「よくやったな。……これはあたしからのご褒美だ。喜べ」
四回、寸止めを繰り返した。早く出してくれと、広坂のペニスが叫んでいる。
四つん這いの広坂の後ろに回り込んだ彼女は、強く広坂の尻を掴むと、なんと、舐めた。過去、確かに彼も彼女のそこを舐めたことがあるのが、女にされたことはない。我慢に我慢を重ねていた広坂はとうとう射精した。あーあ、いっちまったか、と彼女の声。ちゅにちゅにと広坂のそこを舐めながら、やがて勢いを取り戻すそこを握る。「ほぅら。これがあんたの正体だぜ。ケツの穴舐められてアヒアヒ言っている……とんだマゾ野郎だな。
おまえ、びんびんじゃねえか。いいのか? いいんならあたしは言葉にしないと――許さないぞ」
「気持ちいいです!」広坂は絶叫していた。「ああ、あなたにケツの穴を舐められてわたくしめは幸せに――ございます」
「ほぅら。開いてきてる……」指で刺激を与える女王様。「分かるか? 抵抗と倒錯感の中になかに快楽が混ざり込んでいることが。――挿れるぞ」
ご丁寧にもあたたかな精液を塗りたくる。やがて、冷たい、感触が広坂の理性を奪う。「――あああ!」
ところがペニスをしごかれ、確実なる痛覚、わけのわからない興奮、快楽がないまぜとなって広坂を襲う。我慢していたぶんもあって、すぐに広坂は射精した。
「アナルパールぶっこまれて即イキっててめえ、どんな犬だよ」彼女は声を立てて笑う。「ほら。てめえの豆粒触らせな。豆粒みたくちっこいあれだ。……上向きになれ」
言われた通り、からだを回転させる。この瀟洒なる部屋にてされるのがこの行為……部屋の高級感に比べ、自分たちがしている行為の愚かさといったら。されどぐんぐん広坂の期待感は風船のように膨らんでいく。はちきれそうで痛いくらいだ。
女王様は、いまだアナルパールを体内に受け入れたままの広坂のうえに馬乗りになり、広坂の乳首を指で弾く。「びんびんじゃねえか。ああ……可哀想に。てめえ、スペルマだらけじゃねえか。
――ご褒美だ。
いっぺん、いかせてやるぜ」
「女王様……女王様ぁ」涙を流して広坂は叫んだ。襲う、尻を刺激し続ける冷たい感触。対照的に、なまあたたかい彼女の舌……口ですっぽりペニスを包まれるあの官能的な悦楽に見舞われ、広坂は打ちのめされる。――もう、駄目だ、と。
「いやだと言ってもやめてやんねえぜ? おまえは、あたしの――犬だ。
本性を見せろ、このアナルファック野郎が」
フェラチオで到達させると、彼女は、抜き差しを開始する。得体の知れない快楽が走る。そんなところを、という抵抗感をねじ伏せるほどの快楽。女は、このような気持ちよさを味わっているのか――いずれ、夏妃に教え込んでやりたい、とすら広坂は思う。大部分の彼はただ、女王様にひれ伏せていた。――愛している、と。
抽挿がスムーズなのはそれだけ広坂が感じているからだ。知らなかった。このときにも男は体液を分泌するのだ。自分を守るために。
「――あ、あああ……」大きく叫んで広坂は到達した。ところが彼女の手は止まらない。まだだ、と彼女。「あんたほんとはこれ、好きなんだろ? てめえがとんだアナルファック野郎ってことは、これから、頭のてっぺんから足の指先に至るまで、教え込んでやるから、な」
二人の長い長い夜は、始まったばかりであった。
「――広坂さん?」
気が付いた。彼女が心配そうに、広坂を覗き込んでいた。よかった、と彼女は笑う。――『彼女』ではない、夏妃だ。それはその格好から理解出来る。髪はいつもの清楚なストレート。服装は淡いブルーのノースリーブのトップス。
ベッドに寝そべる広坂は、夏妃の背中に手を回し、彼女を抱き寄せた。「……会いたかった」
「わたしも」偉業を成し遂げておいて彼女は笑う。「広坂さんが、あんなになるだなんて、わたし、知らなかったわ……これからも、広坂さんの新たなる一面を、開発してあげないと――ね」
広坂の頬を挟み込み、彼の目を覗き込むと彼女は片目をつぶる。安堵と疲労とが一挙に押しよせる。――また、あれをするつもりなのか、彼女といったら……。
