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🫧想美🎐🍏
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#だけなんだ
だけなんだ
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だけなんだ
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雨は嫌いだった。
音がするからだ。
アパートの薄い窓を叩く雨音は、昔の大人たちの歓声によく似ている。
『チョモー!』
安っぽいノートパソコンのスピーカーから、幼い声が響く。
鈴木は、コンビニのビニール袋を床に置いたまま動かなかった。
煙草にも火をつけない。
暗い部屋の中、パソコンの光だけが顔を照らしている。
画面の中では、小学生の自分が泣いていた。
『やだッ、やだってぇ……!』
カメラが揺れる。
大人の笑い声。
『ドッキリ大成功〜!』
テロップ。
馬鹿みたいな効果音。
過剰な編集。
《かわいい》
《リアクション神》
《また見に来た》
《チョモ泣いてて草》
コメント欄が流れていく。
鈴木は無言で動画を止めた。
部屋の中の音が消える。
外の雨の音だけが残る。
机の引き出しを開け、一枚の写真を取り出す。
ランドセルを背負った少女。
凛子。
潮風に髪を揺らしながら笑っている。
小学六年生で 彼女は死んだ。
動画のネタで。
「……絶対、殺す」
低く呟いた瞬間、スマホが震えた。
知らない番号。
数秒だけ見つめたあと、通話を取る。
『鈴木クンだっけ?』
軽い男の声だった。
馴れ馴れしい。
『安西口紅を探してるんだよね』
鈴木の目が止まる。
安西口紅。
今は人気ヨガインストラクターとしてテレビにも出ている女。
整った顔。
柔らかな笑顔。
丁寧な話し方。
世間は誰も知らない。
その女が、小学六年生のとき人を殺していることを。
「……誰だ」
『霧矢直斗。気軽に直斗サンって呼んでいいッスよ』
「呼ばねぇよ」
電話越しに笑い声。
『あは。いいねッスね。その死んだ目』
俺の顔も見てないのに何を言ってるんだコイツは
鈴木は黙る。
『で、安西口紅のこと知りたいんでしょ』
『会わない?』
ーーーーーーーー
指定された場所は、繁華街外れの地下バーだった。
看板もない。
薄暗い階段を降りるたび、酒と煙草の臭いが濃くなる。
その奥に、鉄臭さが混じっていた。
鈴木が扉を開ける。
カウンター席にいた男が振り返った。
長い金髪をハーフアップにした男。
派手なパーカー。
口元は笑っているのに、目だけが妙に冷たい。
「おー。ほんとに来た」
男は煙草を咥えたまま手を振る。
「鈴木クン?」
「……霧矢」
「そそ。直斗サンです」
「ルージュを知ってるって」
霧矢は「あー」と軽く頷いた。
「まぁ、裏じゃそこそこ有名だからね」
スマホを弄りながら続ける。
「女配信者上がりの犯罪グループのボス。しかも元キッズチャンネル出演者。なかなか面白い経歴じゃん?」
鈴木の指先に力が入った。
「……どこにいる」
「いわなぁい」
「ふざけんな」
霧矢へ詰め寄る。
だが男は笑ったままだ。
怖がる様子もない。
「でも、会わせることはできるかも」
そこで初めて。
霧矢は鈴木を真っ直ぐ見た。
その目から、一瞬だけ温度が消える。
「条件付きで」
「……何」
「こっち側に来なよ」
意味がわからなかった。
鈴木は眉を寄せる。
霧矢は灰皿に煙草を押しつけた。
「アンタさ、普通の人生向いてないッスよ」
「は?」
「その目」
霧矢は笑う。
「もう人殺せる目してる」
鈴木は無意識に拳を握っていた。
霧矢が楽しそうに目を細める。
「あは。図星ッスか?」
その時だった。
地下バーの扉が開く。
黒いコート姿の男が入ってきた。
短い茶髪。
鋭い目。
霧矢が軽く手を上げる。
「冬橋サーン」
冬橋は、鈴木を一瞥する。
それだけで、背筋が冷えた。
値踏みされる感覚。
「そいつが?」
「そうッス。鈴木クン」
冬橋は煙草を咥えた。
「一般人にしては目が濁ってるな」
「褒めてるんスか?」
「別に」
霧矢がキャッキャッと笑う。
冬橋はカウンターに紙袋を置く。
中から拳銃が覗いた。
鈴木の呼吸が止まる。
冬橋はそれを見て、小さく鼻で笑った。
「ビビるなら帰れ」
「……別に」
強がりだった。
胃が軋む。
だが、霧矢は嬉しそうに笑う。
「いいねぇ」
その時。
カウンターの奥から、低い声が響いた。
「騒がしいな」
鈴木は反射的に顔を上げる。
バーの奥。
暗がりの席に、一人の男が座っていた。
年齢の読めない男。
黒いスーツを着こなして、
足を組み、グラスを揺らしている。
その姿は妙に静かだった。
だが。
この場で、一番危険なのはその男だと直感した。
「合六サン!」
霧矢がそう言ったとき、
彼の顔が明るくなった気がした。
合六は、鈴木を見る。
それだけだった。
それだけなのに。
心臓を掴まれたみたいに、息が詰まる。
「……随分、壊れた目をしてる」
静かな声。
怒鳴ってもいない。
なのに逆らえない圧があった。
鈴木は目を逸らせなかった。
合六は小さく笑う。
「いいね」
その言葉に。
霧矢が、少しだけ嬉しそうな顔をした。
まるで褒められた子供みたいに。
「直斗」
「はいッ」
「しばらく、お前が面倒見ろ」
「了解ッス」
霧矢は即答した。
合六はもう鈴木に興味を失ったみたいに、グラスへ視線を戻す。
バーが静まりかえる。
外の雨音がよく聞こえる。
遠くで誰かが笑っている。
鈴木はまだ知らなかった。
この瞬間から。
自分が、もう戻れない場所へ足を踏み入れたことを。
コメント
2件
お、真相をお話ししますだ、と思ったらまさかの霧矢!?!?で変な声出ました私の需要ど真ん中ぶっささりの給与ありがとうございます!!相も変わらず言葉遣いと次の話への繋ぎ方がすごい…
うわっ…一気に引き込まれた。冒頭の「雨音=昔の大人たちの歓声」の対比がもう胸に刺さる。鈴木が動画の中で泣いてる小学生の自分を見て、何もせずただ止める——その静寂が逆に痛かった。凛子が「動画のネタで」死んだって一文で、この作品の根っこの重さが全部伝わってくる。 霧矢の軽さと目の冷たさのギャップ、合六が出てきた瞬間の空気の変わり方、世界観の構築が巧みすぎる。まだ第1話だけど、これはもう続きが気になって仕方ないです。unknownさん、この始まり、すごく好きです。