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「怪我人がいるって呼ばれてきたら、人質になったんだけど?お前、高級車ディーラーじゃなかったっけ?」
「まぁまぁ」
まだディーラーで稼げなかった時期、友人の医院長に小遣い稼ぎの銀行強盗の人質になってもらった。
「あ。道具忘れたわぁ」
「何やってんの、もう。あそこにヘリあるけど使う?」
友人特有の気安いやり取りではあるが、簡単にそんな事を言う。
結局、運転をお願いしたし、その後人質にもなってもらったけど。
別の日。スーパーの手伝いで農場に居る時、仲間の一人が倒れたので救助要請をした。
「救急隊で一番偉い医院長がきたよー」
しばらくして、聞き慣れた声に顔をあげるとそこには彼がいた。
「呼ばれたらすぐ来るけど、集中していてもご飯と水分は忘れないでね」
「常駐してくれてもいいんだけど」
「じゃ」
流石にファームは苦手なのか、そういうと去って行った。
ずっといてはくれないんだ。まぁ忙しいだろうし。
そんな事を考えながら作業をしていると、再びヘリの音がした。
現れたのは彼で今度は食料の差し入れにきたようだ。
なんだかんだ優しいんだよ。
また別の日。
傭兵として参加した犯罪でダウンした。幸い拾えて貰えたのでギャングアジトまで帰ることは出来た。
闇医者の治療を待つ間、ギャングと話をしていると、一人の構成員が驚いた声を上げた。
「なんで救急隊がここに?」
「だってこいつが救助要請出すんだもん」
こいつと言われ指をさされ、初めて医院長がいる事に気付いた。
しかもギャングアジトの中に堂々と入ってきて治療をしている。
「あー。闇医者が治療するなら俺帰るけど」
「いや、手伝ってもらえると助かります」
「いいのそれ?」
「俺、医院長に教えてもらったから」
ギャングの治療を終えた彼は、こちらの治療を始めた。
「で、お前何やってんの?」
「傭兵」
「ディーラーとスーパーの店員じゃなかったんかい」
彼は喋りながらも闇医者と手分けして治療をし、終わるとさっさと帰っていった。
「入口は鍵かけといてね。お大事にー」
そう言うところなんだよ。
上の方針転換で、車両の販売価格改定がされた。自分の担当する高級車も買いやすい値段になったので、知り合いに営業電話をかける。
ついでに以前値段を問い合わせてきた医院長にもかけてみた。
「前に聞いてくれた高級車も安くなったけど、どう?」
「それなんだけど、俺、頑張っている同僚に労いでフロガー2台贈って、お金なくなっちゃった」
笑いながらそんなことを言う。いつも自分のことは後回しだ。
「つまり医院長自身は労われていないと。なら俺が労おうか?買ってあげるよ?」
「そんなつもりはないって」
「なんならお金貸すよ?」
「いいって。自分のために使いなよ。いつかお金貯まったら必ず買うからさ。それまで待っていてよ」
ほら、また人のことばかりだ。
日が経ったが、救急隊は相変わらず忙しいらしく連絡が来ない。
自分が所持金を持て余していたのもあって勝手に医院長に車を贈る事を決めた。
理由をつけて病院の地下駐車場に呼び出す。
「いつまでも買いに来ないからさ、持ってきたわ」
「はぁ?」
戸惑いながらも嬉しそうにそわそわしているのが分かる。
早速、近くのガレージで車を渡す。
「やっぱりかっこいいなぁ。この見た目の感じ好きなんだよね」
彼の好みはある程度知っている。彼が好きそうだなと思ったカスタムは気に入られたみたいだ。
時間をかけて考えた甲斐があった。
救急隊ではない自分にはこれぐらいしかできないけど。
お疲れ様。
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