リオはぽかんと口を開けて、ベッドの端まで離れたギデオンを見た。 え?自分から抱きしめておいて、なんで驚くの?無意識?無意識に俺を抱きしめてたの?え…怖…。
「悪いっ…」
「いや、まあいいんだけど。もう少し腕の力を|緩《ゆる》めてほしいかな。息苦しいから」
「良くはないだろう。リオは男色ではないと言ってたではないか。それなのに悪い事をした」
「大丈夫だよ。ギデオンは謝って、俺は謝罪を受け入れたからもう終わり。ところでよく眠れた?」
バツが悪そうに頭をかきながら、ベッドから降りようとしていたギデオンに、リオが上半身を起こして聞く。
ギデオンは頭から手を下ろして「ああ」と深く頷いた。
「よく眠れた。頭もスッキリとしている。リオのおかげだ。感謝する」
「それなら良かった。役に立てて。でもさ、眠れなくなったらすぐに解雇してくれて構わないからな」
「いや、俺としては|生涯《しょうがい》傍にいてもらいたいと思っている」
「え、やだ、それは無…」
「アン!」
アンがリオの膝に飛び乗ってきた。リオを見上げてしっぽをふる|様《さま》が、たまらなく可愛い。
「俺の傍に生涯いるのはアンだよな」
「アン!」
リオはアンを抱き上げて黒い鼻に自身の鼻をすり付ける。ぺろぺろと顎を舐められて笑っていると、不穏な視線を感じて身震いをする。不穏な空気を感じ、アンを床に下ろして顔を上げる。
ベッドの横に立つギデオンが、腕を組みながらリオを見ている。
んあ?なんか…怒ってる?
「なんだよ、何か言いたいことあんの?」
「俺の傍にいるのは嫌か?」
「だからなんだよそれ。ギデオンはいつか結婚するんだろう?」
「する…たぶん」
「その人にさっきみたいなことを言いなよ。俺相手に誤解させるようなことを言うなよ」
「誤解?」
「生涯傍にいて…なんて、恋人に言うことじゃん?ギデオンは俺のこと、好きなの?」
「嫌いか好きかで言えば…好きだが、それは人としてだ」
「うん、そうだよね。俺もそう。まあ、ギデオンの健康のために出来る限りは傍にいるけど、ギデオンに恋人や奥さんが出来たら、俺は出ていくよ」
「そうか」
あれ?今度はなんか落ち込んでる?なんでだよ。ギデオンのこと、まだまだよくわからないなぁ。でも狼領主って言われてるくらいだから、怒らせたら怖いんだろうな。俺は今までに結構な失礼な態度を取ってきてるけど、ギデオンが本気で怒ったところは見たことがない。きっと賢くて周りがよく見えてるから、くだらないことでは怒らないんだ。そんな人が怒ったら、とんでもなく怖そう。
リオは黙り込んで、そんなことを考えていた。
ギデオンも黙っている。何かを考えているのだろうか。
とても気まずい空気にリオが困っていると、突然リオの腹が盛大に鳴った。
「あ…」
「ははっ」
|咄嗟《とっさ》に腹を撫でていたリオは、軽快な笑い声に顔を上げる。
なんとギデオンが口を開けて笑っていた。
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