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「いやー、マジで最高だったな! 優のあのパス、しびれたぜ!」
ファミレスのボックス席。陸はコーラを片手に、興奮冷めやらぬ様子で笑っていた。その隣には、少し照れくさそうに、けれど満足げに微笑む泉がいる。
向かい側には、黙ってポテトをつまむ優。そして、そんな彼らを観察するように、瞬と紗良が座っていた。
「……優くん、あんまり動かないでね」
泉がテーブルの下で、小声で優にささやいた。
優は「分かってる。しつこい」と短く返したが、泉が自分のために氷袋を頼んでくれたり、さりげなくドリンクバーを代わりに行ってくれたりすることに、どこか居心地の悪さと、それ以上の熱を感じていた。
「……? なんだよ、お前ら」
陸が、グラスを置いた手をとめて二人を見た。
いつも通りの「余裕」の笑み。けれど、その瞳の奥には、ほんのわずかな違和感が混じっている。
「なんか今日、お前ら仲良くないか? 泉が優の世話焼くなんて珍しいじゃん」
「えっ!? あ、いや、それは……」
泉が慌てて取り繕おうとする。優との約束、「二人だけの秘密」を守らなきゃという焦りで、余計に挙動不審になってしまう。
「……別に。こいつが勝手に過保護なだけだろ」
優は無表情を貫き、視線を窓の外へ逸らした。
「ふーん……」
陸は椅子の背もたれに体を預け、二人をじっと見つめる。
いつもなら「優はモテるからな!」と茶化して終わるはずなのに、なぜか今日は、その言葉が出てこない。
泉が自分に向ける視線とは違う、何か「共有された空気」が二人の間に流れている。それが、陸の胸の奥をチリリと焼いた。
「……あ、そういえば!」
空気を変えるように、紗良が声を上げた。
「来週の土曜日、みんなで海に行かない? 大会前の決起集会ってことで!」
「海! いいね、行こうぜ!」
陸が即座に反応する。いつもの明るい声。
「泉も行くよな? マネージャーも体力作りしねーと!」
「……うん、行く!」
泉は精一杯の笑顔で答えた。
陸は再び笑い、仲間たちと騒ぎ始めた。
けれど、優が立ち上がろうとした瞬間に一瞬だけ見せた、痛みに耐えるような足元の微かな揺らぎ。
それを誰よりも早く察して、反射的に手を貸そうとした泉の指先。
陸はそれを見逃さなかった。
自分の中に芽生えた、この「黒いざわつき」の正体が何なのか。
「余裕」が武器の少年は、初めて自分の心に、コントロールできないノイズが混じるのを感じていた。