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「あぁ〜…色入れに行かないとなぁ〜」
洗面所の前で呟く名論永(めろな)。お昼ご飯という名のカップ麺を食べて、テキトーな服に着替えて出掛ける。
本屋さんへ入る。本屋さん独特の匂い。名論永はその匂いに落ち着きを感じる。
しかし、やはり以前とは人々の視線が違う。チラチラと人に見られるのを感じる。
まだ慣れないなぁ〜
と思いつつも本を漁る。1日や2日で新刊が出ることはない。
ただたまに見たことない本が並んでいるときがあるため、やめられないのである。
本屋さんから出て、カラーリングをしてもらった行きつけの美容院に足を踏み入れる。
「おぉ〜めろくん。あ、色落ちしたねぇ〜」
担当の美容師さん、榊田さんが受付にいた。
「そうなんですよ。なんでまたカラーしてもらおうかなって。予約をしに来ました」
「わかりました。カラーだけで?」
「はい。カラーだけで」
「わかりました。いつがいいですか?」
「明日の昼、今の時間とか行けます?」
「明日のこの時間ー…大丈夫です、空いてます。じゃあ、明日の14時半にお待ちしております」
ということで美容院をあとにした。公園に寄ってベンチに腰を下ろす。
いつもの光景。そよぐ風が木々の葉を揺らす。砂利と木々の緑の交わった香りが鼻に届く。深呼吸する。
「はぁ〜…」
落ち着く。スマホを取り出して小説を書き始める。
薄い緑色の髪色の長い髪をお団子にしている男性がベンチでスマホをいじっている。
誰が小説を書いていると思うだろうか。
きっとホストと思われ、お客さんとのLIMEをしていると思われているかもしれない。
彼女にLIMEをしていると思われているかもしれない。なんなら地下アイドルかなんかで
メンバーとかマネージャーとLIMEをしていると思われているかもしれない。
どう思われているなんて名論永(めろな)はなにも考えていない。
ただ目の前の小さな画面の中で物語を紡いでいく。
気がつけばもうすぐ夕暮れ。陽が落ちかけていたのでスマホをしまい立ち上がる。
家に帰ってリュックを持って、職場「天神鳥の羽」に行く。引き戸を開く。
「お〜疲れ様で〜す」
「お疲れ様でーす」
「まだ緑だ」
「明日入れてくる」
「おぉ〜」
控え室というか更衣室へ行って荷物を置いてエプロンをつけて出てくる。
「あ。そうだ。今日ぎおちん来るんで」
「あ、そうなんだ?珍しいね。週2で来るなんて」
週に2回出るのが珍しいなんてどんなバイトだ。
「っすね」
と話していると
「お疲れさーす」
と言いながら銀同馬(ギオマ)が入ってきた。
「お疲れ様でーす」
「お疲れー」
「あれ。めろさん、緑に変えたんすか」
「色落ちしたんだよ」
名論永(めろな)の代わりに店長が答える。
「あーね」
と言いながら控え室というか更衣室へ行って、荷物を置いて、エプロンを着けて戻ってきた。
銀同馬(ギオマ)が戻ってきたタイミングで雪姫(ゆき)がお店に入ってきた。
「お疲れ様でーす」
「おぉ。お疲れー」
「お疲れ様です」
「おぉ!ないっちゃん。お疲れー」
「お疲れ様でーす」
ワイヤレスイヤホンを外さず、そのまま控え室というか更衣室へ行って
荷物を置いてエプロンを着けてキッチンへ行った雪姫。
「オレ嫌われてる?」
「人見知り人見知り」
4人で開店準備をした。暖簾を出し、看板と提灯の灯りをつける。
「ビール飲んでい?」
「なんで」
「暇だから?」
「いいよ。1杯1000円ね」
「たっか」
「暇だからビール飲むなんてヤバいだろ」
「じんちゃんタトゥー増やさんの?」
「増やそうかなとは思ってるよ。ただデザインをどうしようかなって」
「あぁ〜。次入れるならどこ?」
「腕かな。腕スペース空きまくってるから」
「背中にドーンって龍とか入れないの?」
「和彫でしょ?まあ、カッコいいとは思うけど。オレはいいかな。
