テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「うわぁ、綺麗……!」
目の前に広がる真っ青な海。泉は寄せては返す波打ち際に駆け寄り、声を弾ませた。
今日は「大会前の決起集会」。陸上部の二人はもちろん、美術部の二人もスケッチブックを抱えての参加だ。
「よし、まずは浜辺でトレーニングがてら追いかけっこだ! 負けたやつは全員にジュースな!」
陸がサンダルを脱ぎ捨て、白い砂の上を走り出す。
「あ、待ってよ、陸くん!」
泉もその後を追う。瞬と紗良も「暑苦しいわね」と言いながらも、楽しそうに笑って追いかけ始めた。
だが、優だけが少し遅れて、波打ち際をゆっくりと歩いていた。
「……おい、優! 何サボってんだよ、お前が一番速いだろ!」
陸が大きく手を振って呼びかける。
優は「……うるせーよ。砂の上は走りにくいんだ」と毒づき、少し無理をしてペースを上げた。
その瞬間、優の顔がわずかに歪む。
砂に足を取られ、まだ完治していない足首に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
優が膝をつく。それを見た泉が真っ先に駆け寄った。
「優くん! 大丈夫!? やっぱりまだ無理しちゃ――」
「……、……よせ、茅野」
優が泉の手を制止しようとしたが、時すでに遅し。
駆け戻ってきた陸が、二人の間に割って入った。
「……無理って、何がだよ。おい、優。お前、足どうしたんだ?」
陸の目は笑っていなかった。
優は黙って視線を逸らす。代わりに、泉がおどおどしながら口を開いた。
「あ、あのね……球技大会の時に、少し捻っちゃって。でも、優くんが陸くんには心配かけるから内緒にしてって……」
「……」
長い沈黙が流れる。波の音だけが虚しく響いた。
陸はゆっくりと優の足首に巻かれたサポーターを、そして、それを心配そうに見つめる泉を交互に見た。
「……なんで、俺に隠してたんだよ」
低く、押し殺したような陸の声。
「お前、俺のパートナーだろ? 最高の状態で競うって約束したじゃねーか。……それを、マネージャーと二人で隠し事して、勝手に納得してんのかよ」
「……お前に心配されたくなかっただけだ。お前は自分の走りだけ考えてりゃいいんだよ」
優も立ち上がり、陸を真っ直ぐに睨みつけた。
「お前の『余裕』を壊したくなかった。……それがそんなに気に入らねーか?」
「気に入らねーよ! 俺を信じてねーのかよ!」
陸の叫びが潮風に消える。
いつも明るく、誰にでも優しい陸が見せた、初めての「怒り」。
それは、親友への裏切られたような思いと、自分だけが「蚊帳の外」に置かれていた寂しさが混ざり合った、子供のような叫びだった。
二人の間に走る、決定的な亀裂。
泉は二人の間で、ただ立ち尽くすことしかできなかった。