コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
PM 18:00
プルルッ、プルルッ。
自室を出た兵頭雪哉のスマホに着信が入った。
ポケットからスマホを取り出し、画面に視線を送る。
画面に表示されている着信相手の名前は、”非通知設定”と書かれていたが、兵頭雪哉は通話ボタンを躊躇わずに押した。
「お疲れ様です、雪哉さん。今、お時間宜しいですか?」
「誰だ、お前。何処の組の人間だ。」
「嘉助と言えば分かりますか?」
「椿側の人間が、何の用で電話して来た。うちの七海を連れ去り、今度は俺か?」
嘉助の名前を聞いた兵頭雪哉の眉間に、深い皺が入る。
側に居た岡崎伊織も、兵頭雪哉の表情を見て通話の相手を察した。
「七海君の件なら、本当に申し訳ありません。ですが、七海君の事は問題ありませんよ。あの2人が助けに向かいました。」
「2人ってのは、天音とノアって奴等か。」
「雪哉さん、僕と話す時間をくれますか?貴方に話す事があります。いや、話す時が来ました。」
「どう言う事だ?お前は何を言っているんだ。」
兵頭雪哉には、嘉助の言っている言葉の意味が分か
っていなかった。
「貴方の利益になる話です。バー、まどろみで待っています。」
「おい、何で、拓也の事を知ってるんだ。」
「あの時、僕もその場に居たからです。」
「なっ!?」
「これだけは信じて下さい。貴方と僕は同じ目的を持っていると言う事を。」
そう言って、嘉助は通話を終わらせた。
「伊織、車を回してくれ。」
「まさか、行かれるおつもりですか。」
「拓也の名前を出して来たんだ。俺を脅す為に出して来たなら、殺すだけだ。」
「分かりました。すぐ、表に持って来ます。」
タタタタタタタッ。
ダンッ!!
「アイツが何で、拓也が殺された場所を知ってやがる。」
兵頭雪哉は怒りの感情のまま、言葉を吐きながら壁を殴った。
PM 18:15
慌ただしく走り去る岡崎伊織を目にした一郎は、不思議そうに見つめていた。
「伊織さん?何かあったのか?」
兵頭会本家の縁側に出ていた一郎のスマホに、着信が入った。
一郎はスマホを取り出し、画面に表示された名前を確認する。
「アイツからか…。」
“胡散臭い男”と書かれた通話相手は嘉助で、連絡を交換した際に登録した名前である。
六郎もまた、嘉助の自宅に療養中の際に交換していたのだ。
煙草を取り出しながら、一郎は通話に出る。
「もしもし、いきなり何だ。」
「あ、一郎君。急で悪いんだけど、六郎ちゃんと一緒に雪哉さんと来て欲しいんだ。」
「は、は?」
「雪哉さんには連絡してあるから、場所は今から送るね。」
ブッ。
「何なんだよ、一体。とにかく、ボスの所に行かねぇとな。」
一郎は急いで、兵頭雪哉の元に向かった。
モモの借り自室
「本当に、アンタ達だけで大丈夫なの?」
カチャッ、カチャッ。
トカレフTT-33に弾を装弾をしている四郎に、六郎が声を掛けた。
「え?もしかして、俺と四郎だけじゃ不満?」
四郎の隣にいた三郎が四郎の代わりに、六郎の問いに答える。
「だって、普通の相手じゃないじゃない。」
「Jewelry Pupilだから?」
「あの双葉っ子、ヤバイから。体を浮かせたり出来るのよ?」
「大丈夫でしょ。」
「アンタってさー。何で、物事を楽観的に考えるのよ…。」
六郎は溜め息を吐きながら、モモに日焼け止めを塗る。
「ボスの邪魔になる奴は殺すだけだ。今までだってそうして来ただろ。」
「四郎、それはそうだけど…。」
「六郎の目を奪った奴等だしな、ちゃんとお前の仮
も返してやるよ。」
「あたしの事は良いのよ、自分の弱さが原因だったから…。時々、アンタが本当に死んじゃいそうで、心配なの。今は、モモちゃんも居るんだから。」
そう言って、六郎はモモの髪を撫でる。
「六郎、私が居るから大丈夫だよ。私も六郎の目を取った事、許せないの。」
「モモちゃん…。」
「私の血があれば、大丈夫。それに、まぁ…、三郎も居るし。」
「え、何?その顔。」
嫌々そうなモモの顔を見た三郎は、ギロッとモモを睨む。
「だって、嫌いなんだもん。」
「あはははー、俺も同感だわ。」
カチャッ。
「三郎。」
村雨に手を伸ばし、抜こうとする三郎に、四郎が声を掛ける。
三郎のJewelry Wordsの能力の影響で、四郎の脳裏に起こりゆる少し先の未来が見えていた。