…そう考えると洋彫で背中埋めるとしたらどんなんだろ」
と店長はスマホを取り出して検索エンジン Hoogleで「タトゥー 背中」と入れて検索する。
「あぁ〜。やっぱだいたい1枚絵を決めてドーンって入れる感じだな。
…こう見ると背中は洋彫も和彫っぽく見えるな。よっぽど十字架とかトライバルとかじゃない限り。
…お。花魁カッコいいな。花魁入れようかな」
「和彫やないかーい」
という店長と銀同馬(ギオマ)の話をうんうん頷きながら聞いていた名論永(めろな)は
2人の話が一区切りついたところでキッチンへ行った。
「お疲れ様ー」
「お。お疲れ様です」
「タトゥー談義で盛り上がってたわ」
「あぁ。店長また入れるって話ですか?」
「そうそう」
「私もその話したなぁ〜」
「へぇ〜。なに入れるとか言ってた?」
「このお店のロゴはどっかに入れたいとは言ってましたね」
と言いながら雪姫(ゆき)は自分のしているエプロンを見る。
「あぁ〜。これね?」
名論永(めろな)も自分のエプロンを触る。エプロンにはこの居酒屋「天神鳥の羽」のロゴが印刷されている。
「天」が頭、「神」が体、「鳥」が羽と尻尾のようになっており「天神鳥」という文字が鳥になっているロゴ。
「でもどこに入れるか迷ってるらしいです」
「店長、基本的に左右対象?」
「う〜ん。ですかね?」
「腕の左右につばめ入れてるでしょ?」
「あぁ、ここっすね?」
雪姫は自分の腕の内側を指指す。
「そうそう。で指にも入れてるでしょ?」
「右が「BEST」で左が「LIFE」」
「で…あ。首は左右非対称か」
左首筋に「Best food」と「can make bacchus drunk」が交差し
十字架のようになっているデザインのタトゥーが入っている。
「あぁ。右には入れてないですもんね。右に入れんのかな」
と言いながら自分の右の首筋を触る雪姫(ゆき)。
「あぁ。あるかも」
と話しているとお客さんが来たようで
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」
という声が表から聞こえた。
「お。お客さん第1号。ってなるとぼちぼち忙しくなるかな」
「っすね」
雪姫は立ち上がり、お通しを準備する。
暖簾の下から見える店長の足を、足でツンツンとして、暖簾から腕だけを出し、お通しを渡す雪姫。
そしていつもにようにそこから徐々に忙しくなっていった。忙しいといっても小さなお店に従業員4人。
ホール、カウンター2人にキッチン2人。忙しい、なんならゆったりである。
名論永(めろな)はキッチンで雪姫(ゆき)と話をしながら注文の入った料理を作っていると
いつもの間にか12時を越えていたらしく、徐々に忙しさが減っていった。
終電の時間を過ぎると、グッっと忙しさに急ブレーキがかかった。
「めろさーん。ビール飲みますー?」
と銀同馬(ギオマ)が暖簾を頭に乗せ、顔をキッチンに入れて聞いてきた。
「あ。じゃあ、もらおうかな」
「うーす。ないっちゃんは?」
「あ。私はー…どうしようかな」
すると今度は店長が暖簾を頭に乗せ、顔をキッチンに入れて
「梅酒サワーじゃないん?」
「別の飲んでみようかなって」
「メニュー見る?」
「見る」
店長が表に戻る。銀同馬(ギオマ)も表に戻った。店長はメニューを持ってもう一度キッチンに顔を入れ
「ほい」
メニュー表を雪姫に差し出す。
「あざっす」
雪姫がメニューを眺め
「じゃあ、ピーチソーダ」
と言いながらメニュー表を店長に返す雪姫。
「ピーチソーダ?そんなんメニューに…」
メニュー表を見返す店長。
「ないない。ファジーネーブルのピーチリキュールをソーダで割ったやつ」
「作れと?」
コクンと頷く雪姫。
「はぁ〜。しゃーねーなー。雪姫(ゆきひめ)だもんな。わがままも通りますわな」
と言うと雪姫はニコーっと笑う。
「あらいい笑顔」
と言いながら表に行く店長。しばらくすると
「はい。雪姫(ゆきひめ)様。ピーチソーダでございます」
