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第十話 暗影 【視点・博麗霊夢】
「……今からでも許可札の撤回って出来ないかしら」
目の前の人集り……いや、妖集りから目を逸らすようにうつ伏せる。
時は赤羽救出の少し前。
まだ日は出ているというのに吸血鬼の館の咲夜、地霊殿の使い魔のお燐と主の妹のこいしに……いや、もう良いや数えるのも面倒くさい。
要は外の世界から来た人間が赤羽以外にも4人いて、見事に全員幻想郷に残りたいらしい。
巫女の私が言うのもあれだけど、そんなに魅力ある?
「まぁまぁ細かいことは何でも良いでしょう! とりあえず御札をくれ!」
下界に降りれば災いの根源ともなる天子が札をせびる。
コイツが関わってる時点で碌なことにならない。そうヒシヒシ感じるがなんと驚くことに、許可を貰いに来る時ちゃんと本人も連れてきているのだ。
「……そもそも天界の住人は前の外界異変で外の世界の住人を許容できなくなってるんじゃないの? 衣玖はなんて言ってるのかしら?」
天子は独断で勝手な行動をよくするため念の為に確認を取る。すると返ってきた返事は「怒られたよ!」とだけ……。
じゃあダメでしょ。
「それで?アンタ等全員許可証欲しい感じ?」
全員首を縦に振る、自分でも驚くほど大きい溜息を流しながら、「仕方無いわね……」と渋々札を取り出す。
無論この札は貴重な物でおいそれと作って、渡す訳には行かないのだが……。
「あ、ありがとうございます!」
天子が連れてきた、天瑞観月が礼儀正しくお辞儀をする。
本当に天子について行って大丈夫なのか……? という疑問を残すもこっちで管理するわけにもいかない、それに今回外の世界の人間を連れてこなかった奴も居るので、とある提案をする。
「はァァ……とりあえず、一週間後またここに来なさい。それと、あんたらが住まわせるっていう外の世界の人間も連れてくること。
というか、外の世界の人間も連れてこないで札を貰えると思ったわね」
──とまぁ、これがお昼に起こった内容。このあとに赤羽がピンチになってる反応が来たり、魔理沙がそのまま赤羽を連れてきて謝ってきたりしてきた。赤羽は疲れたのか別室でぐっすり寝ている。
そして、色々一段落して夜も更けて陽の代わりに月が辺りを照らしてきた頃。
「霊夢ちゃんも大変ねぇ」
……また、面倒臭いのが出てきた。
空間に亀裂が入り、裂くように開いた多数の目に睨まれる穴から出てきたのは八雲紫、幻想郷の管理者だ。普段やたら私に突っかかってくるバB──。
「霊夢ちゃんそれ以上は怒るわよ?」
「何で考えてることが分かるのよ」
あいも変わらずなにを考えているのか分からない。
歴代の博麗の巫女の管理や存続、跡継ぎの事もしてくれるから、博麗の巫女が廃れないのは紫のおかげ……なのだが、異常な程に私を溺愛してる気がする。
「それより、そんなに御札渡しちゃってよかったの?」
良いわけがない。何よりいっぺんに7人も人間が幻想入りしてるのが問題だ。
「仕方ないでしょ、あの子達を拒否したところで帰れる場所も無さそうだし、そもそも向こうの世界から忘れられたから入ってきたんじゃないの?」
紫は眉を寄せ、少し考えた素振りをしてから出てきた穴──スキマに戻り、何やら紙を引っ張り出してくる。
「幻想郷の結界の話は知ってるでしょ? 実体を拒絶する【幻想結界】、博麗の巫女が管理して幻想の生物や魔力を保持する【博麗大結界】、それと外界異変以降に作られた【空間結界】」
……また面倒くさい話を始めたので「分かってるわよ」と答えてあしらいたいのだが、しっかり阻止された。
「もう1回しっかり聞いておきなさい。
【博麗大結界】や【空間結界】は外の世界からの侵入、または内部からの幻想、魔力、神秘が外部への漏出を防ぐのが役割。ただし、外界異変以降に作られた【空間結界】の空間ごと歪ませる効果のせいで、幻想郷自体が色んな世界へと繋がる中間点となってしまった。
