テラーノベル
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1時間目の授業中、私はノートの端に、無意識にテニスコートの図を描いていた。
遥の言葉が、トゲみたいに胸に刺さって抜けない。
(あいつのペースに巻き込まれんな、か……)
遥の言う「あいつのペース」が何を指すのか、私にはまだはっきりとは分からなかった。ただ、凌先輩に見つめられると、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう自分は確かにいる。
休み時間になり、私が重い腰を上げて廊下へ出ると、そこには壁に寄りかかってスマホをいじっている成瀬先輩の姿があった。
「あ、成瀬先輩。3階までどうしたんですか?」
「紗南ちゃんにちょっと用があってね。……朝、大変だったみたいじゃない」
先輩はスマホをポケットにしまうと、私の顔を覗き込んできれいに笑った。でも、その瞳は笑っていない。
「凌はね、自分が一番じゃないと気が済まない性質なの。テニスも、勉強も……それ以外も。遥くんが君を特別扱いすればするほど、凌は君に興味を持つわよ」
成瀬先輩の言葉は、まるで予言のように冷たく響いた。
「遥くんを守りたいなら、あんまり凌を刺激しないことね。あの子、怒らせると結構えげつないんだから」
先輩はそれだけ言うと、ひらひらと手を振って去っていった。
誰もいない廊下。私は自分の肩を抱くようにして立ち尽くした。
私と遥、そして凌先輩。幼なじみという穏やかな関係の足元で、何かが静かに崩れ始めているような予感がした。
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