と言いながらピンク色で炭酸の泡がシュワシュワとしている
グラスを持ってキッチンの暖簾を頭に乗せ、キッチンに顔を入れた店長。
「ありがとうございます」
「めろさーん。ビールでーす」
今度は銀同馬(ギオマ)がビールを持ってキッチンに顔を入れた。
「ありがとうございますー」
「じゃ、ということで…かんぱーい」
と店長が言い
「「「かんぱーい!」」」
と言いながら4人でグラスをコキン、カキンとぶつけ、乾杯をする。
「…っ、はぁ〜!うっま」
「はぁ〜…。いいね」
「…はぁ〜…うまい」
「おぉ。あ、案外甘さ控えめだな。ガムシロ入れてもいいかも」
と言っているとガラガラガラっと引き戸が開く音がする。店長と銀同馬(ギオマ)が表に戻る。
「いらっしゃ、おぉ!え、漆慕(うるし)くんじゃん!」
「お。きたきた」
と誰かが来たようだった。名論永(めろな)がお通しをちゃちゃっと準備する。
「あ、めろさん。ありがとうございます」
「ううん」
と言って暖簾を潜り、キッチンから出て表に行く。
すると店長も銀同馬(ギオマ)もカウンターに両肘をついて
カウンター席の誰かと楽しそうに話していた。店長の腕をツンツンとつつく名論永。
「お。めろさん、あざっす」
と言い、名論永からお通しを受け取る店長に
店長と銀同馬(ギオマ)が楽しそうに話していたお客さんが反応する。
「めろさんってあのめろさん?」
「あ、そうそう。ずっと働いてもらってるめろさん」
「えぇ。だいぶ変わりましたね」
めちゃくちゃ良い声。高い声だがキンキンするような声ではなく、透き通るような声。
でも聞いたことのあるような声ではなく、個性も感じられる声の男性、だけど中性的な声。
しかも顔も中性的な感じですこぶる良い。
「覚えてます?」
とその男性が名論永(めろな)に問う。
「あ、あぁ。あの淡田くんのバンドの」
と言うと男性はニコッっと微笑み
「覚えててくれた。嬉しいです」
と言った。
「ま、銀(ぎん)のバンドってのは間違ってますけど」
と言うと店長が笑う。
「おい!オレのバンドだっての」
銀同馬がプンスコしながら言う。
「いや、銀(ぎん)のバンドでもあるけど、オレ“ら”のバンドだから」
と良いことを言った。銀同馬(ギオマ)も「おっ」っという表情になり、店長も「おぉ〜」という口になったが
「ま。顔はオレだけどね」
と言うと店長は爆笑、銀同馬は
「はぁ〜!?」
とまたプンスコした。
「めろさん。こちらオレの高校の先輩で「The Gold medal band」のボーカル
円鏡(まるきょう) 漆慕(うるし)くんです」
と店長が言うと漆慕は微笑みながらペコッっと頭を下げた。
「めろさんだいぶ印象変わりましたよね。…髭剃って眉毛整えたから…かな?」
とドンピシャのことを言ってみせた。
「あと髪も染めたよ」
と言う銀同馬(ギオマ)。
「んなこと漆慕(うるし)くんが気づかないわけないでしょ。ま、さすが元ホストといったところですかね」
「いつの話だよ」
「漆慕くん、祭都鈴(まつり)町でホストしてたんすよ」
「20歳(ハタチ)から2年だけですけどね」
と漆慕は微笑みながらビールを飲む。
「それでもナンバー5でしょ?スゴいっすよ」
「ねえ。なんで漆慕には若干敬語で、オレには完全タメ口なの?」
と銀同馬(ギオマ)が店長の肩に肘を乗せる。
「え。オレが漆慕くんを尊敬してるから?」
「あぁ〜」
と納得しかけたところで
「あと、ぎおちんのことを舐めてるから?」
と言った店長。
「はぁ〜?あ。一回シメよ」
と言いながら店長をヘッドロックする銀同馬。まるで中学か高校の光景である。
「懐かし。高校んときもこんなだったよな」
と漆慕(うるし)が微笑む。
「懐かしいね」
「そういえば高校んときからオレのこと舐めてたよな?」
「うん。舐めてた」
「マジこいつ」
3人は和気藹々と高校生のときのように絡んでいた。そんな漆慕の胸元にはタトゥーがチラリと見えている。
