テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
733
159
75
みぃ
775
『誰も覚えていない夜』
「残された席」
――午前6時30分。
食堂。
35人分用意されていたはずのテーブル。
そこには――
34人分の食事だけが並んでいた。
誰も、すぐには席につこうとしなかった。
昨日までなら、当たり前のように座っていた場所。
けれど今日は――
一つだけ、空いている。
パルオ「……。」
パルオは、その空席をじっと見つめていた。
やなと「パルオ……。」
パルオ「……うん。」
やなと「座らないの?」
パルオ「……なんか。」
パルオ「そこに誰か座ってる気がして。」
やなと「……。」
二人とも、それ以上は言えなかった。
――タケヤキ翔の席。
そこだけが、ぽっかりと空いている。
ななもり。「……みんな。」
全員が、ななもり。を見る。
ななもり。「食べよう。」
ななもり。「今は、それしかできないから。」
さとみ「……そうだな。」
一人ずつ、席につく。
けれど――
誰も、いつも通りには話さなかった。
食器が触れる音だけが響く。
カチャ……。
カチャ……。
けちゃ「……。」
けちゃは箸を持ったまま、動かない。
だいきり「けちゃくん。」
けちゃ「……うん。」
だいきり「少しでも食べておいたほうがいいですよ。」
けちゃ「……分かってる。」
だいきり「無理にとは言いません。」
けちゃ「……ありがとう。」
少しだけ、けちゃが食事を口に運ぶ。
その様子を見て、だいきりは小さく息を吐いた。
――その向かい側。
ころん「……。」
ゆた「ころんさん。」
ころん「ん?」
ゆた「食べないんですか?」
ころん「……食べるよ。」
ゆた「昨日からずっと、元気ないですよね。」
ころん「……そんなことないって。」
ゆた「本当に?」
ころん「うん。」
ころんは笑う。
ころん「大丈夫。」
ゆた「……なら、いいですけど。」
ゆたはそれ以上聞かなかった。
――少し離れた席。
らお「……ちぐさ。」
ちぐさ「ん?」
らお「食べてる?」
ちぐさ「……食べてるよ。」
らお「全然減ってないじゃん。」
ちぐさ「……。」
らお「ほら。」
らおが自分の皿を指差す。
らお「俺も食べるから、ちぐさも食べよ。」
ちぐさ「……うん。」
ちぐさは小さく笑った。
ちぐさ「ありがと。」
らお「どういたしまして。」
その笑顔を見て――
ちぐさは一瞬だけ目を伏せた。
――昨夜。
自分は、仲間たちと話していた。
そして。
誰か一人を選んだ。
その結果が――
今、目の前にある。
ちぐさ「…………。」
らお「ちぐさ?」
ちぐさ「……なに?」
らお「いや。」
らお「ぼーっとしてたから。」
ちぐさ「……ごめん。」
らお「謝らなくていいよ。」
らお「怖いんだから、仕方ないって。」
ちぐさ「……うん。」
――その頃。
食堂の端。
心音は一人、考えていた。
心音「……翔くん。」
昨夜の襲撃。
そして、最初の脱落。
心音「役職が分からない以上……。」
心音「単純に人狼が一人減ったとは考えられない。」
ロゼ「そうだな。」
心音「……ロゼ。」
ロゼ「昨日、心音が言っていた通り。」
ロゼ「情報を整理する必要があふ。」
心音「うん。」
ロゼ「ただ……。」
ロゼが空席を見る。
ロゼ「今日からは、昨日とは違う。」
心音「……。」
ロゼ「もう誰も、『本当に脱落するのか』なんて思わない。」
心音「……うん。」
心音は静かに頷いた。
――そのとき。
ピン。
食堂のモニターが点灯した。
全員が顔を上げる。
【朝食終了までーー10分】
そして、その下に新しい表示が出る。
【昨日の投票結果】
【ころん 7票】
【みかさ 7票】
【てると 7票】
【その他 14票】
【結果:脱落者なし】
まぜ太「……改めて見ると、結構割れたな。」
ぷりっつ「ほんまやな。」
あっきぃ「昨日は、誰も脱落しなかった。」
あっきぃ「でも――」
あっきぃはタケヤキ翔の空席を見る。
あっきぃ「夜は違った。」
誰も返事をしない。
まぜ太「……今日の投票は、昨日より怖くなるな。」
ぷりっつ「なんで?」
まぜ太「昨日は外しても、誰もいなくならなかった。」
まぜ太「でも今日は違う。」
まぜ太「間違えたら――誰かが消える。」
ぷりっつ「……。」
あっきぃ「そうだね。」
その会話を――
少し離れた場所で、にしきが聞いていた。
にしき「……。」
まぜ太「何?」
にしき「いえ。」
にしき「昨日の投票結果を覚えていただけです。」
まぜ太「……。」
にしき「誰が誰に投票したのか。」
にしき「それを覚えておけば、今日の発言と照らし合わせられる。」
まぜ太「なるほど。」
にしき「投票は……意外と情報になりますから。」
――その言葉に。
何人かが静かに顔を上げた。
誰が誰を疑ったのか。
誰が誰を庇ったのか。
昨日はただの投票だった。
でも――
今日からは違う。
一票一票が、誰かを疑う材料になる。
――そして。
てるとは、黙って食事をしていた。
るぅと「……てるとくん。」
てると「はい?」
るぅと「大丈夫?」
てると「……え?」
るぅと「昨日から、ちょっと静かだから。」
てると「ああ……。」
てると「大丈夫ですよ。」
メルト「てるとくん、ちゃんと食べてくださいね。」
てると「うん。」
てると「ありがとう、めるめる。」
メルト「……はい。」
るぅとは二人を見て、少しだけ笑った。
るぅと「……よかった。」
てると「何がですか?」
るぅと「いや。」
るぅと「二人とも、いつも通りだなって。」
てると「……。」
ほんの一瞬。
てるとの手が止まった。
しかし――
すぐに笑う。
てると「……そうですね。」
――その瞬間。
モニターが切り替わった。
【朝食終了】
【これより、昼の自由時間となります】
【次回投票までーー6時間】
ざわっ。
全員が立ち上がる。
今日もまた――
話し合いが始まる。
誰を信じるのか。
誰を疑うのか。
そして――
誰が、人狼なのか。
タケヤキ翔がいなくなったことで。
このゲームは、もう「遊び」ではなくなった。
誰もが、それを理解していた。
――そして。
空席だけが、最後まで残っていた。
タケヤキ翔の席。
そこにもう、誰かが座ることはない。
――第8話「残された席」終わり。
コメント
4件
はぁぁぁぁ、、、、ううううぅうう、、書き方がぞわってしてがーんってなる感じですごい!!(語彙力皆無) 続きたのしみです!待ってます💕
続き楽しみまた待ってる