼女は二十五歳になると星屑となり命を散らすという病を患っていた。この病気は私が治療薬を開発するまで、治療法はなく、ただ死を待つ病気だったそうだ。
玲子さんの話を聞くうちに、私たちの心に響く何かがあった。玲子さんはその病気を患いながらも、夜の街を見回り、凪街から危険分子を取り除くべく奮闘していたそうだ。
そんな彼女に先生たち三兄弟は助けられた。先生たちは彼女の養子となり、一年にも満たない時間を共に過ごした。
そして、彼女はこの街を支配しようとする集団のリーダーと戦い、見事に討ち取った。そして二十五歳の誕生日を迎え、星屑となって散っていった。もしそのリーダーが倒れていなかったら今頃この街でたくさんの死傷者が出ていたし、夜で歩くことが危険になっていただろう。
ヒロト先生は玲子さんと三兄弟の思い出の写真を見せてくれた。写真には笑顔の玲子さんと、まだ幼いヒロト先生たちが写っていた。
「今の俺たちがあるのは間違いなく玲子姉さんのおかげだと思っている。あの人が俺たちを助けてくれなきゃ生きていないし、星散病にかかって苦しんでいる彼女のそばにいなかったら医師にもなっていなかっただろう。」
ヒロト先生は懐かしそうにそう言うと、私たちの頭をなでた。
「玲子姉さんは僕たちにやりたいことを精一杯やるように言ってくれた。君たちもやりたいことを一生懸命やるんだよ。」
「……はい。」
そう言うと、ヒロト先生は優しい微笑みを浮かべ、私たちを寝かしつけ部屋から出ていった。その後、私たちは玲子さんの勇気と献身に思いを馳せながら、静かに眠りについた。