「夏梅も脱げよ。ぼうっとしてないで」
「ごめん。見惚れてしまって……」
「おまえは本当に――」
「何?」
「なんでもない。とにかく早く脱いでボクにも見せろ」
十秒で素っ裸になった。脱いでも見たいものが見えないとまた文句を言われるかと思って、ベッドの上で足を広げて膝を立てて座った。いわゆるM字開脚。僕の性器を見るためか彼女も起き上がり、僕と同じ座り方をした。僕からもよく見えるようにと気遣ってくれたのだろうけど、ヘタレな僕は直視することができない。
一方、彼女は勃起した僕の性器をガン見している。こういうとき未経験者は不利だ。童貞の僕は彼女の裸をほかの誰かと比較することはできないが、非処女の彼女は僕の性器を見て今までの性交相手たちと比較しているに違いない。小さすぎるとため息をつかれるか、子どもみたいと笑われるか。僕は内心気が気ではなかったが、彼女の口から出てきた言葉はそのどちらでもなかった。
「よかった」
「何が?」
「ボクは今まで夏梅に裸を見せるのが怖かった。ボクが汚れてると思えば、裸を見せたところで欲情してくれないだろう。それにもし夏梅の心がボクとのセックスを望んだとしても、体の方が反応しなくてセックスできない可能性もある。それはそれでボクもつらい……」
彼女がそんなふうに考えていたなんて知らなかった。何度も僕の裸を見ても自分の裸は絶対に見せない彼女に対して、もやもやした気分をずっと引きずっていた。僕をおまえと呼ぶときのようなときおり見せる強気な態度は、そんな不安の裏返しだったのかもしれない。