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廊下を抜けて、扉を押し開ける
軋む音とともに現れたのは、
さっきと同じはずのピアノ室だった
けれど、どこか違う
部屋の中が、少し明るい
何処からか差し込む光が、
柔らかく床を照らしている
この部屋に窓なんてないのに、
夕方みたいな、あたたかい色だった
誰もいないはずなのに、
ポーン、ポーン 、と鍵盤の音が鳴る
触れていないのに
ゆっくりと音がこぼれていく
md「、、、」
みどりが足を止める
その視線は、ピアノに向けられていた
俺たちも、自然と立ち止まる
その時だった
背中に、ゾワッとした感覚が走る
何かが、すぐ後ろにいるような
息がかかりそうな距離に、
誰かが立っている気がした
思わず振り返る
けれど、そこには何もなかった
ただ、さっきまで通ってきたはずの廊下が
静かに伸びているだけ
cn「、、、いま、なんか」
コンちゃんが小さく呟く
ru「うん、、、」
レウさんも、同じように感じたらしい
でも、それについて誰も何も言わなかった
みどりだけが、
ゆっくりとピアノに近づいていく
まるで、引き寄せられるみたいに
md「、、、これ」
ピアノの上に、紙が置かれていた
それは少し折れた、古い紙だった
端が擦り切れている
みどりくんがそれを手に取る
その手が、ほんの少し震えていた
隣からそっと覗き込むと
そこには短い文章が書かれていた
『ちゃんと、言えてなかった』
『いつも助けてもらってたのに』
『ありがとうって』
『一回もちゃんと言ってなかった』
途切れ途切れの文字
急いで書いたみたいに、
ところどころ歪んでいる
『また今度でいいやって』
『でも』
そこで、文章は終わっていた
続きは、どこにもない
md「、、、」
みどりくんが
何も言わずにその紙を見つめている
指先が、ぎゅっと紙を握った
md「、、、ぼく」
小さく、声がこぼれる
けれど、その先はなかった
代わりに、ゆっくりとピアノの椅子に座る
椅子の軋む音が
静かな部屋の中で、大きく響く
みどりくんが鍵盤に手を置き、
少しだけ迷うように、指が止まる
そして、
ぽん、と一音だけ鳴らした
ぎこちない音だったが、 優しい音だった
そのまま、ゆっくりと音を繋げていく
ところどころ間違えて、途切れて
それでも、確かに続いていく音
md「、、、ありがとう」
ぽつりと、呟いた
_カチャン
ピアノの中から、小さな音がした
全員がそちらを見る
ピアノの何処からかそれは転がり落ちる
床に当たって、軽く跳ねた物
それは青い鍵だった
みどりくんが、それを拾い上げる
しばらく見つめてから、俺の方を見た
md「、、、みっつめ」
静かにそう言った
その声は、
いつもよりもはっきりしていた
そのとき
_ドンッ
部屋の外で、重い音が響いた
全員の体がびくっと揺れる
もう一度
_ドンッ、ドンッ
あの化け物の足音だ
近い
さっきよりも、ずっと近くで聞こえる
md「、、、いこ」
みどりくんが立ち上がる
さっきまでの震えは、もうなくなっていた
レウさんが扉の方を見る
ru「タイミング、合わせて」
誰もが頷く
足音が、すぐそこまで来ている
_ドン
_ドン
扉の前で、止まった
息を止める
一瞬の静寂
そして、
ru「、、、いま!」
扉を勢いよく開ける
そのまま、全員で廊下へ飛び出した
背後で、何かが動く気配がした
振り返らない
ただ、走る
あの青い化け物から、逃げるように