モモと三郎がJewelry Wordsを使い、喧嘩を始めるのを阻止する為に声を掛けてたのだ。
「やめとけ、ガキ相手にムキになんなよ。」
「だって、モモちゃんが先に!!」
「煙草買ってやるから、大人しくしろ。」
「むむむ…。」
三郎は渋々、村雨から手を離すのを見たモモは走り出す。
タタタタタタタッ。
ギュッ。
「四郎、優しい。」
「お前も力を使おうとすんなよ、良いな。」
「はーい。」
カチャッ、カチャッ、カチャッ。
抱き付いて来たモモに注意をした四郎は、装弾作業に戻った。
「まだ、18時過ぎだけど行く?」
「ここから距離があるしな、ビルの周囲を見ておきたい。」
「了解、エンジン掛けてくるよ。」
「宜しく。」
車の鍵を持った三郎は、車を取りに部屋を出て行った。
トントンッ。
軽く襖が叩かれた後、開かれた襖から一郎が顔を出す。
「六郎、ちょっと。」
「お兄ちゃん?分かった。モモちゃん、気を付けてね本当に。」
「うん、ちゃんと帰って来るから。」
「怪我だけはしちゃ駄目よ。四郎、アンタも気を付けて。」
そう言って、六郎は一郎の後を追うように部屋を出て行った。
「ねぇ、四郎。」
「何だ。」
「四郎の事、私が守るから。」
「お前に守られてるようじゃ、俺も終わりだな。」
「四郎には、死んでほしくないから。」
ギュッと四郎の体に抱き付いたモモは、不安げな表情を消せないでいた。
四郎は黙ったまま、抱き付いたモモを抱き上げる。
「モモ、お前の事は守ってやるから安心しろ。」
「それは、四郎の気持ち?命令だから?」
「両方、俺の本音だ。」
「四郎…、うん。」
四郎の言った言葉は、モモの欲しい言葉では無かった。
だが、四郎は本当に本心で言葉を言ったが、2人の
気持ちがすれ違った瞬間だった。
そんな事を知らない四郎は、三郎の待つ車に向かった。
CASE 四郎
玄関を出ると、既に三郎が車を停車させ一服している所だった。
「お待たせ、行こうか。」
「あぁ、悪いな。」
「あれ?モモちゃん、不貞腐れてない?」
抱き上げられているモモの表情を見て、三郎は俺に
尋ねて来たが、すぐに納得した。
「あー、勝手に拗ねてるのか。プッ、まだまだ子供だなぁ。」
「三郎、うるさい。」
「おー、怖い怖い。四郎に面倒臭い事を言い出すなよ。」
「三郎には関係ないじゃん。」
モモと三郎はお互いを睨みつけ合い出してしまった。
俺の脳裏にモモが、Jewelry Wordsを使い出す映像が流れる。
咄嗟に六郎から貰っていた苺ミルク味の飴を取り出し、モモの口に放り込む。
「ほら、飴でも食べて落ち着け。」
「甘い…。」
「三郎も、モモを挑発するような言葉を言うなよ。」
「はーい。」
コイツ等、本当に仲が悪いな…。
俺の事で喧嘩し出すのは、勘弁して欲しい。
だけど、モモが不貞腐れてる理由が分からねぇ。
「俺が運転するから、助手席に乗れよ三郎。」
「え、良いの?」
「あぁ。」
「じゃあ、モモちゃんは後ろに乗せれば良い?」
「私、四郎の隣が良い!!」
あー、これはまた喧嘩が始まる未来が見えたぞ。
面倒事になる前に、モモを助手席に座らせた方が良さそうだ。
「あ、いや、モモは隣に座らせろ。」
「えー。」
「良いから、お前は後ろに乗れ。」
「あー、成る程…。」
三郎にも少し先の未来が見えたらしく、大人しく後部座席に乗り込んだ。
「ほら、早く乗れ。」
「うん、ありがとう。」
モモを助手席に座らせてからドアを閉め、運転席乗り込み、エンジンを掛ける。
パーキングからドライブに変え、指定された場所まで向かう。
兵頭会本家を出て数分後、助手席に座るモモの視線を強く感じていた。
「何だよ、ジッと見て。」
「四郎、運転して姿カッコイイ。」
「普通に運転してるだけだろ。」
「ううん、カッコイイ。」
モモは頬を絡めながら、興奮気味に話し出した。
コイツの照れるポイントがいまいち、分からねぇ…。
ふと、サイドミラーに視線を移すと、後ろの車を追い越して来た車が数台見えた。
ハンドルを切り隣の車線に移ると、スピードを上げながら数台が後を付いて来た。
付いて来てんな。
カチャッ。
後部座席に座る三郎がCz75を構え、窓を開ける。
ウィーン。
「四郎、運転は任せるよ。」
「了解。モモ、しっかり掴まってろ。」
「分かった。」
グッ!!