というか首、漆慕は出ていないが、喉仏があるであろう部分の下に月のタトゥーが完全に見えている。
と、その視線に気づいたのか
「あ、タトゥー気になります?」
と名論永(めろな)に言う漆慕(うるし)。
「あ、いや。はい。綺麗な月のタトゥーだなって」
「ありがとうございます」
「それはいつ入れたんですか?ホストしてたときは」
「ホストしてたときに入れましたね」
「オレの入れてるタトゥースタジオ、漆慕くんから紹介してもらったんすよ」
と言う店長。
「あ。一緒のとこで入れたんだ?」
「そっす。アーティストさんも一緒で」
「入れないほうがいいよーとは言ったんすけどね」
「あれ。最初入れたのいつだっけ?」
と銀同馬(ギオマ)が漆慕(うるし)に聞く。
「オレはー…19?かな?19か20(ハタチ)んときじゃないかな?
大学に入ったけど全然行かなくなって、音楽ばっかやって
銀(ぎん)と音楽で食ってくかーって話をしたときに
決意表明として入れたからー…うん。そんくらいじゃない?」
「そっか。てなると」
銀同馬が店長に視線を移す。
「オレはその後。だってオレはこの店始めてからだもん。入れたの」
と言いながら首筋のタトゥーを触る。
「あ。一番最初それ?」
「そうだよ?もうフツーの会社には就職できないように一番目立つとこに入れた。で次がこれ」
と言って両拳を揃える。すると指のタトゥーが「BEST LIFE」と揃う。
「次がそこ!?」
驚く銀同馬(ギオマ)。
「そ。で、徐々に増えてった」
「漆慕最初なんだっけ?」
「オレ?最初はね」
と言いながら右のパーカーの袖をあげる漆慕(うるし)。すると右腕にもタトゥーが入っていた。
すると手をひっくり返し、手首を見せながら左手の人差し指でタトゥーを指指す。
「この目のマーク。ホルスの目の右目。ラーの目が最初だね」
と言いながら手首の目のタトゥーを左手で撫でる漆慕。
「2人とも見えるとこから入れてったんだねぇ〜」
「ニャンスタで見たとき、カッコよ!ってなったわ」
「あぁ〜あげた(投稿した)わぁ〜。てか今でも新しいタトゥー入れたらあげてるわ」
と笑う漆慕。
「新しいの入れんすか?」
「入れるよー」
あっさり言う漆慕(うるし)。
「タトゥーっていくらくらいするもん、なの?」
と店長に聞く名論永(めろな)。
「一概には言えないっすけど、まあ、高いっすよ」
漆慕(うるし)が自分の手首の目のタトゥーを指指して
「オレ、これがたしか1万…5、千円とかだったかな」
「おぉ。するね」
「漆慕くん胸のやつ、いくらかかったんすか?」
と店長が聞くと、漆慕はTシャツの襟首をグッっと下げる。
「これ?」
すると首の月のタトゥーの下のほうには雲やビル群のタトゥーに、英文字のレタリングのタトゥーが見えた。
「うわ〜。かっけぇ」
「ありがと。ただぁ〜…いくらかかったかはー…考えたくないね」
と笑いながらビールを飲んだ。
「いいだろ。貯金あるんだから」
と銀同馬(ギオマ)がプリプリしながら言う。
「え。いくらあるんすか」
と店長がニマニマしながら聞く。
「んー?しらーん」
「ホスト時代月いくら稼いでた?」
「知らん。100とか?」
「月100!?」
「もっとかも」
「マジ?」
思わず名論永(めろな)も口に出して驚く。
「まあ、22?歳のとき?ですかね?あ、21か。半年くらいで段々指名くるようになってったんで」
「え。なんで辞めちゃってんですか」
思わず聞く名論永。
「あぁ〜。いや、なんか単純にホスト同士の付き合いがめんどくさくて。
後輩とか同僚がなんかやらかしたら所属ホストに先輩からLIME来て、店来れる?みたいな。
ま、オレは大概無視ししたけどね。んで、あ、すいません。今見ましたって。
でもそしたら電話かかってきて、やらかした件についてなんか知らん?みたいなこと聞かれて
ま、オレ、全員と浅く付き合ってたんで仲良いと思われたんでしょうね。
ま、実際にいろいろ聞いてましたけどね?
