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最初はただのありもしない噂だった。それが広がって行っただけ。
大丈夫だと思ってた。
そう信じていた―。
朝はやけに明るくて空は何事もなかったみたいに澄んでいた。
通り過ぎる人たちはいつもと同じ声量で笑って、同じ速さで歩いていく。
その輪の中に自分もいるはずなのに 言葉だけが少し遅れて届く。
否定も肯定もされないまま、噂は形を持たない影になって、足元に落ちていた。
ただ信じて欲しかっただけ。
味方になって欲しかっただけ。
一緒にいて欲しかっただけ。
大好きだった。
愛していた。
そんなこと今更言っても遅い
なにもかも。
その言葉たちは胸の奥にしまわれたまま、外に出る理由を失っていた。
届かなかった理由を考えても、誰かを責める名前は浮かばない。
ただ、時間だけが前に進んで、昨日と同じ景色が今日を上書きしていく。
光は強く、影はくっきりして、取り残された感情だけが居場所を見つけられずに
ただ立ち尽くしていた。
言葉が出なかった。
どれだけ伝えたくてもどれだけ笑顔でいても。
私が伝えたい思いは言葉に出来ず
喉に張り付いていた
喉の奥で固まったままの想いは、呼吸のたびに形を変えて、結局どれにもならなかった。
声を出せば壊れてしまいそうで
黙れば消えてしまいそうで
その間に立ったまま、時間だけが静かに積もっていく。
周囲の会話は透明で、笑顔は遠く、伝えられなかった気持ちだけが、重さを失わずにそこに残っていた。
ずっと友達だと思っていた人にすら裏切られた。
あの噂のせいだ。
なんてどれだけ恨んでも変わらない事実だ。
どれだけ言葉を尽くした所で誰も 納得しない
誰とも分かり合えない。
理解されないことよりも、説明する意味が失われていく感覚の方が重かった。
言葉を重ねるほど、溝がはっきりして距離だけが測れるようになる。
誰かの表情が変わるたびに、確かだった関係が少しずつ過去形になっていった。
空は相変わらず高くて
その下で交わらないままの視線が、静かに時間を切り分けていた。
ごめんなさい裏切られたんじゃ
ない。
私が離れただけ。
どれだけ良くしてくれても怖くなる。
裏切られるんじゃないかって。
そんな事ばかり考えているから愛想笑いも上手になる。
空気を壊さないように人間関係を壊さないように慎重に。
距離を取ることは、守ることだと信じていた
近づきすぎなければ、壊れる音も聞かずに済むと思っていた。
だから笑顔は角を丸めて、言葉は選び続けて、本音はいつも一歩後ろに立たせたままにする。
誰にも触れさせないようにしているうちに、触れてほしい理由まで、曖昧になっていった。
噂なんて嘘だ。
『信じて』
ただそれだけなのにそんな言葉
すら出てこない。
考えてしまう。
自分から離れたのだからこんな言葉信じてくれないって
言えなかった一言は、胸の中で形を変えて、責める声に近づいていく。
信じてほしい理由を並べるほど、沈黙が正しさを持ってしまう気がした。
選ばなかった距離―
選んでしまった沈黙―
どちらも自分のものだと分かっているから、助けを呼ぶ先が見つからない。
空は変わらず青く、その青さだけが、考え続ける時間を引き延ばしていた。
どれだけ考えてもどれだけ悩んでもどれだけこの先を終わらせようとも
屋上から見ていた空は残酷なほど
美しかった
聞こえてくる人の笑い声、話し声、風の音、心臓の音
そんな音はだんだんと聞こえなくなってくる
空は何も答えなかった。
ただ光を落として、街を同じ色で満たしている。
誰かの一日は続いていて、その事実だけが、やけに確かだった。
笑い声も、足音も―。
遠くで起きている出来事みたいに薄れていく。
残ったのはここに立っている感覚ともう届かないと知ってしまった思いだけ。
時間は止まらず、世界は正しく
その中で、言葉にならなかった気持ちだけが静かに、行き場を失っていた。
誰も悪くない。
誰も責められない。
そんな事実が私の逃げ場を完全に塞いだ。
誰も止めてくれる人なんていない。
誰も私を必要としてくれる人なんていない。
そんな事を考えると涙が溢れてきた。
世界は残酷だ。
どれだけ願っても世界は進み続ける。
空が、世界が私がいなくても何も変わらない
そんな事を言っている気がした誰も悪くなんかない。
ただ
世界が少し冷たかっただけだ―。
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