それで今回あの子たちがやってきた原因は恐らく【幻想結界】の方ね。これは外の世界から流れて来る無意識ら、つまりは雲とか無機物を誘き寄せる、または忘れられた者を誘き寄せる効果があるのよね」
長ったらしい説明を受けているせいで眠くなってきた……いい加減夜も更けてきたから寝たいんだけど……
「ふぁ……とりあえず、短期間に5人も入ってきた原因はその【空間結界】と【幻想結界】が悪さをした結果ってことね」
溢れ出した眠気を隠すつもりもない。欠伸をしながら結果だけを話す。もういい加減寝かせて欲しい。
「ということで! あの子たちはこのまま幻想郷に住まわせてあげてね〜」
待ちなさい!と言う前に、そそくさと出て来た隙間へ逃げてそのまま閉じてしまった。
……なんであの子達をここに住まわせるのか、その思惑は分からない。そもそもアイツは元から何考えているか分からないが……とまぁ、こんな事を考えても仕方がない。
今はそれより……。
「さっきからそこにいる奴、もう良いでしょさっさと出て来なさい」
空間を切り取ったような……その周辺だけ何もなくなったような気配。
普段であれば気付くことは無いのだろうが、戦闘の後もあってか感覚がいつもより研ぎ澄まされている。
「よくぞ気付きましたね、7代目博麗の巫女」
気付けば目の前に立っている。油断した訳でもない、瞬きをした訳でもない、目の前に現れたとも違うよな感覚。
その容姿は暑くなってきたにも関わらず全身冬に着るような黒いコート、フードを深めに被っているためか顔は見えない。
さらに異常なのは、風で木の葉が揺れているにも関わらず、ソイツの周囲の木の葉どころか草すらピタリと止まっている。目の前にいる、しかし”そこに居ない”ような感覚。
「それで、アンタは何者? 敵なら容赦しないわよ」
ソイツは微動だにせずただ答える。
「幻想郷の影、これから来る異変に備える者」
その声は中性的とも違うような、複数の人間が一斉に話しているような声。
ただ一つ分かるのは、幻想郷の影と自称している者と対峙している感覚は妖怪とも違う。見ているだけで焦りと恐怖が湧き上がってくるような……。
「あまり私を見ないほうが良い、残念だが、この狂気は抑えが利くものではない」
……敵意が無いことを表すようにポケットを裏返し、両手を上げるポーズを取る。
言われた通り、視線を逸らすと溢れてきてた焦りと恐怖が落ち着いてきた。
「これから来る異変っていうのは何なのかしら? それと、幻想郷の影なんて聞いたことないけど、アンタは何者?」
視線を逸らしているせいで影の動向が分からないため、視覚以外の情報に頼る。
しかし、変わらず影の周りから出てくるはずの音や気配は全くない。
「これから来る異変も、私の正体も明かす事は出来ない。
しかし、1つだけアドバイスをしておこう。外から来た人間の6人を育てておけ」
どういうことか答えを聞こうとした時、声が出ない。
辺りを照らしていた月は雲に隠れ、気付けば奴の姿は無い。背後に気配を感じ振り向こうとする前に手袋越しでも分かるほど冷たい手が首を絞める。
「”俺”と出会った内容は忘れてもらう。安心しろ、ここでの内容だけは忘れないようにしておいてやる」
意識が薄れていく中、唯一しっかり聞き取れたその声は何処か殺気を孕んでいた。
「─む! 霊夢! 起きて!」
まだ聞き馴染めない声で目が覚める。誰の声か目で追ってみる。
──あぁそうだ。つい昨日ここへ住む事になった赤羽の声だ。昨日は”紫と話したせいでそのまま眠ってしまったのか”。
……何処か違和感を感じたが、今は気にしない。
それより──。
「赤羽、アンタ自衛ができる程度には強くなりなさい」
不意に口をついて出た言葉、赤羽は目を丸くしているが、私も何故こんなセリフが出てきたのか分からない。
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