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朝練の終了を告げるチャイムが鳴り、部員たちが片付けを始める中、遥が私のそばに寄ってきた。
肩で息をしながら、タオルで乱暴に顔を拭っている。
「……おい」
「あ、遥。お疲れ様、ドリンクの補充する?」
「いい。……さっき、あいつと何話してた」
遥はボトルを受け取ろうともせず、じっと私を見下ろした。その瞳には、さっきコートで見せていた鋭い苛立ちがまだ少し残っている。
「別に、普通の話だよ。昨日のこととか……」
「あいつ、余計なこと言わなかったか? 『あいつ』っていうか……兄貴、たまに人のこと試すような言い方するから」
遥は「兄貴」という言葉を吐き出すとき、少しだけ苦しそうに顔を歪めた。
凌先輩に対する複雑な感情。憧れと、反発と、そして——。
「何も言われてないよ。ただ……」
「ただ?」
「遥が、私のせいで怒ってるみたいに見えたから、心配だっただけ」
私がそう言うと、遥は一瞬だけ目を見開いて、それから慌てて視線を逸らした。
耳の先が、練習の熱とは違う色で赤くなっている。
「……怒ってねーよ。お前のせいでもねーし。……ただ、あいつのペースに巻き込まれんなって言いてーだけだ。お前、お人好しだから」
そう捨て台詞のように残して、遥は逃げるように部室へと向かっていった。
乱暴な言い方だけど、その裏にあるのは彼なりの「心配」なのだろうか。