「俺、キヨくんが好きなんだよね」
なんの返事もないまま、ただ画面だけ見つめてセッティングをしているキヨくん。いつもの4人で動画を取る予定だが、うっしーとガッチさんはコンビニに買い出しに行っていた。その間に俺たちで準備をしていたところだ。
久しぶりに集まってやろうって事になってたから、俺は浮かれてしまって、二人きりの状況に舞い上がっていたんだ。
俺はこの思いを隠していた。バレても面倒になるだけだし、そもそも男なんて興味無いかもしれない。失敗する確率だって大いにあるし、周りにだって悟られないようにしないといけない。
しかし今日は違った。なんで言ったんだろ。
「え?」
キヨくんが遅れて返事をする。言ってしまった俺もフリーズしてたし、言われたキヨくんも反応がいつもより鈍かった。しまった、と思った俺は
「罰ゲームやで!?うっしーに言われたんよ」
と、付け加える。するとキヨくんは少し深刻な顔をしながらも、すぐにいつもの笑顔に戻って言った。
「あ、そういうことね、びっくりしたぁ〜!」
「冗談に決まってるだろ!」
「ガチトーンだったから焦ったよ」
「んなわけあるかボケ」
「ほんと、ありえねぇから笑」
焦ったのは俺の方だよ。妙に静まり返った部屋で雰囲気に飲まれて口走ってしまった言葉は、羞恥心からなかったことにされた。罰ゲームということにして、忘れさせようと必死だったんだ。
あり得ないって言われちゃったしね…
「冗談でも良くねーと思うよ?」
「はは…確かに…」
「てかなんの罰ゲームよ」
「まぁ色々と…」
(危なかった…)
その後もパソコンの準備をしたり周辺機器のセッティングを続ける。ぼーっとしながら手伝っていると、しばらくしてから玄関のドアが開く音でビクッとした。動揺してんだな、俺。
「ハイ終了〜」
「終わりだ終わり!!」
バトルゲームだったからいつもみたいに勝敗が分かれて、キヨくんはキレ気味にゲームを終わらせた。俺とキヨくんのチームは惨敗。ボコボコにされた。うっしーとガッチさんは良い連携プレイで勝利のガッツポーズを決めている。
「ガッチさん強すぎるんだよな」
「お前らが弱すぎるんだよ」
「煽るねぇ、さすが強者だわ」
するとうっしーがニヤニヤしながら、
「罰ゲームとしてキヨは今夜お泊まりです!」
「は!?」
「そんでレトルトは…」
俺の耳にコソコソと耳打ちをした。
「なっ…」
「じゃ、頑張れよ」
え、うっしーって…もしかして気づいてる?
いやそんなはずはない。だってこのことは誰にも言ってないんだから。だからわかるはずなんてないのに…
「風呂先にもらうわ」
「ん」
二人が帰ったあと、機材を片付けてコンビニに行った。キヨくんと二人だとそんなに話すこともなくて、ほぼ無言で夜食を買い、ゲームの話を少ししながら食べ、今に至る。
キヨくんには先に風呂に入ってもらい、その間も俺は一人考え事をしていた。原因はさっきのうっしーの言葉。
『キヨに告れ』
それを聞いてからというもの、心臓の音がずっとうるさくて、落ち着こうとコーヒーを飲もうにもあまり美味しくない。
というか、なんでうっしーは気づいてたんだ?俺そんなにわかりやすかったか?俺のどこを見てそんなふうに思ったんだろう?
そんな疑問ばかりが湧いて、一向に気持ちが治まらない。
俺は自分のベッドで、キヨくんにはソファを勧めたけれど、キヨくんは俺のベッドに勝手にダイブしていた。
「おいっ」
「いいじゃん、俺ベッドがいい」
「じゃあ俺がソファでいい」
「家主だろあんた」
俺の腕を引っ張って、ベッドに無理やり寝転がせる。
「何なのお前…勝手すぎやろ…」
正直こんなの耐えられない…俺は…俺は…
俺は照明のリモコンを手に取り、常夜灯にした。なるべく違和感を悟られないように、布団を頭まで被ってベッドの端っこに縮こまる。すぐ隣ではキヨくんが寝ていた。こんなの、緊張しないほうが無理やろ。てか、なんの疑問もなく罰ゲーム受けんなや。
「レトさん」
ウトウトし始めたときだ。不意に名前を呼ばれて目を開ける。しんと静まり返った寝室で響いたキヨくんの声。
「なに」
「さっき言ったこと、やっぱ罰ゲームじゃないでしょ」
「…は?」
さっき言ったことってなんだ?もしかして…
あのつい口走ってしまったあれか…?
「何の話だよ」
「はぐらかすなって。撮影前、言ってたじゃん」
「あれは…ただの罰ゲームだよ…」
「その割にはレトさん動揺してない?」
なんでこんな時ばっかり勘が鋭いんだよ。普段ボケまくってるくせに。
心の中でそんな悪態をつきながらキヨくんの方を向くと、キヨくんもまた俺の方を見ていた。
「…んだよ」
「レトさんさ…ほんとわかりやすいよね」
「何がいいたいわけ?」
「さっきの、冗談じゃないよね?」
あり得ないとか、冗談でも良くないとか、あんなにダメ出しされちゃったし、冗談だってことにしたかった。でも、こんなに言われて、キヨくんの声を聞いてもふざけて聞いてるわけじゃないみたい。真面目なトーンだった。
「もし本当だったら…キヨくんはどうすんの…」
これはもう答えを言っているようなものだな。キヨくんには嘘はつけないみたい。
ほんと…最悪や…
「そうだな…そしたら…」
そう言い終わらないうちに、腕を引っ張られ、気付いたときには俺の目の前にはキヨくんの体があった。
「ちょっ…なにするん…!」
「もし本当だったら…
…レトさんを俺の恋人にする」
心臓がきつく締め付けられる感覚だ。同時に目からは涙が溢れ、キヨくんの服をどんどん濡らしていく。
「は…何いってんの…バカじゃねぇの…」
「バカかもね…こんな泣き虫に惚れちゃったんだもん」
『好き』って言葉を聞かなくても、その言動ですぐにわかった。俺たちが両思いだったってこと。泣いてる俺の頭を優しく撫でて、何も喋らずただ俺が泣き止むのを待っていてくれる。
俺より年下なのに、そうやって大人の余裕を見せつけてくるのは悔しい。その反面、キヨくんの心臓の鼓動もよく聞こえる。俺と同じくらいドキドキしていた。
THE END.
コメント
1件
最高すぎました、、