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舞踏会の準備が進んでいる。
宮廷は華やかな装飾で満たされ、あちらこちらで貴族たちが浮き足立っている。
──そう。次は“告白イベント”だ。
ルシアン様が、聖女ユリアに心を寄せ始める重要なフラグポイント。
ここで好感度が一定以上なら、彼の口から明確な恋慕のセリフが出る。
逆に言えば、ここでクロエとの立場が“決定的に”入れ替わる。
わたしは自室の鏡の前でドレスを選ぶ。
もちろん、ルートに最適な“純白のドレス”を選択。
「まるで聖女様にぴったりですわ」と侍女が言うたびに、心の中で笑う。
──これでいいの。いや、これが“正しい”の。
クロエ・オルディアはここで不穏な噂を立てられ、王子の信用を失い、
やがて孤立し、断罪イベントへと進む。
わたしが積み上げてきたフラグが、それを導く。
全部、完璧。
でも、なぜか。
胸の奥が、少しだけざわつく。
あの日、あの中庭で見たクロエの涙が、まだ頭の隅にこびりついている。
泣き方があまりに“人間”だったからだろうか。
いや、違う。気にする必要なんてない。
だって彼女は、“断罪されるべき存在”。
ルシアン様の婚約者? 王家の縁者? そんな設定、全部、わたしが“上書き”してあげる。
この物語の中心にいるのは、聖女ユリア=フォールン。
わたしなんだから。
そう思って、胸元に手をあてる。
──ドキリ、と一拍。
鼓動が、少しだけ速い。
なに? 不安?
違う。期待。勝利への高鳴り。
わたしは、ただ“正しい結末”に進んでいるだけ。
その途中で、ほんの少し心が騒いでも──それは、きっと“演出”の一部。
さあ、幕が上がるわ。
次の舞踏会は、わたしが真に選ばれる“告白イベント”。
この世界が、わたしを認めるその瞬間──
──いらっしゃい、“ヒロインルート”の最深部へ。