第2話「濡れた煙草と視線」
夜の街は、雨のしずくをまとったネオンがいやらしく輝いていた。
ビルの隙間にあるバーの裏路地、酔い潰れた女と男がもたれ合っているのを横目に、サンジはライターを手のひらでカチカチと鳴らした。火は点けず、ただ煙草を唇にくわえたまま、街のざわめきを聞いていた。
「……また、いたのか」
その声が、いつものように静かに降る。
振り向くと、壁にもたれたゾロがポケットに手を突っ込んだまま、こちらを見ていた。雨のせいか、前髪が少し濡れて頬に張り付いている。
「俺の、ストーカーか何か?」
サンジは冗談混じりに笑う。
ゾロは答えない。ただ視線だけが、やたら真っ直ぐだ。
「なァ、ゾロ。俺のこと気になるんでしょ。だったら……」
煙草を取り、火を点けた。煙がゾロの目の前でゆらりと揺れる。
「今夜、付き合ってよ」
――ぞくっとするほど、冗談じみた口調だった。
でも目だけが、全然冗談じゃなかった。
ゾロは答えないまま、黙って煙を睨んでいた。
「なに、その顔。嫌だった?」
「……お前、そういうの、誰にでも言ってるのか?」
その声音には、軽蔑がにじんでいた。
サンジの目が一瞬、かすかに揺れる。
「別に。誰でもいいってわけじゃない。けど、誰でもいいんだよ。わかる?」
ゾロは眉をひそめ、近づいてくる。
「お前さ――それ、ホントか?」
問い詰めるような目。
真っ直ぐで、まるで人の心の奥に手を突っ込むような視線。
サンジは顔をそらし、煙草の火を強く吸った。
「……さぁ。知りたきゃ、もっと近くに来てみれば?」
ゾロの目が鋭く細められる。だが、彼はそれ以上は近づいてこなかった。
代わりに、静かに言い捨てた。
「そうやって、仮面かぶってるお前の顔、クソほどつまらねぇな」
心臓の奥が、びり、と鳴った。
サンジが何かを言おうとしたとき、ゾロはすでに背を向けていた。
ゆっくりと雨の街に消えていく、その後ろ姿だけが、今夜の記憶に濃く焼きついた。
煙草の火が、音もなく消える。
なぜか、胸の奥がひどく寂しかった。
コメント
2件
こんにちは。初コメ失礼致します。 せめて検索避けとかをした方が宜しいかと思います。ゾロ サンジ とはっきり明記するのでは無く、zr や snz などと曖昧に明記すると宜しいかと思います。まあ、貴方には分からなかったでしょうか。それならごめんなさい。