でもめんどくさいことに巻き込まれたくないから、知りませーんで通しましたけど」
「いろいろ大変なんですね」
「そうなんすよ。あと単純にボーカルなのにテキーラで喉飛ばすことが結構あったし
二日酔いで練習にならないってことがあって」
「20歳(ハタチ)くらいのときは酷かったよな」
「あんときはマジで申し訳なかったわ」
「漆慕くんどんなだったん?」
相変わらず銀同馬(ギオマ)にはタメ口な店長。
「あのね」
もはや気にしない銀同馬。
「練習日来なかったときもザラにあるし、来たら来たで、スタジオのソファーで寝てた」
「練習しなかったってこと?」
「そ。歌ったら吐くーとか、ドラムのシンバル系の音が頭にくるから無理ーとか」
「あぁ〜。二日酔いのとき高い音って頭にくるよね」
「そうなんよ。マジで20歳(ハタチ)らへんはろくに練習できなかった。
やっと指名入って、先輩のヘルプにつくってことがなくなってからは
バチ酔いすることなくなってったから練習もできてったな。ま、バースデーのときはめっちゃ飲んだけど」
「あれ?今は?莫大な貯金切り崩して生活してる感じっすか?」
と店長が聞く。
「莫大ではないけどね?」
しっかり否定する漆慕(うるし)。
「今はホストクラブの清掃してる」
「清掃?」
「そ。元々新人ホストとか売れないホストが閉店後とか開店前にやってたんだけど
ま、内勤の人に相談したら、じゃあバイト代出すからやる?って言われて
今、昼の2時から6時まで清掃してお金もらってる。ま、貯金も切り崩してるけどね」
「いいよなぁ〜貯金5億もあるやつはぁ〜」
「5億もあったら清掃なんてやってんねぇよ」
「1億でいいからくれ」
「神羽(じんう)。こいつにバイト代払わんでいいよ」
「おい」
「わかりました」
「おい!」
「ぎおちんもホストやったら?」
相変わらず銀同馬(ギオマ)にはタメ口の店長。
「意外と向いてるかもな」
「顔がいいから?」
「神羽。ビールおかわり」
「うっす!」
「無視!?」
というやり取りに笑う名論永(めろな)。そんな幼馴染3人の話を聞いていたり
キッチンで雪姫(ゆき)と話をしていたら、あっという間に閉店時間となった。
漆慕(うるし)も洗い物をやってくれるということで、お店を閉めても漆慕はお店にいた。
いつも通り、暖簾を外し、店内に入れ、看板と提灯の灯りを消し、グラス、食器類を洗い、拭き
テーブルを拭き、醤油や七味などテーブルの調味料で足りないものがあれば補充。
そんなこんなで閉店作業も終わり、エプロンを外し、荷物を持ってお店の灯りを消して、全員でお店を出た。
「んじゃ。めろさん。明日もよろしくお願いします」
と店長が言う。
「了解です」
「めろさん、お疲れ様でしたー」
雪姫(ゆき)が笑顔で手を振る。
「お疲れ様ー」
「めろさんおつっすー!」
銀同馬(ギオマ)が敬礼する。
「お疲れ様」
「めろさんお疲れ様です。また来ますね」
漆慕(うるし)が軽く頭を下げる。
「あ、どうも。お疲れ様です。ぜひ、店長と淡田くんに会いに来てください」
「いえ。めろさんに会いにきます」
あ、これがホストか
と思った名論永。名論永と他4人は別々の方向へ歩き出した。
名論永は少しして振り返る。すると店長も雪姫も銀同馬(ギオマ)も漆慕も振り返っていて
