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「これは記事にできない」
編集長はそう言うと俺が必死に書いた草案をデスクの上に置いた。
「なんでですか、編集長」
「馬鹿、お前遊ばれたんだよ。
たちの悪い遊びにな」
「どういうことですか」
「撮った写真全部見たよ、よく撮れてるいい写真だよ」
「何か問題でも?」
やられたなぁ。と笑う編集長。
意味がわからない俺は、眉をひそめる。
「あ、もしかして目があったように見える写真ですか?
あれは偶然だと思いますが」
「ちげーよ」
「なにが違うんですか」
「お前、よく考えてみろよ」
「?」
俺は写真に目を落とすが、そこにはよく見えはしないがイイ所を突かれているのであろう、ヨガっている若井の写真があるだけ。
「演技でもしてるっていうんですか」
「ばか、ちげーよ。もっと根本的なことだ。
そもそも今をきらめく大スター様がなんでこんなとこ住んでんだって話だよ」
「こんなとこ…?あ」
俺はハッとさせられた。
いくら稼いでいるか想像もできないような人気者の大森元貴が、こんなすぐ写真をとられるような家に住むだろうか?
言われてみればおかしな話だ。
彼にはもっとセキュリティのしっかりしたところを住めるだけの金が得るだろう。
「送られてきた住所で気づくべきだったなあ」
俺はタレコミの真偽を確かめることだけを考え、簡単な事を見逃していたのだ。
彼は撮られるためだけにこの家を借りたというのか。
……しかし、なぜ?
なぜわざわざ撮られるようなことをしたんだ。
「ったく、大ネタだと思ったのにな。この様子だと大森本人が送ってきたな」
「…ど、どうして……」
「大方、自慢したかったんじゃねーの?」
「じまん…?」
「そ、自慢。あぶねー遊びだよ」
「一歩間違えれば世間に出るのに?」
「まぁでけー所だったら出すだろうな、このネタ」
なんせ”悪い噂”なんぞ出てこないグループの特ダネだ。
そういいながら、タバコに火を付ける編集長は ただ…と言葉を続ける。
「残念ながら、俺らは三流ゴシップ雑誌。
しかも弱小出版社ときたもんだ」
「でも、もみ消すなんてこと…!!」
「独占インタビューに連載記事」
「へ?」
「文芸部に来たんだとよ。
”ぜひ御社の雑誌でミセスの特集を”ってな」
「それって」
「しかも”大森が愛読していて愛着があるそうでして…”だとよ。
俺らがこの記事出したらポシャるだろうな、その特集」
「そんなの」
「会社の利益を考えるとどっちが良いかは一目瞭然だ」
”一時のスクープ”と”大人気ミュージシャンとのつながり”
今後を考えると、どちらを取るのは明白だ。
もみ消すよりもたちが悪い。
きっと、事務所は知らないのであろう。
公にはできない。
したくない。
ただ自慢をしたい。
見せつけたい。
そう歪んだ想いを持っているこの人を。
「あーあ、せっかくの特ダネだったのにな」
「あっさりしてますね」
「しゃーねーよ、そういうもんだって割り切らねーとな」
「そんなもんですかね…」
「そんなもんだな。」
俺は遊ばれただけだった、なんてぼんやりしていた時、
「あ、そういえばその独占インタビューのインタビュアーお前ご指名だぞ」
「は?」
思考が一瞬停止する。
指名?俺?なぜ?
「お前、ここ来る前に文芸部いたろ」
「あ…はい」
「そん時、コーナー受け持ってたろ」
「えぇ…」
古い記憶を思い出す。
1年ほど連載していたコア層にしか受けなかったコーナー。
感想なんぞ来ず、静かに終わったコーナー。
「それを書いていた人にインタビューをしてもらいたいんだとよ」
そんな面白いこと書いていたかと懐かしんでいた時、ふとあることが思い出される。
ーー俺は大森元貴と目が合った。
気のせいだと思っていたが、もし本当に目が合っていたら…
大森元貴が目が合ったとこを分かっていて俺を指名していたら…
鼓動が速まる。
彼ならやりかねないかもしれない。
わからない。彼がわからない。
不安は拭えないまま、インタビューの日だけが近づく…
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