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「タルサは今でこそ現役を退いてはいるが、かつては俺と同じように軍に属していて、数多の戦場へ出向いていた」
「そうだったんですね」
「階級もそれなりでな、重要な隊に加わっていた事もある」
「それじゃあ、かなりお強いんですね」
「いえいえ、それ程でも。今はもう、体力も衰えていますからね」
「何を言ってる。お前はまだまだ現役みたいなものだろう」
「そんな事はございません。ですが、ギルバート様とエリス様のお力になれるよう、精一杯役目を務めさせていただきますのでご安心を」
「ああ、そこは全く心配していない。頼りにしている」
タルサがかつてギルバート同様、軍に属して戦場へ出向いていただけでは無く、その中でも実力のある存在だった事を知ったエリスは、ギルバートとタルサが揃えば無敵なのではないかと思った。
「それでな、タルサには両国に出向いて様子を探ってもらっていた。そこで得た情報によると、来月にもお前の妹であるリリナがシューベルトの元へ嫁ぐらしい」
「来月……」
「ああ。しかし、まだ喪に服している訳だから、流石に式を挙げるような事はしないようだ。それについては追々という話らしい」
「そう、ですか」
「そして、リリナが嫁ぐ事で、ルビナ国はアフロディーテが全ての権限を握る事になるが、既に新たな動きが出ている」
「動き?」
「今、セネルとルビナを繋ぐ橋を架けたいが為に、両国の距離を縮める為、海を埋め立てようというとんでもなく大掛かりな話が裏で動いているらしい」
「海を埋め立てて、橋を架ける……」
「その事から恐らく、セネルとルビナは一つの国に統合しようと目論んでいるのかもしれないな……」
「国の、統合……」
まるで夢物語のような話ではあるが、リリナをわざわざ嫁がせた意味はそこにあったのではないかと、エリスやギルバートは腑に落ちた。
「私が調べたところによりますと、来月初旬にも、エリス様の妹君がセネルへと嫁ぎ、書面にて婚姻関係を結び、再来月頭に両国と密な関係にある国の王族関係者のみを集めたパーティーを開くとの事でございます」
「パーティー……」
「俺としては、そのパーティーで奴らに制裁を加えてやろうかと思っている」
「制裁……?」
「奴らが裏でしてきた数々の悪行を他国に知らしめてやるんだ。めでたい席でセネルもルビナの警戒も、多少気は緩むだろうからな。そこを狙う」
「……でも、そんなに上手くいきますか?」
「いくように、タルサにも協力をしてもらって準備を整えるんだ。大丈夫だ、心配する事は何も無い」
ギルバートは自信に満ち溢れた表情で「大丈夫」と口にする。
「ただな、失敗は許されない。これは一度きりしか使えない策なんだ」
「一度きりの、策……」
「そしてそれにはお前の協力が必要不可欠になる」
「私の?」
「ああ。パーティーの場で、お前が姿を現して、生きている事を皆に見せてやるんだ」
「私が……姿を?」
「そうだ。死んだはずのお前が生きている事を証明させなければならない。その為には本人が直接姿を見せる方が早いからな」
「……っ」
ギルバートの策の一部を知ったエリスは、言葉を失った。
パーティーの場で自分が生きている証明をするというやり方に、不安を感じたから。
「姿を見せた瞬間に、殺されるかもしれないですよ?」
「その可能性は十分ある。だがな、それを恐れていては何も出来やしない。お前の事は俺が守る。この命に替えても。だから安心しろ。俺に全てを委ねて、この策に協力して欲しい」
ギルバートの言葉に、エリスの胸はトクンと音を立てる。
一度きりの策――それは死んで葬儀まで済ませたはずのエリスが本当は生きているという事を皆に知らせる事。
姿を見せた瞬間に、どこからともなく狙撃される可能性もある。
けれど、それを恐れていては何も出来ない事はエリス自身分かっていた。
(……本当なら、死んでいたかもしれない、この命……ギルバートさんのお陰で、今もこうして生きている)
そして、今この場に自分が居られるのはギルバートの助けがあるからだという事も。
(アフロディーテたちに復讐が出来るなら、やるしかないんだ……怖がってちゃ、駄目だよね)
様々な葛藤をしながらエリスが出した答えは――
「やります。それから私、弱音なんて吐きません。ギルバートさんの事を信じているので、全てお任せします」
ギルバートを信じ、自分を苦しめた全ての者に復讐をする事だった。