アクセスを踏み込み、前の車を次々と追い抜き距離を引き離す。
三郎は窓から身を乗り出し、Cz75を構える。
俺の車に追い付こうと、向かって来た1台の車のタイヤを三郎が撃ち抜いた。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
キキキッ!!
ドゴォォォーン!!
タイヤを撃ち抜かれた車が回転しながら、電柱にぶつかった。
だが、後ろから付いて来る車から、銃を構えた男達が窓から姿を現す。
「凄い数っ…。」
「モモちゃん、ダッシュボード開けてくれる?」
「わ、分かった。」
三郎の指示通りに、モモがダッシュボードを開けると、ハンドガンと弾丸の入ったケースが出て来た。
モモは黙ってハンドガンとケースを取り出し、三郎に渡す。
「ヘマしないでね、三郎。」
「誰に言ってんの?」
カチャカチャッ。
三郎は受け取ったハンドガンとCz75に素早く装弾し、2つの銃を構える。
再び、窓から身を乗り出し、男達の頭に向かって引き金を引く。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!!!
「グッ!!」
「ガハッ!!」
ブシャ、ブシャ、ブシャ!!
放たれた銃弾は、外れる事なく男達の頭を貫いた。
俺の車の隣まで距離を詰めて来た車の助手席の窓が開くと、男が銃口をこちらに向けようとしている。
「頭下げとけよ、モモ。」
「うん!!」
カチャッ。
あらかじめ先に窓を開けておいて良かったな。
モモに指示した後、俺は左手でトカレフTT-33を持ち、引き金を引く。
パシュッ、パシュッ!!
ブシャッ!!
運転席に座る男にも銃弾を喰らわせ、車のスピードを上げる。
ブゥゥゥゥン!!
サイドミラーに再度、視線を送るが追跡して来る車は見当たらなかった。
「ふぅ、二見の野郎が手配していた奴等だろうねぇ。追って来る気配は無さそう。」
「俺達を足止めする必要性を感じねぇけどな。」
「怪我させといて損はないからじゃない?知らない
けど。」
「三郎、引き継ぎ警戒しといてくれ。」
「了解。」
カチャッ、カチャッ、カチャッ。
無くなった弾を補充する為、三郎は装弾作業に戻った。
「怪我、してねぇか。」
「うん、してない。」
「そうか。」
「ありがとう、心配してくれて。」
俺はモモの言葉に答えず、視線を前に向けた。
PM19:15 歌舞伎町
兵頭雪哉達は車で、歌舞伎町を訪れていた。
「お前等にも連絡が入っていたとはな。」
「ボスが連絡を受けた後でしたが、嘉助は信頼して良いと思います。」
「お前達を助けたのにも、意味があっての事だろうからな。」
ガチャッ。
一郎の話を聞ながら兵頭雪哉は、愛銃であるエンフィールド・リボルバーを取り出した。
「ボス…。」
「六郎、安心しろ。何も、話を聞かずに殺す訳じゃない。」
「はい…、あたし達はボスの行動に口を出す気はありませんから…。」
六郎の髪を優しく撫でると、岡崎伊織が兵頭雪哉に声を掛けた。
「頭、到着しました。」
岡崎伊織が車を停車させたのは、とあるキャバクラビルの前だった。
「ここに嘉助が居るの?伊織。」
六郎はそう言って、運転席に座る岡崎伊織に尋ねる。
「良いから、お前達は付いてこれば良いんだよ。俺は下で待機していますから。」
「一郎、六郎、行くぞ。」
「「はい。」」
車から降りた兵頭雪哉の後を追うように車を降り、ビルの中には入って行く。
エレベーターに乗り込んだ3人は、最上階の5階まで上がる。
チーン。
エレベーターのドアが開き、兵頭雪哉は黙ったまま5階のフロアに出た。
カツカツカツ。
兵頭雪哉が足を止めた先は、閉店されているバーの扉の前だった。