全員名論永に手を振っていた。名論永も振り返す。もう一度振り返り、家への道を歩き出す。
「いやぁ〜まさか漆慕くんが来るとは」
「いや、銀(ぎん)から今日バイト行くから来いよって言われてさ」
「だから今日来たのか」
「そ」
「気楽でいいよなぁ〜。だいぶバイトサボってるっしょ?」
「サボってるサボってる。週2来たらビックリするもん」
「いいよなぁーヒモは」
と言うと漆慕は雪姫(ゆき)が静かにしていることに気づく。
「梨入須(ないず)さんごめんね?うちのバカのせいで迷惑かけて」
と雪姫に話を振る。
「あ、いえ。全然」
「そうそう。ぎおちんが来たほうが迷惑レベルだもんな?」
「そんなことないっしょー」
静かな雪姫。
「あ。ありそう」
「あるな」
「マジかよ」
笑う雪姫。
「あ。銀(ぎん)。ちょっと見たいものあるんだわ」
と言って立ち止まり、スマホを取り出して時間を確認する。
「開いてっかなぁ〜…。ちょっと付き合って」
「あ?ま、いいけど」
「んじゃ、神羽(じんう)梨入須(ないず)さん、また。またお店遊びに行くわ」
「おぉ。わかりました!お待ちしてます!お疲れ様っす!」
雪姫も店長の横でペコリと軽く頭を下げた。
「じんちゃん、ないっちゃんおつー!またねー」
銀同馬(ギオマ)も店長と雪姫に手を振る。
「じゃ。ま、帰るか」
「はい」
いつも通り店長と雪姫は2人で楽しく話しながら歩く。
「あの人は店長の…」
「漆慕くん?高校の先輩。ぎおちんと同い年」
「あ、そうなんですね」
「なに?惚れた?」
「は?」
雪姫は店長のふくらはぎを蹴る。
「いった」
店長は雪姫を家まで送ってから帰った。
「見たいものって何」
「んー?」
コンビニに入る漆慕。飲み物のところへ行って
「Lilphon(リルフォン)」のミルクティーの紙パックを手に取る。
「銀はなんか買う?奢るけど」
「マジ?じゃあねぇ〜」
銀同馬(ギオマ)は「心の紅茶」のレモンティーを手に取り
「これで」
と言って漆慕(うるし)に渡す。
「うい」
レジへ行く漆慕。
「あ、からあげ様のチーズください」
「からあげ様チーズ味ですね。袋お分けしますか?」
「あ、一緒で大丈夫です」
「かしこまりましたー」
スマホで決済してレジ袋を受け取る。
「ありがとうございました」
「ありがとうございます」
と店員さんに微笑む漆慕。
カッコいい…
と思う店員さん。コンビニを出た。
「ん」
レジ袋から「心の紅茶」のレモンティーを銀同馬(ギオマ)に渡す。
「サンクス」
蓋を開け、喉に流し込む。
「っ…はぁ〜。うまっ」
「青春感あるよな」
と言いながら漆慕も開け口を開き、ストローを突っ込みミルクティーを飲む。
「それ。毎日飲んでた気がするわ」
今度はからあげ様の爪楊枝をビニールから出して、1つ刺して
「食べる?」
と銀同馬(ギオマ)に向ける。
「いただく」
パクンと食べる。
「うまっ」
漆慕も1つ刺して口に運ぶ。
「うんまっ」
と言いながら歩き出す。
「で、なにさ。見たいのって」
「帰るぞー」
「は?」
「作曲しろ。家(うち)で」
「ガチー?」
「起きてからでいいから」
「昼からね?」
「そ」
と言いながら銀同馬(ギオマ)も漆慕(うるし)も家へ帰っていった。