「無蛇野くん、行ってきてほしいとこがあってね」
校長から電話がかかって来て、スマホをうやうやしく取り出して通話ボタンを押した途端に聞こえた第一声がそれだった。
「急になんですか」
「いやー、鬼の子供の情報があってさ〜」
「はぁ…試験させるんですか」
入学できるかどうか連れてこいと?と率直に伝えれば返ってきた答えは是だった。
「現状は発症してないらしいから、優しくね」
優しくしたところで…と口には出ていたものの既に通話は切れていた。しょうがないと送られてきた資料を見て短く溜息を吐いた。
個人商店の酒屋『一ノ瀬商店』に足を運べば、一足遅かった。
既にボロボロになっている玄関口に散乱している瓦礫の数々。砂埃は立っていない故にこうなってから随分時間が経過したようだ。
無駄足だった、と口内で舌打ちを誤魔化しふと道路を確認すれば黒いタイヤのスリップ跡。一直線に走り去っている所を見れば親と共に逃げたか桃太郎が連れていったか。
「ここからだと…」
広くて人が居ない、廃墟…
近場には2、3個あるようで、しらみ潰しに全てを見れば良いことか。とある種脳筋の考えになった無蛇野はすぐさまローラーブレードを滑らせた。
一箇所二箇所と探せど人影一つどころか物音一つ聞こえなかった。残りは一つ、トタン屋根の廃工場。
車で移動したならば1番遠い距離、タイヤのスリップ痕から急いでいたことがわかったもののそんな遠くに行っていたとは…と自分の少し欠けていた想像力に、鬼の子供が手遅れじゃないいと思う。
「……」
ヘリの風を巻き込むプロペラ音に包まれながら、内部を覗き見る。
そこには桃太郎の首を喰いちぎってやろうとしながらも暴走しようとする自分に理性というブレーキを無理矢理かけるように戦闘をする少女がいた。
流れる血から整形されているのは長短混じった種々の銃。
現代の日本に置いて拳銃などは実際に眼にすることは少ない、彼女が銃を使えているのはモデルガンとうが普及して来ている事が影響しているだろう。
だがしかしそれでも銃というのは精密機械であり、トリガーから銃口に至るまで細かく設計されている。その銃を最も簡単に操り放つ彼女はよほど好きなのだろう。
「…親父はよぉ、桃太郎だったんだろ」
「なのに。なんで親父を攻撃すんだよ、お前の狙いは私なんだろ…」
「邪魔をしてきたのでな、少しどいてもらっただけにすぎない。」
良く良く見れば彼女の背後には確かに成人男性が横たわっている。話から察するに倒れている男は少女の父親であり、桃太郎。
まぁ、あり得ない話でもない。と無蛇野は表情も変えずに様子を見守る。
少女が死にそうならば間に割り込めば良い。幸いにも桃太郎側の迎えであるヘリが既に近くに待機してあるのだから無駄に長引くことは無いだろう。
「…強いな」
桃太郎は白いスーツに隊長のみが着用を許された白いファーのマフラーを肩に掛けている。つまり相手は隊長、だが彼女は押されてはいるものの桃太郎の腕を一本吹き飛ばしている。その上タイヤ痕の温度から考えても30分は戦っているのだろう。
息は切らしながらも、それによって動きが遅れる訳でもなく拮抗した状態を維持し続けている。
「!…時間か」
プロペラ音が大きくなり、トタン屋根がガタガタと震えて音を立て始める。桃太郎の迎えだ。
血に濡れた白いスーツを纏いながら桃太郎は消えていった。
残された少女は耳下のショートな髪を揺らしながら父親に駆け寄った。
顔色は悪く倒れている場に広がる血は大きい。既に手遅れな可能性が高い、普段と変わらない冷たい脳は現実を扱う。
父親の片腕を小さい己の肩に担いで震えてしまいそうになる自分の足を踏ん張って父親を安全な場所に運ぼう移動する。
けれども少女の努力は虚しく、腕は力を失いダラリと垂れ下る。少女の徐々に大きくなる呼びかけに答える声は一切聞こえない。
床にそっと寝転がせて少女も側で蹲る。
「親父。…目覚せよ…」
「…私わかんない事が多いよ…親父…起きてよ…」
「まだ…謝ってないんだよ…親父…」
蹲る背中が小さい声と共に小さく震えているのが見えた。あぁ…泣いているのか。
彼女と父親の時間を作ってやりたいのはやまやまだがこちらにも時間がない。そう思い、ローラースケートのまま気配を出さずに近づく無蛇野。
「…誰だ、」
「!…気付いていたのか?」
声の震えを隠さずに背後から近付いた無蛇野に気付き、声をかける。その手にはいつの間に作ったのか血で生成された拳銃が握られていた。
「…薄々な。」
「……お前は、誰だ」
「無蛇野無人、鬼機関に所属している」
律儀に答えた無蛇野の声を聞きながら少女は父親の亡骸を抱えて無蛇野に近付いて来る。
「無蛇野さん、だっけ…」
「親父を頼む」
そう言って遺体を差し出す、反射的に掴んだその死体は未だ暖かくて、さほど時間が経っていないと無意識に理解をしてしまう。
「おい、どういう意味だ」
「わたs…俺は、アイツを…桃屋五月雨を許さない」
涙を溢しながら今まで何も知らずに生きていたとは思えないほどに冷たい目で無蛇野を父親の遺体を見ていた。
「だから…親父とは一緒に居られない」
そう溢して少女は走り去っていった。一瞬呆気に取られた無蛇野が亡骸を抱えながら追いかけようとしたものの、コンテナが縦横しているこの廃工場では既に少女の姿は見えなくなっていた。
「ダノッチ?ダノッチ〜??」
「…なんだ」
隣にいた花魁坂を無視して、ふと自分の中で回想をしていたら動きを止めた無蛇野を心配して声を掛け始めた花魁坂。
「急に止まったからビックリしたんだよ〜、大丈夫?」
「数年前に逃した鬼を思い出していた。」
「…あの時捕まえておけばって思う?」
我ながら少々意地悪な事を聞いたか…と思ったけれども目の前の無蛇野は少し考えて短く肯定をした。
「子供に業を背負わせるわけにはいかないからな」
「ダノッチは相変わらず優しいね」
「…冗談を言うな」
「言うなら真澄の方が優しいだろ」
不器用なだけでどっちも優しいでしょ…そう言おうと思ったけど、どうせ目の前の友人は肯定しない。
四季ちゃんはなんで鬼機関に来ないのかな…ダノッチなら四季ちゃんになんて言うんだろう…
赤い簪を大切そうに握っている四季の姿を思い出して花魁坂は、この先大事にならなければ良いと思いながら笑った。
その願いは悲惨な形で叶わない事を未だ花魁坂は知らない。
「ダノッチ達は次どこ行くの」
「練馬区だ」
四季ちゃんの過去(無蛇野視点)です
四季ちゃんは元来一人称が私だったら嬉しい…
さぁーて来週の狐狼の鬼神は〜?
一ノ瀬四季です!最近寒くなってきて長袖が離せません、まぁ話の中では大方夏なんだろうけど!!
次回
無蛇野一行練磨区へ
四季ちゃん、友人ができる
練馬区偵察隊
の3本です
来週もぜってぇ見てくれよな!
…すみませんふざけました
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