そして、ついにその日になった。
「良い子にしてるのよ?」
シュシュで髪の毛を一つにまとめた母が忙しそうにスマホを肩と頭で固定しながら、腕時計に目をやる。お得意のポーズだ。
「・・いくつだと思ってるのよ」
ボソリと呟いた言葉は泡のように騒がしい飛行場に消えた。
私もうすぐで高校生なんだけど。はあ、と思いため息をついてスーツケースにどかっと座る。座ると言ってもスペースがないためほぼ寄りかかっている状態だが。壊れない程度で脱力する。
「柱の前ですか・・??」
どうやら電話の相手はそのマネージャーのようだ。
「私もお会いしたことなくて・・」と言っていた母はそのマネージャーを電話を頼りに周りを頻りに見渡している。
スーツケースに寄りかかりながら、暇なので自分も辺りを見渡すと、随分遠くにいる茶髪の白いシャツを着た高身長のイケメンが視界に飛び込んできた。
私と遠距離でばちりと目があった気がした。途端に、彼はこちらへ歩みを進める。
彼女や家族などのお見送りかお出迎えかな??
向かうであろう背後に目をやると、さっき目が向いていた方向から男性の慌てたような声が聞こえてきた。
反射でもう一度そちらに目を向けると、目の前に先程の茶髪の白いシャツを着たイケメンがポケットに手を突っ込み立っていた。
隣には眼鏡をかけた表情がコロコロ変わる中年ハーフのような男性がいる。
何がなんだか分からなくて横に視線を向けると、横に立っている母は笑顔で受け答えをしている。
すると、さっきから無表情を突き通している茶髪のイケメンが私のところに近づいてきた。
自分より背が高い彼を前に私は自動的に目線を上げる。
「・・凛のファンか?」
・・声めっちゃ綺麗。現代でいうイケボ。鼻筋通ってて肌つるつる。すんごい美型。。
じゃなくて。目線の方向へ視線を落とすと、肩からかけている鞄にはつい最近友達からもらった缶バッチがついている。
「・・ファンっていうか、ただつけてるだけです。」
マネージャーとは正反対に、彼は表情変えずに「そうか」と一言。
「あなたはファンなんですか?」
一瞬、彼の顔が曇った気がしたが、「違え」と冷たい口調で言われ、なんだ、と発すると
「そういうの、売ってんのか」
こっちも見ずに缶バッチを見つめる彼。
「知りません。友達からもらったので」
足を交差させながら目線をずらす。その先には楽しそうに男性と話している母の姿があった。
視界の端でマネージャーの元へ歩んでいく彼が見えた。
あんな図々しくて上から目線なイケメン、どっかで見たことがある気がする。
冷たい瞳で冷たい口調。つい最近、音声とともに目にしたのだが・・。
思い出せない。
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