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朝でも夜でもない、禪院家特有の曖昧な時間。廊下の木が、きし、と鳴る。
直哉は立ち止まった瞬間、気づいた。
――近い。
直「……ちょ、近すぎやろ」
言い方が、すでに少し荒い。
自分でも分かるくらい、余裕がない。
甚爾は一歩も引かない。
それどころか、腕を伸ばせば触れる距離
で、ただ見下ろしてくる。
甚「そうか?」
直「そうか、ちゃうわ」
直哉は視線を逸らそうとして、失敗する。
顔が熱いのが分かって、余計に腹が立つ。
直「朝から何やねん。 わざとやっとるやろ」
甚「分かるか」
淡々とした声。
でも、口元だけが僅かに緩んでいる。
直哉はそれを見て、さらに苛立った。
直「……その顔やめえ。 腹立つ」
甚「照れてるだけだろ」
即答。
直「は!? 誰が!」
声が裏返りかけて、直哉は舌打ちする。
直「……ちゃうし。 ただ距離感おかしい言う とるだけや」
甚「昨日まであれで、今さらか」
一言で、直哉の思考が止まる。
直「……っ!」
顔が熱くなる。
返す言葉が見つからない。
甚「お前、分かりやすいな」
そう言って、甚爾はほんの少しだけ身を屈めた。
視線が、同じ高さになる。
直「やめろっち言うとるやろ!」
直哉は思わず、甚爾の胸元を押す。
力は入らない。
甚「……ほら」
甚爾は楽しそうに、低く言う。
甚「そうやって触る」
直哉の手が、ぴたりと止まる。
直「……っ、違う!」
甚「違わねぇ」
距離は、まだ近いまま。
直哉は歯を食いしばって、視線を逸らした。
直「……ほんま、性格悪い」
甚「今さらだ」
短く返されて、
直哉はぐっと言葉に詰まる。
その様子を見て、甚爾は小さく息を吐いた。
甚「安心しろ」
少しだけ、声のトーンが落ちる。
甚「嫌なら、ここまで来ねぇ」
その一言で、直哉の胸が静かになる。
直「……そんなん……」
小さく呟いて、顔を背ける。
直「分かっとるから、余計腹立つんや」
甚爾は、それを聞いて――
今度こそ、はっきり笑った。
甚「ほんと、面白ぇな」
直哉はその笑いに、
また少しだけ、キレた。