扉の看板には、店の名前である”まどろみ”と書かれていた。
「ボス、ここのお店…ですか?」
「この店は、俺の息子が経営していたバーだ。」
「え…。」
「大分前の事だがな。」
六郎の問いに答えた兵頭雪哉は、ドアの部に手を掛ける。
キィィ…。
重たい扉を開けると、青色を基調とした高級感のある空間が広がった。
閉店されていた筈なのに、店内には埃一つと落ちていない。
「雪哉さん、お待ちしておりました。」
大きな青色のソファーに腰を下ろしていた嘉助が、立ち上がる。
「何で、この店の事を知っていた。」
「拓也さんが経営していたバーですから。拓也さんは、太陽みたいに暖かい人でしたよね。」
「お前は、拓坊の事を知っているような話し方をするな。何故、拓坊が殺された現場にいた。」
カチャッ。
そう言って、兵頭雪哉はエンフィールド・リボルバーの銃口を嘉助に向けた。
「説明しろ、嘉助。何の為に、俺を呼び付けた。息子の名前まで出したんだ、それなりの理由があるんだろうな。」
「拓也さんを慕っていた男の1人ですよ。僕と椿、拓也さんと3人で居る事が多かったんです。まぁ、
僕だけは組が違いましたけど。」
「3人…。」
嘉助の言葉を聞いた兵頭雪哉は、思考を巡らす。
「すいません、雪哉さんにもJewelry Wordsの力の 影響が掛かってますね。今、解きます。」
パチンッと嘉助が指を鳴らすと、兵頭雪哉がハッとした表情を浮かべた。
「っ!?お前、生きていたのか!?」
「ボ、ボス?知り合いなの?」
驚いている兵頭雪哉に六郎が声を掛けるが、反応しなかった。
スッと、嘉助は瞳に触れ黒のカラコンを取り外した。
カラコンが外されたタンザナイトの瞳が、キラキラと光を放っていた。
その目を見た一郎と六郎は、驚きのあまり言葉を失う。
「その瞳…、Jewelry Pupilだったのか、お前!?」
「そうだよ、椿にバレないように隠していたんだ。」
「嘘だろ…、マジか。」
一郎の問いに、嘉助は笑顔で応える。
「ヨウ、お前…。椿に殺された筈だろ?何で…、死んだ筈じゃないのか?」
「椿を欺く為に、Jewelry Wordsを使いました。椿の記憶から僕、神楽ヨウを消す必要があったからです。」
兵頭雪哉と嘉助の会話に、六郎が口を挟む。
「ちょ、ちょっと待って!?神楽って、あの神楽組!?神楽ヨウって、神楽組の若頭って事!?」
驚きながら、六郎は嘉助に尋ねる。
「六郎ちゃん、正解。僕の本当の名前は、神楽ヨウ。神楽組の若頭で、拓也さんとは友人関係にあったんだ。」
「生きていたのか、ヨウ。お前、今まで、バレずに椿の側に居たのか。」
「全ては、復讐する為です。雪哉さん、貴方をここに呼んだのは、僕の計画に乗って貰う為です。」
「俺と同じ目的と言ったな。椿を殺すつもりで動いてるって事だな。」
兵頭雪哉の言葉を聞いた嘉助は、続けて話を始めた。
「椿を地獄に落とす為だけに、生きて来ました。椿を徹底的に潰す為に必要な物、必要な条件があります。」
「話してみろ。」
「モモちゃんの持つJewelry Wordsの力と四郎君の存在が必須です。椿に従順であるJewelry Pupilの佐助を殺す必要があります。椿の強大なJewelry Wordsを壊す為、モモちゃんと四郎に殺し合って貰う必要があります。」
「…。」
「ちょっと、待ってよ。四郎とモモちゃんをアンタの計画の駒に使う気!?」
「六郎、落ち着け。」
苛立つ六郎の背中に触れた一郎は、宥めるように背中を撫でた。
「雪哉さん。椿に殺意がある物同士、組む必要がありますよね。乗ってくれるのであれば、僕の計画を
全て話します。四郎君を、駒として使わせてくれますか。」
そう言って、嘉助は兵頭雪哉に視線を向けた。