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#禪院甚爾
欲 。
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さーもん
48
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とーにゃん
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真夏の太陽が容赦なく照りつける、禪院家の広大な庭。その一角に、不釣り合いなほど鮮やかに咲き誇るひまわりの一群があった。十歳の直哉は、誰もいないその場所で、大粒の涙をポロポロと零していた。
「痛い、痛いなぁ……。なんで俺ばっかり、こんなに叩かれなあかんのや……」
エリートとしての期待、それに伴う過酷な修練、そして失敗すれば容赦なく浴びせられる蔑みの言葉。まだ幼い直哉の心は、歪んだ家の重圧に押し潰されそうだった。その時、ざざ、とひまわりの葉が揺れ、巨大な影が直哉を覆った。
「おい、ガキ。そんなところで泣いてると、ひまわりが枯れるぞ」
見上げると、そこにはボロボロの着物を着た甚爾が立っていた。呪力を持たない「落ちこぼれ」として、家中で忌み嫌われている男。しかし、その圧倒的な体躯と、何者にも縛られない冷ややかな瞳に、直哉の心は一瞬で奪われた。甚爾はめんどくさそうに息を吐くと、懐から無造作に一枚の手ぬぐいを取り出し、直哉の頭に放り投げた。
「顔、拭いとけ。弱そうなツラしてっと、余計に付け込まれるぞ」
それは、直哉が人生で初めて触れた、他者からの損得のない「優しさ」だった。甚爾にとってはただの気まぐれだったに違いない。それでも、直哉にとっては、暗闇の地獄に差し込んだ唯一の光だった。あの手ぬぐいの感触と、甚爾の低い声を、直哉は心のお守りとして大切に抱きしめて生きてきた。
――それから、数年の月日が流れた。大人になり、術式を磨き、名実ともに禪院家のエリートとなった直哉は、ある日、賭博場が並ぶ路地裏で「術師殺し」として悪名を馳せる甚爾の姿を見かけた。胸が高鳴り、直哉は周囲の目を気にすることも忘れて、足早にその背中を追いかけた。
「……甚爾くん!」
声をかけると、甚爾は気怠げに振り返った。その鋭い三白眼が直哉を捉える。直哉はかつてのあの日と同じように、彼に見認めてもらいたくて、必死に言葉を紡いだ。
「俺や、直哉や! 覚えてるか? 昔、庭のひまわりのところで、俺に……」
「あ? ……誰だ、お前」
甚爾の口から出たのは、酷く冷淡で、何の感情も籠もっていない一言だった。直哉の身体が、凍りついたように動かなくなる。「あぁ……禪院の、次期当主様の坊ちゃんか。悪ぃな、俺は頭が悪いから、興味のない人間の顔はすぐに忘れちまうんだわ」
甚爾はフッと鼻で笑うと、直哉にそれ以上の関心を示すことなく、雑踏の中へと消えていった。残された直哉は、夏の熱気の中で、ただ一人立ち尽くしていた。自分を暗闇から救ってくれた、あの夏の思い出。毎日ひまわりを見るたびに思い出し、心の支えにしてきたあの記憶は、甚爾にとっては「覚える価値もないゴミ」のようなものだったのだ。「……忘れてる、か。ハハッ、そうやな。あんたは、そういう人や……」
直哉は自嘲気味に呟き、視界が涙で歪んでいくのを必死に堪えた。どんなに強くなっても、どんなに地位を得ても、あの人の視界に自分が入ることは二度とない。一方的に甚爾という太陽を仰ぎ見続け、勝手に焦がれて、勝手に傷ついている。まるで、夏の終わりに誰にも気づかれず、静かに枯れていくひまわりのように。直哉は届かない想いを胸に抱いたまま、二度と振り返らない男の背中を、いつまでも歪んだ瞳で見つめ続けていた。
コメント
1件
うわ、これ……すごく切ないですね。幼い直哉が甚爾の何気ない優しさに救われて、ずっと心の支えにしてきたのに、大人になって再会したら「誰だ」って一蹴される。その温度差が胸に刺さりました。ひまわりが「枯れていく」というラストの比喩も、直哉の一方的な想いを象徴していて美しい。欲 。さんの、キャラの心情を季節の描写に重ねる手腕、本当に好きです。続き、気になります……!