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第4話:ポストの秘密と祖母の想い


ナギのスケッチを手にしてから、アオイはポストの周りをうろつくばかりだった。

彼の絵は、12歳の少年が描いたという事実を超えて、アオイの心を強く打った。

この才能が、孤独の中に埋もれてしまうのは惜しい。

アオイはまず、この時を越えるポストの謎を解くため、祖母の遺品である古い日記帳を探し出した。

日記帳は、紅茶の染みと潮風でページが波打っていた。日付は、ナギが手紙を入れ始めた2015年頃の記述から始まっていた。


2015年9月

*あの子は今日も来てくれた。*ナギという、静かで絵を描くのが好きな男の子。

新しい学校へ行くのが不安で、心細いのだろう。

このポストのことを教えた。「本当に大切な想いだけを、きっと時が運んでくれる」と。

このポストは、昔、港を航海する船乗りたちが、遠い家族に想いを届けるために使ったものらしい。

想いが強すぎる時、それは時空さえも歪ませる力を持つ。


あの子の描く絵は素晴らしい。

*繊細で、寂しいけれど、*希望の光がある。

私には、あの子の才能が未来で花開くかどうかはわからない。

*でも、*誰かが見てくれる未来を、あの子に信じさせてあげたい。


アオイは息をのんだ。

祖母もまた、ナギの孤独才能を知り、このポストの秘密を教えることで、彼に希望を与えようとしていたのだ。

そして、祖母の日記には、ナギの絵を「誰かが見てくれる未来」を願う、切実な想いが綴られていた。

アオイは、祖母の叶えられなかった願いと、10年後にその使命を引き継いだ自分の運命を感じた。

(祖母の想いも、私の想いも、ナギ君の過去に繋がっている…)

アオイは決意した。

ポストのルールは「心だけの文通」だが、ナギの絵を「未来の誰か」に認めてもらうことは、彼の心を救う唯一の方法だ。

アオイはナギのスケッチをスマホで丁寧に写真に撮り、自分のSNSアカウントにアップした。

「#時を越えるポストからの贈り物」

アオイは、その写真に次のような文章を添えた。

これは10年前、遠い町へ旅立った12歳の少年が、孤独の中で描いた海の絵です。

彼は今、自分の絵が未来で誰かに認められるか不安に思っています。

もしこの絵に何かを感じてくれたら、その想いを届けてあげてください。

投稿後、アオイは不安になりながら、ナギへの四通目の手紙を書き始めた。


ナギへ

*今日は、君が町を出る前に伝えたい、*大切な秘密の話をします。

*君が絵を描いていると、「いいね」と言ってくれた*タケシさん

*そして、海猫軒のマスターだった*私の祖母

*二人は、君の*最初の、そして最高の理解者だったんだよ。

*君の絵は、未来の私の心を感動させた。だから、君が描いた海の絵を、*未来の人たちにも見せてあげることにしたよ。

今、君の絵は、私たちがいる2025年の海を越えて、遠い場所へ旅立っているところだよ。 君の才能を信じて。

*君の絵を見た*未来の人たちの反応は、明日必ずこのポストに届けるね。


未来より、アオイ


アオイは手紙をポストに入れた後、SNSの投稿を開いた。すると、予想をはるかに超える反応が押し寄せていた。

「この光の捉え方、12歳の作品とは信じられない」

「涙が出た。孤独な心から生まれた光だ」

「彼は今どこで絵を描いているんだろう。どうか夢を諦めないでほしい」

コメント、シェア、そして「いいね」の数は、瞬く間に増えていった。

美術関係者と思われる人からの真剣なコメントまで寄せられている。

都会で自分の作品を誰にも見向きもされなかったアオイは、この現象に驚きと感動を覚えた。

ナギの絵は、10年の時を超えて、現代の多くの孤独な大人たちの心に響いていたのだ。

(これが、ナギ君が未来に与えた影響…!)

アオイは、ナギが求めていた「誰か一人の『いいね』」どころではない、

大きな光を、彼に届けてあげられることに、喜びで胸がいっぱいになった。

しかし、その夜、アオイのスマホに、SNSの投稿を見た町の人から一本の電話が入る。

「アオイさん、その絵のこと、誰に聞いたんですか?あの絵は…ナギ君のお母さんが、ずっと隠していたもののはずですよ」

アオイは、事態が単なる感動的な文通ではない、複雑な過去に触れてしまったことを悟り、背筋が凍った。

ナギの旅立ちまで、残り3日。

時を越えるポスト

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