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7月15日(水)
朝。
教室はいつも通りだった。
机は整い、黒板には昨日の続きが残っている。
忘れたわけじゃない。
ただ、触れないようにしているだけだった。
それが一番危うい静けさだった。
こさめは少し遅れて教室に入る。
一瞬、空気が止まる。
でもすぐに、また日常の形に戻っていく。
“何もなかったことにする速度”だけが妙に速い。
捺は窓の外を見ている。
誰とも目を合わせない。
いるまはその隣にいる。
距離は近いのに、言葉だけが遠い。
蘭は何度か口を開きかけて、やめる。
昨日の続きが、まだ喉の奥に引っかかっていた。
尊琴は落ち着かないまま席に座る。
(もう大丈夫なはず)
(終わったはず)
そう思おうとしても、体だけが納得していない。
須千は全員を見ている。
何も言わないまま、崩れかけた均衡だけを拾い続けていた。
◇◇◇
昼休み。
最初はただの小さな違和感だった。
誰かの冗談。
誰かの視線。
誰かの沈黙。
それが少しずつ重なっていく。
こさめが廊下を通る。
誰かが小さく言う。
「まだ普通に来てるんだ」
悪意のない声だった。
だからこそ残る。
捺はそれを聞いていた。
何も言わない。
ただ、拳だけが少し強く握られる。
いるまはそれに気づく。
(このままだと、また崩れる)
でも、止める言葉が出てこない。
尊琴はその空気を見てしまう。
(やっぱり、ちゃんと話さなきゃいけない)
そう思ってしまう。
尊琴がこさめに近づく。
尊琴「ちょっといい?」
声は少しだけ固い。
尊琴「このままじゃ、よくないよ」
こさめは一瞬だけ笑う。
でも、その笑顔はすぐに消える。
こさめ「もういいよ」
その一言が、尊琴を焦らせる。
尊琴「よくないって!」
尊琴「みんな傷ついてるのに!」
その瞬間。
空気が変わる。
捺が立ち上がる。
捺「うるせぇよ」
尊琴は固まる。
怒鳴り声じゃない。
限界の声だった。
捺「勝手に決めんな」
捺「全部わかったみたいに言うな!」
その言葉が刺さる。
尊琴の“正しさ”が、少しだけ揺れる。
その時だった。
捺が、急に走り出す。
いるま「なつッ!」
いるまが追いかける。
いるま「おい、待てって」
理由を説明する前に、体だけが動いている。
こさめも遅れて走り出す。
尊琴は動けなかった
尊琴「うぇえ!なにこれ?みんなどこ行くの!?」
須千「どうせいつもの公園だよ」
須千が短く言う。
須千「とりあえず先生に言ってから俺らも追いかけよう」
その言葉だけで、方向が決まってしまう。
尊琴も、止まれない。
止める理由より、追いかける理由のほうが先に来てしまう。
蘭も、少し遅れてその後ろに続く。
誰かが誘ったわけじゃない。
ただ“同じ場所に行ってしまう空気”だけがあった。
◇◇◇
尊琴と須千は走っているわけではない。
けれど足取りだけが、やけに早い。
胸の奥に、説明できない焦りだけが積もっていく。
公園につくと、そこに全員がいた。
こさめは、泣いていた。
声を出すでもなく、ただ崩れるようにそこにいる。
捺は、動いていない。
表情だけが固まって、空気に貼りついているようだった。
いるまはその前に立っている。
守っているようにも見えるし、誰かを閉じ込めているようにも見えた。
少し離れた場所に、蘭がいた。
どこにも完全には入れていない位置で、ただ立ち尽くしている。
空き地の空気は、もう壊れていた。
言葉が届く前に、意味だけが崩れている。
こさめが口を開いた
こさめ「なつくん、ごめんね」
「こさ多分変なこと言っちゃったよね」
「お母さんいつも怖いけどその日はやさしくて…」
「だから出かけたこと話したくなっちゃって。ごめ…」
捺「うるさい!!それ以上喋んな!」
捺の手が出る
尊琴は一歩前に出た。
息を整える余裕はなかった。
尊琴「もうやめようよ!」
声は少しだけ震えている。
それでも、真っすぐだった。
尊琴「こさめちゃん悪くないのに謝ってるんだから」
その言葉は間違っていない。
むしろ、正しすぎるほどだった。
捺が、小さく息を吐いた。
そして、ほんの少しだけ笑う。
乾いた笑いだった。
捺「悪くない?こいつが?」
捺「俺からしたらこいつに傷つけられただけなんだけどw」
尊琴の動きが、一瞬だけ止まる。
