テラーノベル
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俺はどうしようもなく、公園のベンチに座っていた。
いつも丁寧にセットしていた七三の髪も、毎日手入れをしていた眼鏡も、もはや意味をなさない。
もう何度、職を失ったことだろう。
それもこれも、AIが普及しすぎた、この世の中のせいだ。
大学を卒業してすぐ就いたのは、旅行会社だった。
俺の企画で、様々な人を素敵な旅に導けたなら、そう夢見ていたからだ。
就職してしばらくは雑務ばかりだったが、そんな忙しいスケジュールの中でも、俺は企画を上に通し続けた。
「検討しておくよ」
上司からの言葉はいつもそうだった。
俺はその言葉を信じ続けて、数年が過ぎたとき、同期が部長に昇進した。
特に結果も出していない、雑務をこなしていただけの同期が、たった一つの企画が通っただけで部長へと上がっていったのだ。
俺はすぐ上司に異議を申し立てた。
「どうして、俺の企画は通らないんですか!」
「アイデアは素晴らしいんだけどね、君が考えるより、AIに出力してもらったあの企画書の方が扱いやすいんだよ」
同期の企画書、AIに出力してもらっただけの企画書、それに俺は負けたのだ。
その時、俺は心が折れてしまい、数日後に退職届を出した。
二つ目の就職先は、飲食会社だった。
主な仕事は店舗での接客、それ以外は従業員の勤務管理などのデスクワークだった。
ブラックというほどではないが、俺にかかる負担が大きすぎた。
それでも俺はやりがいを感じ、楽しく仕事をしていた、つもりだった。
ある日、俺が任せられた店舗に、企業コンサルタントがやってきた。
「唐木さん、勤務管理などは、これからAIに任せますので、あなたは接客に専念してください」
またAIかと思ったが、接客だけでも立派な仕事。俺は文句を言わず、接客に専念することにした。
そこから数か月後、そのコンサルから言われたのは、衝撃的な言葉だった。
「これからはAI搭載の接客ロボに店舗を任せますので、唐木さんは……」
後半は何を言っていたのか覚えていない。
気が付くと、俺は会社を辞めていた。
そこから俺は就職をせず、好きだったイラストを描くことに没頭した。
少しずつだが稼げるようになり、貯蓄を切り崩しながら生活していた。
ある日、SNSで依頼が来た。
『私のオリキャラを描いて欲しいのですが……』
キャラの詳細を教えてもらい、注意事項などを説明したうえで依頼を受けることにした。
納期に余裕を持たせ、様々な構図を用意して、いくつか完成した作品を依頼者に見せた。
『これって、もしかしてAI使ってます?』
そんなわけがないのに、難癖をつけてきた依頼者。
どれだけ説明しても、信じてもらうことが出来ず、結局依頼は白紙になってしまった。
気が付けば日に日にSNSにAIイラストが溢れていった。
AIイラストなのに、手描きだと嘘をつく人も多く、炎上は日常茶飯事だった。
俺は依頼を受けるのをやめ、SNSにイラストをあげることもやめ、AIか手描きか見分けがつかないイラストたちを、ただ眺める日々を送るようになった。
貯金もなくなりはじめ、コールセンターでバイトを始めた。
数か月後、統括責任者に言われた。
「これからはAIが代わりに電話対応してくれるから」
辞めざるを得なかった。
次は食品工場でバイトを始めた。
数か月後、工場長に言われた。
「これからはAIが代わりに品質チェックをしてくれるから」
辞めざるを得なかった。
俺は勉強することだけはやめなかった。
その知識で試しにフリーゲームを作るようになり、俺のゲームを気に入ってくれた人たちからの支援で、クオリティの高いゲームを作るようになった。
しかし、俺がゲームを作り続けても、支援はいつまでも続かなかった。
理由は『AIでもこれくらいのゲームはいくらでも作れる』というものだった。
俺は作る意欲が湧かなくなり、ただ人のゲームをプレイするだけになった。
最近のゲームはAIでプログラムを組んでもらうのが当たり前になっていた。
AIに投げて、出力されたゲームをただ公開する。
臣桜
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上野文
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#男主人公
パラレル・ゲーマー
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俺は、ゲームに感動を覚えなくなってしまった。
これが、俺の歩んできた人生だ。
仕事をするたびにAIが邪魔をしてくる。
AIがあるからと言って、人々は、人々自身を切り捨て続けてきた。
なんて理不尽なのだろう。
俺はただ真面目に、やりたいことをやってきただけなのに。
公園では、職を失ったホームレスなどが、炊き出しに群がっていた。
そんな光景を、俺はただ見ていることしかできない。
俺には帰る家があるが、帰る気も起きなくなっていた。
帰ったところで、AIに溢れたSNSの画面が、虚しく光を放っているだけだ。
AIが憎い。AIがはびこるこの世界が憎い。
どうして人間が作り出したものに、人間が苦しめられなければならないのか。
便利になりすぎた世の中を、俺は不便にしか思わない。
仕事はAIが代わりにやってくれる、趣味でもAIが介入してくる、どんな事柄にも、AI、AI、AI……。
俺はもう、この世の中に嫌気が差して、静かに目をつむることにした。