目で見回せば、室内は既に片づけられている。浴槽はあれでいっぱいかもしれないが……ともかく。彼女の言っていたことはすべて事実で、待ち望む自分がいることも確か。
胸いっぱい彼女の香りを吸い込みながら、広坂は彼女の存在を、確かめる。――と、ある欲望が沸いた。あんなに頑張ってくれた彼女に、礼がしたかった。
「あ……ん、広坂さん……」喋り方も声音もまるで違う。広坂の前では、彼女は完璧なる女優であった。そんな彼女をそっとベッドのうえに倒し、広坂は彼女に口づける。立てた膝の間に、足を割り込ませ、既に勃起したペニスをこすりつける。
言葉は、いらなかった。セックスが、ふたりにとっての会話だった。
何時間と愛しこまれ、されるばかりであった広坂は、欲望を持て余していた。いつも愛を言葉で包み込む広坂が、このときばかりは沈黙した。抽挿音……彼女の響き、すべてをこの鼓膜で堪能したかった。
夏妃のなかに入ると広坂は強く彼女を抱き締めた。……無性にセックスが恋しかった。されるのも勿論、たまらないが、おれはこれがいい……愛する女の内部に直接感じるこの一体感。魅惑のほうが彼を手放してくれない。
ひとつになったまましっかりと抱き合った。このとき初めて広坂は言葉を発した。「……愛している」
のぼりつめた彼女は声も出せず、ただ、頷く。……やっぱり、これがいい、と彼は改めて実感する。されるよりもするほうが。とはいえ、女王様への恋情を凌駕するほどの威力は持たないが。
一晩眠りこけていた広坂の体力は有り余っていた。死ぬほど彼女を愛した。何度も何度も射精し、彼女のオーガズムを見届け、全身スペルマまみれにする。これでは、いつかの夜の再現だ……。広坂は彼女のなかに入ったまま、恍惚に震える彼女に、笑った。――もう、離さないよ、と。
「きみがいやだっていってもいっぱい愛しぬいてあげる。きみがしてくれたようにね」
チェックアウトぎりぎりまで愛しぬこう。広坂は決意した。朝食など二の次だ。いまは、彼女が、食べたい……。感じやすい彼女のことだろう、女王様を演じる彼女はたっぷり濡れていたに違いない……案の定、彼女といったらすごかった。キスだけで到達する有り様だ。
そんな、彼女が、愛おしかった。主にペニスで、彼は自分の想いを表現した。
連れ立ってホテルを出る。控えめに彼女が聞く。「……どうだった? 広坂さん……」
「最高だった」と広坂。「また……女王様に、会いたいな。今度はいつ会える……?」
「広坂さんが望めばいつでも」
「じゃあ、いますぐ」
「いますぐぅ!?」彼女は高い声をあげた。「あのね。人格切り替えるのって結構大変なんだから……あとからどっと来るし。勿論ね、あたしひどいことしてるのかもっていう、良心の呵責はあるのよ、あたしにだって。
……週に一回が限度かな。
あんまり頻繁に出られると、あなたのほうが大変でしょう……?」
お尻、痛くなっちゃうし。
と耳にささやく夏妃に広坂は笑った。「分かった分かった。本当に、お疲れ様。楽しかったよ……ありがとう」
「どういたしまして」ねーえ、と彼女は広坂の前に回り込み、「せっかく東京に来たんだから、あたしお洋服とか、見て回りたいな? スーツケースはロッカーに預けて」
「ああ……そうしよう。ランチも食べたいしね」
「うん!」
寄り添う彼女は傍から見れば淑女に見えるに違いない。実際、ますます美しくなった夏妃は、男の目を集めている。……おれの女だと。牽制したいような誇示したいような、不思議な気持ちに駆られる。そんな男たちの目線を感じながら、広坂はしっかりと、夏妃と指を絡ませた。「……行こう」
広坂は建物を仰ぎ見た。眩しい。あのホテルの49階で、あんなSM劇が展開されていたことなど、誰も知らない。事件はいつでも、自分たちの知らないところで起こっている。
広坂を翻弄し続けた女王様の存在を置き去りにして彼らは進んでいく。対する夏妃はあかるく、どこまでも彼のこころを照らし出す太陽となって、広坂のこころを照らし出していた。
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