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第3話 裏切り者の影
黒板の前に立ったまま、指はまだ黒板裏の落書きの中心を押さえてる。ピンクの空は、少しずつ濃淡を変えている。
それは、まるで私たちの心の奥のリズムに合わせて呼吸してるみたいだ。未来の私の言葉がまだ響く。
「裏切り者の話、だって?」
私はつぶやく。声、少し震えた。気のせいじゃない、震えてる。
正直信じらんない。
背後でミナトが短く「来るぞ」とだけ言う。
リクは眉間にシワを寄せ、口を開けずにじっと私を見てる。
アヤネはスマホを握ったまま、手が少し震えてるのがわかる。
未来の私?いや、もう“影の私”って呼ぶ方が正しいかも。
その影が、教室の奥、黒板の裏の暗がりから顔を出す。
「裏切り者、誰だと思う?」
声が、低くて遠い。でも耳の奥で跳ねるように聞こえる。
「知らん。…たぶん、まだ出てきてないやつ」
私の声、強気に聞こえるけど、胸の奥がざわつく。
誰かが仲間を裏切るって…考えただけで、心臓が早くなる。
その時、空気がギュッと締まる。
リクの手が勝手に動いた。スマホを見つめてる。画面には…
「君の隣にいる者を疑え。by未来の私」
「え、マジで?」
アヤネが小さく声を出す。震えた笑い。
「いや、怖すぎるんだけど」
私は冷静を装って、でも指先は黒板の中心を離さない。
「ほら、落ち着け。まだ、誰も裏切ってない」
ミナトが眉間を押さえて短く言った。
「裏切るのは、行動じゃなく、思考かもしれない」
その瞬間、影が動いた。
まるで黒板の裏の闇から、誰かの気配が忍び寄る。
「え、誰?」
でも誰も答えない。
私の指先が熱くなる。
未来の私の影が、にやりと笑った。
「選択は一度だけ。裏切るか、裏切られるか」
視界が一瞬、ピンクと黒に染まる。
リクが小さく息を吸った。
「俺…やる。もし裏切り者が現れたら…俺が止める」
「いや、宣言すると逆に怪しいだろ」
アヤネが言うけど、声は震えてる。
「じゃあ…黙っとく。私、見てるだけ…」
私は指を押さえたまま、落ち着こうとする。
でも、心臓の音が、逆回転の時間に押されて、さらに早くなる。
そして…背後で、誰かの笑い声。
未来の私の影?いや、違う。
仲間の、いつもの声。けど、声のトーンが少し…冷たい。
「…裏切るの、私?」
振り返ると、そこにはアヤネが立ってる。
手にはスマホ。画面には、私たちの会話の履歴。
「な、なんで…」
アヤネが笑う。けど、それは普段の笑いじゃなくて、誰かを試すような、冷たい笑い。
「未来の私が言ったのよ。誰が裏切るかは、自分で決めるって」
「…お前かよ!」
リクが怒鳴る。ミナトは動かず、じっと観察。
私は、自分の指先を黒板の中心から少しだけ離す。
ピンクの空が、さらに濃くなる。
時間は逆に回り、でも確実に前に進んでる。
裏切り者が誰かを決めるのは、私たちじゃない。
未来の私、もしくは、世界そのものかもしれない。
私は小さく笑った。
「じゃあ、始めようか…裏切り者ごっこ」
アヤネは微妙な顔で頷く。
リクは拳を握ったまま、静かに息を吸う。
ミナトは、指示を待ってるだけの顔。
影がまた動く。
次の選択肢は、近い。
世界の逆回転に巻き込まれたままだった。
私たちは、放課後の本編へ進む。 ピンクの空が、まだ校舎を染めてる。
逆回転する時間の中、私たちは廊下の上に架かる影の橋を進む。
指は黒板の中心から離してない。
ここで離したら、世界のルールに負けたことになる。
負けるとか、面倒くさいから避けたい。
「…ほんとに、誰が裏切るの?」
アヤネが小声で言う。
手がスマホで震えてる。
「まだわからん。でも、近い気がする」
私は平然を装う。
心臓はめちゃくちゃ速い。
正直心拍数ヤバい。
リクが眉間にシワを寄せ、足を止めた。
「あの扉、見たか?誰かの名前が浮かんでる」
ミナトが無表情で指を指す。
そこには、透明なパネルに浮かぶ文字。
『ユイの嘘』
は?
いや、これ、私のこと?文字がじわじわ動いて、まるで私を試してるみたいだ。
「え、これ…私?」
私は小さく笑うしかなかった。
皮肉屋の笑い。
アヤネが呟く。
「いや、怖い。私も見える…私の名前」
リクも目を丸くしている。
「未来の私、マジで精神攻撃タイプじゃん」
影の未来ユイが、橋の先で腕組みして立ってる。
「裏切り者は、行動で決まるわけじゃない。思考でも、道は変わる」
「思考だけで変わるって、仕様ゲロ重くない?」私は心の中で毒づく。
「だから楽しい」影がにやり。
橋の先に、三つの扉。
一つ目は『嘘を一枚脱ぐ』
二つ目は『仲間を一人置いていく』
三つ目は『何も得られない』
私は右手を軽く伸ばす。指先が震える。
「…よし、嘘を脱ぐ。もう一枚、真実を出す」
扉が開くと、そこは廊下のコピーだけど、微妙にズレてる。
「ちょいずれてるくね」
アヤネの影が、私の嘘に反応して小さく動く。
リクは冷静に、でも内心ドキドキしてるのがわかる。
「…次は、誰が裏切るんだろう」
アヤネが震えた声で言う。
「わからん。でも、誰かが嘘をつくたびに、道は増える」
「じゃあ、嘘つくのが一番安全?」
「一番面倒くさい」
私は笑う。面倒でも進むしかない。
透明な廊下の奥、壁の影が少し歪む。
未来の私の影が、遠くで手を振る。
「準備はいい?次の試練は、“裏切り者の正体を見抜け”」
「正体…見抜けって、マジで心理戦じゃん」
「そう、でも負けても死なない」
「じゃあ、負けても面白い…かも」
ピンクの空は、少し濃くなった。
時間は逆回転しながらも、私たちの物語は前に進む。
誰が裏切るのか、まだ決まってない。
けど、私たちは確実に次の試練に踏み出した。