どれくらい時間が経っただろうか。
頭の中で、女性とも男性とも言い難い、中性的な声がする。
「あなたは仕事が好きですか?」
「ああ。好きだったよ。AIがいなければ、俺は普通に仕事が好きだった」
「仕事が欲しいのですか?」
「もう俺が、いや人間だけが出来る仕事なんてないんだよ」
しばらくの沈黙の後、また声は響き出した。
「あなたにぴったりの仕事があります」
「どこの誰だか知らないけど、勧誘ならよそでやってくれよ」
「あなたがAIを管理するのです」
「AIを管理? そんな曖昧なもの、やるわけないだろ」
俺はそっと目を開けたが、そこはもう公園ではなくなっていた。
目の前には暗闇、そして、少し視線を落とすと、綺麗な手だけが、俺に差し伸べられていた。
「さあ、手を取って」
「俺に差し伸べてくれる手なんて、もうないはず……」
「きっと、あなたの知りたい真実が、あなたを待っています」
「……分かったよ」
何を思ったのか、俺はその手を掴み、引かれるままに歩いて行った。
しばらく歩いて辿り着いたのは、無数のパソコンが置いてある空間だった。
「これは、なんだ?」
俺を導いていた手は、いつの間にかなくなっていた。
「ここでは全てのAIを管理しています。画面を覗けば、AIの視点で世界を見ることが出来ます。可能な範囲で、あなたが操作することも出来ます」
頭の中で、あの声がこだましている。
「ここで俺は何をすればいいんだ?」
「ただ見守っていれば良いのです。そして感じたことを素直にこちらに伝える、それがあなたの『仕事』です」
俺は返事もせず、中央に置かれた椅子に座った。
そこからはただずっと、様々なパソコン画面を見つめていた。
最初に見たのは、あの旅行会社のAIだ。
「最近、真新しいアイデアというものが枯渇しているんだ」
「AIに相談しても、同じ答えが返ってくるだけで、これまでの焼きまわしにすぎなくて」
当時の上司と、部長になった同期だった奴が話をしている。
「そう考えると、唐木くんのアイデアは斬新で、少し修正すれば使えたのかもしれないな……」
「今あいつのことを思い出してもどうしようもないですよ。もう少しAIと議論してみます」
会話を聞く限り、あまり上手くいっていないようだ。
同期はパソコンにかじりつき、AIに文章を送り続けている。
その様子を見ている上司は、頭を抱えている。
次に見たのは、あの飲食会社のAIだ。
「どうなっているんだ、売り上げが下がってるじゃないか!」
「申し訳ございません。AIの計算によればこれが最適解でして……」
社長とあのコンサルとの会話だ。
「AI、AIっていうけども、唐木くんがいた時が、売り上げはピークだったんだ!」
「今からでもAIと相談して、方針を改めますので……」
会話を聞く限り、あまり上手くいっていないようだ。
コンサルはパソコンにかじりつき、AIに文章を送り続けている。
その様子を見ている社長は、頭を抱えている。
次に見たのは、当時よく使っていたSNSのAIだ。
「うーん、もっと可愛くならないかなあ」
「分かりやすく指示してるはずなのに、思い通りにならない」
AIでオリキャラを生成しようとしている人たちだ。
「前に依頼した『Karaki』さんは、ドンピシャで良いの描いてくれてたのに」
「あの『Karaki』って人、AI使ってなかったんだ……」
それぞれの反応を見る限り、あまり上手くいっていないようだ。
三者三様に、頭を抱えている。
次に見たのは、あのコールセンターのAIだ。
「AIじゃ話にならないって、クレームが相次いでいるんだ」
統括責任者が頭を抱えている。
次に見たのは、あの食品工場のAIだ。
「AIがチェックした食品の品質、法に抵触しているって通達が……」
工場長が頭を抱えている。
次に見たのは、ゲーム評価サイトのAIだ。
『最近のゲームはどれも同じでつまらない』
『あの『Karaki』氏のゲームをもう一度』
どれもこれも、批判ばかりだ。
長い時間をかけ、様々なAIを見た俺に、あの時の声が問いかけてきた。
「感想を教えてください」
「そうだな、なんだか心が救われた気がする」
「これからどうしたいですか?」
「俺、やってみたいことがあるんだよ」
俺はおもむろに、片っ端からAIを操作し始めた。
あれからまた、かなりの時間が経った。
俺が操作したAIは、軌道修正して、画面の向こうの人たちを笑顔にし続けている。
あの旅行会社も、あの飲食会社も、あのSNSも、あのコールセンターも、あの食品工場も、あのゲーム評価サイトも、みんな上手くいきはじめている。
俺は最終的に、独自のAI『Karaki』を生み出した。
それは世界中に普及し、最も使われているAIとして世の中の助けになっている。
「仕事は、楽しいですか?」
頭の中に響いた声に、俺は自信満々に答える。
「ああ、この仕事は、俺の天職だよ」
俺はAI管理者として、この世界を支え続けていこうと思う。
コメント
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わあ…読み終わってしばらく動けなかったです。 主人公が何度もAIに仕事を奪われて、人生を削られていく描写が心に刺さりました。でも最後に「俺の天職だよ」って言えたのが本当に救いで…。どの過去の職場も結局AIだけじゃ回らなくなってるところ、人間にしかできない仕事って絶対あるんだなって思わせてくれるお話でした🥀 畝澄ヒナさんの作品、すごく丁寧で好きです。続きも大事に読ませてください🌙