テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
32
#学パロ
瀬名 紫陽花
32,136
「うわぁ、綺麗……!」
目の前に広がる真っ青な海。泉は寄せては返す波打ち際に駆け寄り、声を弾ませた。
今日は「大会前の決起集会」。陸上部の二人はもちろん、美術部の二人もスケッチブックを抱えての参加だ。
「よし、まずは浜辺でトレーニングがてら追いかけっこだ! 負けたやつは全員にジュースな!」
陸がサンダルを脱ぎ捨て、白い砂の上を走り出す。
「あ、待ってよ、陸くん!」
泉もその後を追う。瞬と紗良も「暑苦しいわね」と言いながらも、楽しそうに笑って追いかけ始めた。
だが、優だけが少し遅れて、波打ち際をゆっくりと歩いていた。
「……おい、優! 何サボってんだよ、お前が一番速いだろ!」
陸が大きく手を振って呼びかける。
優は「……うるせーよ。砂の上は走りにくいんだ」と毒づき、少し無理をしてペースを上げた。
その瞬間、優の顔がわずかに歪む。
砂に足を取られ、まだ完治していない足首に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
優が膝をつく。それを見た泉が真っ先に駆け寄った。
「優くん! 大丈夫!? やっぱりまだ無理しちゃ――」
「……、……よせ、茅野」
優が泉の手を制止しようとしたが、時すでに遅し。
駆け戻ってきた陸が、二人の間に割って入った。
「……無理って、何がだよ。おい、優。お前、足どうしたんだ?」
陸の目は笑っていなかった。
優は黙って視線を逸らす。代わりに、泉がおどおどしながら口を開いた。
「あ、あのね……球技大会の時に、少し捻っちゃって。でも、優くんが陸くんには心配かけるから内緒にしてって……」
「……」
長い沈黙が流れる。波の音だけが虚しく響いた。
陸はゆっくりと優の足首に巻かれたサポーターを、そして、それを心配そうに見つめる泉を交互に見た。
「……なんで、俺に隠してたんだよ」
低く、押し殺したような陸の声。
「お前、俺のパートナーだろ? 最高の状態で競うって約束したじゃねーか。……それを、マネージャーと二人で隠し事して、勝手に納得してんのかよ」
「……お前に心配されたくなかっただけだ。お前は自分の走りだけ考えてりゃいいんだよ」
優も立ち上がり、陸を真っ直ぐに睨みつけた。
「お前の『余裕』を壊したくなかった。……それがそんなに気に入らねーか?」
「気に入らねーよ! 俺を信じてねーのかよ!」
陸の叫びが潮風に消える。
いつも明るく、誰にでも優しい陸が見せた、初めての「怒り」。
それは、親友への裏切られたような思いと、自分だけが「蚊帳の外」に置かれていた寂しさが混ざり合った、子供のような叫びだった。
二人の間に走る、決定的な亀裂。
泉は二人の間で、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!