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夕食後、ダイニングの片隅で咲が食器を拭いていると、リビングから兄の声が聞こえた。
「なあ悠真、就活の調子どうなんだよ」
「んー、まあボチボチ。面接落ちるときは落ちるしな」
笑い混じりの会話。
けれどその響きに、咲の手は自然と止まっていた。
「彼女でもいりゃ、励ましもあるんだろうけどな」
亮のからかうような声。
思わず息を呑む。
耳が勝手に二人のやり取りを追ってしまう。
「やめろよ、そういう話」
悠真の声は軽く笑っていたが、それ以上は何も続かなかった。
布巾を握る手の中に、じわりと熱が広がる。
――悠真さん、やっぱり彼女いないのかな。
聞いてみたいのに、聞けない。
咲はそっと背中を丸め、音を立てないように食器を重ねた。