「あれっ、今日祭りだっけ?」
花魁坂さんと会ってから日数がそれほど経っていない日のこと、光が丘を歩く四季の横顔を照らすように提灯の赤い光が揺れた。
初夏に入る前、浴衣を着た恋人のような男女や親の手を引く子供たち。その姿に不意に惹かれてか、四季は灯りに吸い込まれるように歩く方向を変えた。
「懐かしい…親父とも行ったなぁ…」
焼きそば、たこ焼き、イカ焼き…と鼻を満たす匂いは過去を思い出させる。
『お父さん!早く行こ!!』
水色の子供用浴衣を着て、自分よりも大きい父親の手を引いてサンダルで歩く四季。
『四季、そんな引っ張らなくても祭りは逃げねぇぞ』
『はーやく!!』
『わかった、わかった!!』
むっ、と頬を膨らませた娘を見ながら剛志は幸せそうに笑って走る。
結局あの時は親父に何をねだったんだっけ…と少し上の空だった四季の耳に子供の抗議の声が聞こえた。
「取れない〜!!」
「!」
射的屋の前で浴衣姿の二人の子供。男の子の方は明らかに小さすぎる後を指さしながら、目に薄らと涙を浮かべている。お姉ちゃん…と袖を掴んでいる様子から二人は兄妹なのだろう。
せっかくの祭りなんだから綺麗な思い出を涙で染めてほしくはない。その一心で四季は二人の前にしゃがみ込んだ。
「…取ってあげようか?」
「お姉ちゃんできるの?」
「ふふっ…任せときな」
目線を合わせれば姉の方は不思議そうな、困惑の顔。反して弟の方は突如現れた救済に笑みを浮かべた。二人の髪を乱さない程度に撫でれば、兄妹そっくりに笑う
やっぱり子供は幸せそうに笑っているのが一番だな…そう思いながら四季は眉を下げた。
一回分の300円を店番のおっちゃんに手渡せば、得意げにおっちゃんは笑った
「ふふ…無理だぜ、姉ちゃん」
「?おっちゃん…誰だよ」
「俺は店長ののぶ伸。人呼んで太郎、まぁ…シェリーって呼んでくれ」
「何いってんだ…」
薬でもやってんのかと思うほどに、支離滅裂っつーか…わけわかんねぇ。まぁ、銃の扱いなら俺の右に出るもんはそうそういねぇだろ!!
弾を詰めたコルクガンを構え、他の的よりも小さい1と書かれた的に標準をしっかり揃えてトリガーを引いた。
予想した軌道通りに進んだコルク弾は二重になり、一等にぶち当たる。的に当たり勢いを無くしたコルク弾は棚の上に確かに二つあるから俺の見間違いじゃない…
ふと、隣を見れば肩に掛かる長さの白に近い髪を綺麗に整えた美青年と目があった。
その瞬間に弾かれたように双方がコルクガンを構え直して標準を的に合わせながら撃ち始めた。
なんとなく、四季の心の中の何かに火がついたようにトリガーを引く手は弾が無くなるまで止まることは無かった。
それこそ、店長のおっちゃんが困惑の悲鳴をあげていることは耳に入っていないかのように。
「……ふっ」
全弾撃ち終わった頃には番号の書かれた的は殆ど全滅していた。いつの間にか興奮によって上がった体温を下げるように四季は肺の空気を入れ替えた。
「も、もう頼むからやめてくれ…」
通称シェリーのおっちゃんが紙袋一杯の景品を涙ぐみながら渡してくる。
「おっちゃん、つい熱くなっちまった」
「ごめんな!楽しかったぜ」
「姉ちゃん、うめぇな…何者なんだ?」
「射撃の経験者か?あれか?最近話題のサバゲーマーって奴か?」
鬼で、銃を使って戦ってます!なんて言えねぇからな…
「…ただの一般人だよ」
「それより、はい!あげる」
さっきからキラキラとした目で見つめてくる兄妹に景品が詰まった紙袋を差し出す。
「僕のも、あげる」
セミロングの男もしゃがみ込んで紙袋を渡せば兄妹揃って嬉しそうに笑ってくれた。
涙ぐんでいたあの表情も消え去った顔でありがとうと礼を言われた。久々に楽しい射撃ができたから感謝をするのはこっちの方だけど、2人の思いを無碍にはできないから代わりに頭を撫でておいた。
「ありがと〜!!」
「またね〜!」
大きく手を振りながら両親の後を着いて歩く2人に手を振りかえす。
「転ばないようにな〜」
小さくなった背中に声をかけるものの、人混みで届いているかはわからない。
「…君にちょっと興味があってさ、話さない?」
「!…ナンパか?」
「だったらやめとけよ、こんなのよりも優良物件そこらへんに一杯あんぞ」
コイツはそういう目的だったのか…と顔を少し顰めるも、返ってきた答えは
「ナンパじゃない!銃の方で…」
「あんなに射的が上手い女子に会ったことが無かったから、もしかしたら銃とか好きなのかなって…」
「お前も銃好きなのか!?」
手のひら返しにも程があるとは思うけれども、銃の事となったら飛びついても仕方ない…
「やっぱり、そうだよね!!」
「あっ!ちょっと待ってて!」
グイっと近付いて手を握れば、興奮を表すようにギュッと握り返された..と思えば何かを思い出したかのように屋台通りに走って行った。
1人取り残されて何もする事がなく大人しくベンチで、言われた通りに待っていれば男はラムネ瓶を2本持って返ってきた。
今さっきまで氷水で冷やされていたであろうラムネの一本を差し出されて反射的に受け取ってしまう。
「はい、これ」
「えっ、あ」
「ありがとう…」
瓶の温度が熱くなった手に滲んで冷やされていく。
「で、さっきも話の続きなんだけどさ…」
「やっぱり銃好きだよね?」
「おう!」
瓶を握りしめて熱を抑える。
「最近だとゲームのリロードの美しさに目を奪われる」
「!わかる!!最近はリロードの作り込みがスゲェ!!」
「じゃあ、Y◯uTu◯eでマック堺とか見てる?」
もしかしたら、知っているかもしれないと昂る熱を抑えながらあくまでも冷静に言えば彼は目を広げる。その目には、そこまで知っていたのか…と書かれているように見えた。
「あぁ、それも最高だと思うけどhickok45っていうチャンネルもいいよ」
「!そのチャンネル知ってる奴と初めて会った!」
マイナーだけれども、銃に対する熱量が好きなチャンネル『hickok』中学時代の男友達ですら知らなかったんだ。こんなのテンションが上がるなと言う方が酷だろう。
「めっちゃ話合うじゃん…えーっと…」
一時だけ今だけだと思っていながらも、呼びたくなった。彼の名前を。
鬼だから、陰で生きる側だから繋がりを持たない方がいい…そう思っていたのに彼の名前を覚えておきたいと思った。記憶に残しておきたいと。
「あぁ、つい名乗るの忘れてた」
「僕は神門」
「神の門で神門」
君は?と神門は笑った。楽しそうに顔を緩めながら。
遅刻してしまい本当にすみませんでしたァァァァ!!!!
次回予告しておきながら偵察隊一切出せなくてすみませんでした。
神門君が微妙に?中々にキャラ崩壊してます…本当に申し訳ないです…
今回なんかすっごい書きながらいつものテイスト?って言うか書き方がわかんなくなちゃった
コメント
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わ~~!!✨️2人が最初に出会ったとこの名場面ッテジブンガオモッテルトコ!!この2人大好きー!!!四季も神門も優男やん!