その違和感が、遅れて胸に落ちる。
それでも、止まれなかった。
止めるために来た以上、止めなきゃいけないと思ってしまう。
尊琴「でも!」
声が強くなる。
焦りが、そのまま言葉になる。
尊琴「こさめちゃんは毎日蹴られて、殴られて……!」
空気が、はっきりと固まる。
尊琴「少しはこさめちゃんの気持ち考えられないの!?」
その言葉は“正義”だった。
同時に“断定”でもあった。
捺の顔が、止まる。
怒りではない。
否定でもない。
(考えてないわけじゃない。)
(わかってる)
(でも止められない。)
言葉が途切れる。
『誰も俺の気持ちは考えない。』
視線が揺れる。
そして、静かに。
捺の目に、涙が滲む。
泣いていた。
声を上げるわけでもない。
崩れるように、ただ感情だけが溢れていく。
尊琴「えっ」
尊琴は驚いている
その瞬間だった。
いるまが動く。
一歩。
迷いも説明もないまま。
そして、尊琴を殴った。
乾いた音が空き地に落ちる。
理由は言葉にならない。
理屈でもない。
ただひとつだけ、そこにあったもの。
(なつを傷つけた)
それだけで、体が先に動いていた。
守るためでも、正しさでもない。
反射だった。
須千は気づいてしまう。
静かに。
誰に言うでもなく。
須千「……もう、誰も正しくない」
言葉にした瞬間、それが“事実”になってしまう。
でも、その事実を止める方法はない。
もう、言葉が届く距離ではない。
公園には、全員が立ち尽くしていた。
こさめは泣いている。
声にならないまま、ただ感情だけが溢れて止まらない。
捺もまた泣いていた。
怒りとも悔しさともつかないまま、崩れそうな自分を必死に保っている。
いるまは、その前に立っている。
誰かを守るように見えるその姿は、同時に誰かを拒んでいる壁のようにも見えた。
蘭は少し離れた場所で動けないまま立っていた。
何かを言うべきだと分かっているのに、言葉も足も、どこにも進めない。
尊琴は、これまで信じてきた「正しさ」が音を立てて崩れていくのを感じていた。
何が正しいのか分からなくなりながら、それでも目の前の現実だけが残っている。
須千は、その全体を見てしまっていた。
誰が正しいのかではなく、もう誰も単純には正しくも間違ってもいないということを、静かに理解してしまっていた。
そして公園には、ただ壊れかけた関係だけが残っていた。
尊琴の中で、何かが静かに崩れる。
(誰か一人だけ守ればいい話じゃない)
その結論に、ようやく辿り着く。
でも同時に、もう一つの問いが残る。
(じゃあ)
(どうすればよかったんだろう)
答えはない。
最初から、どこにもなかった。
風が吹く。
公園の空気だけが、かすかに揺れる。
『正しいことを言っただけなのに』
でも。
『正しさだけじゃ救えない』
誰も動かない。
誰も謝らない。
誰も戻れない。
ただ時間だけが、意味もなく流れていく。
尊琴が、小さく呟く。
尊琴「……もう、わからない」
その声は、誰にも届かない。
届く場所が、もう残っていなかった。
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白玉くん
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ことみ
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コメント
7件
♡1000にしといたよー! 「正しさ」が正しいかどうか分かんないよね… それで人を傷つけたり、傷ついたりする。 でも、自分の信じた方に進みたい。それで、それが音を立てて崩れたら、もう自分じゃなくなっちゃう。 誰も間違ってないけど、お互い理解できない。だからズレてくる。もう二度と交わらない。思い込みを捨てて理解し合えたら、変われてたのかもね。でも、多分もう遅いんだと思う。 難しいねぇ( ᐕ)
やばぁ?!⤴︎ こういうのまじで求めてましたっ!! ラブですっ!!
更新ありがとう!息抜きに見に来ました♪ めっちゃジーンとくる、、 🦈ちゃんが勇気もって伝えたのにそれが相手にとっては傷ついちゃうだなんて人間関係だなーって改めて思った! みんながみんな間違ってるから元に戻れるのか戻れないのかそれとも新しい関係になるのか考察のしがいがある✊️