──────いえもん視点──────
「…しくじり、ましたかね。」
めめさんが、そうつぶやく。視線はとっくに消えてしまったワープ路から離さない。
「とりあえず皆さんを起こしましょう。作戦会議を行いますので。」
めめさんは俺に向き直り、そして、寝転がっている村民たちに視線を送る。しかし、ルカさんだけが既に起きていた。
「あ、お目覚めですか?」
めめさんも気づいたようで、ルカさんに視線を当てる。ルカさんは苦笑いしながら
「ついさっきに。すみません。」
と、謝罪を織り交ぜる。しかし、めめさんはその謝罪を許さなかった。
「記憶操作…あれは抗えなくても仕方がないです。推定堕天使、とでも言うべきでしょうか?我々よりも上位種の方にそうそう打ち勝てることはほぼありえないので。」
めめさんが、遠回しにフォローしてもルカさんの苦笑いがとけることは無かった。
「お気遣いありがとうごさいます。でも、今のままでは駄目なんです…おそらく、俺たちは死後に行くことになるんですのね?」
「…決まった訳では」
「いや、ほぼ確実に行くと思います。」
ルカさんは決意の籠った目で俺たちを見通す。その目は俺たちの心を見透かすかのように透き通っていた。
「…さぁ、私は皆さんの総意に任せますよ。ただ、ひとつ言えるのは。」
深呼吸をする。一泊空ける。しかし、力の籠った声。しかし、寂しさも感じられる矛盾した感情を入り交じった声で。
「これ以上、仲間を失いたくありません。」
透き通っているルカさんの目に対比するようにめめさんの目は感情が入りまじる、混沌とした目をしていた。ルカさんはふっと鼻で笑って
「わかってますよ。でも、このままじゃどうせみんな死んでしまう。ならば、行ったもん勝ちですよ!」
そう、ニカッと笑ってこの話は終わる。俺は、この会話に口を挟むことが出来なかった。
次々にみんなを起こしていく。しかし、驚いたのはぜんさんの瞳は黒く濁っていたことだった。どんなに話しかけてもどんなに揺さぶっても目を見開いたまま、動かない。魂が事切れた、そんな表現が正しいのかもしれない。
こんなこと、初めてだった。分からない。どうすればいいのか。俺は、他の人に知らせようと、その場を離れようとしたその時。
「…オナカスイタ」
そう、一言言ったあと、瞳は黒くにごったまま、爪を長く伸ばし、俺たちに襲いかかってくる。1番近くにいるのは俺。いえもんだった。襲い掛かると判断するのに1秒も要らない。襲いかかって来る。ならばその光景を他の人にも知らせなければならない。それならば最適な武器は
バンッ
携帯している銃を取り出し、放つ。ただの銃では人外の体に傷1つ付けられないだろう。ぜんさんほどの強者ならば尚更だった。しかし、銃を打ったのにはメリットがある。ひとつは、音でみんなに気づいてもらいやすいこと。もうひとつは耳元で鳴らしたため、鼓膜を破れること。つまり、耳の機能が弱まる。あともうひとつは
俺はそう思いながら銃を遠くに投げ捨てる。そう、3つ目。匂いだ。銃の音を無くすことが出来たとしても火薬の匂いを無くすのは難しい。嗅覚の良い動物ならばたまらなく不快な匂いのはずだ。それを囮にする。あとは逃げるだけだった。
しかし、これはあまり良くなかったらしい。空腹のぜんさんには銃に飛びつかない。はっきりと、獲物である俺を捉えようとしてくる。耳から血が流れている。鼓膜が破れた時に出た血なのだろう。
ぜんさんは虚ろな表情のまま俺に飛び掛る。交わすことはほぼ不可能。何故ならば人外のぜんさんより人間の俺の足が早いわけないからだ。絶体絶命。俺は何回その言葉を味わえばいいのか。なんて苦笑いをしていいほど体験してきた。走馬灯が流れるかと思った瞬間、ぜんさんは刺々しい弦で縛り付けられていた。
植物を扱うことが出来るのは1人。
その名を口にしようとした時、植物の使い手──────菓子さんはその弦をさらにキツめに拘束する。
ぜんさんの体に棘が突き刺さる。
「ちょっ菓子さんやりすぎ」
「はぁ?助けてあげたのよ?助けられた分際であなた何様?」
俺が、その弦の拘束が強すぎる、そう反対しようとしたが菓子はさんは正論をぶつけてくる。ぐぅのねも出ない。俺はなにも言い返すことが出来ない。
「オナカ…スイタ」
ぜんさんはそう呟いて弦の棘が刺さっていないかのように拘束をとく。痛々しく、ぜんさんの体に棘がまとわりつく。…しかし、血が全く出ていない。人外にだって血は流れているはずだ。なのに、血が出ない。どう言うことなのだろうか。
「───あぶない!!」
「へ?」
菓子さんの悲鳴が俺の耳をつんざく。いつの間にか目の前にはぜんさんが迫っていた。菓子さんは俺とぜんさんが近すぎて手を出さない。植物で拘束させたのが俺ならば尚更終わりだからである。手を出せない。それは俺の終わりわ示していた。
ぜんさんは、丸呑みしたものの能力や、記憶、人格などのありとあらゆるものを得るらしい。俺も、丸呑みされるのだろうか?恐怖で声が喉を通らない。声のなり損ないが俺の口を通過するだけだった。
死ぬ。
その2文字を自覚する。捕食者の前では被食者は何も抵抗ができない。銃は投げてしまったし、ナイフなんてこんな状況で持っているわけが無い。魔法…今から間に合わない。逃げる。腰が完全に抜けている。走れたとしても距離的に間に合わない。めめさん…も、無理だろう。こんな目前に迫った相手を今更どうこうできるわけがない。
ただ、食われるだけ。焦らすように、体は動かないのに相手の動きがゆっくりと見える。あぁ、終わりだ。
ここで切ります!茶子菓子編の後はぜんさんを少し掘り下げようと思います。ぜんさんはなぜ生き返っているのか。それについて掘り下げる予定です。当初、ここのシーンを書くつもりはなかったんですよね。けど、本編では掘り下げないで番外編で公開する、ていうのもなんか…なんか違うなってなりまして…てことで少し死後に行く前にここの部分を掘り下げます。
ちなみに、死後や天界、地獄、天国…たくさんの呼び方をしていますが、意味は少しづつ変わります。まあ、ぼんやーり理解していただけると。
死後⋯死んだあとの世界の総称。天国や、地獄など全てをひっくるめて、死後と呼ぶ。
天界⋯死後と同じ意味。強いて言うなら下界の対義語として扱っている言葉。
地獄⋯そのままの意味
天国⋯そのままの意味
こんな感じですかね?まあ、ふわっと理解していただければ…。
それでは!おつはる!
コメント
2件
捕食者すぎるでしょ