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窓際で庭を眺める1人の少女。
銀髪の彼女は物憂げな表情を浮かべ、じっと外を見ていた。
しかし、ただ庭を見ていたわけではない。 庭を歩く2人の男女をじっと見つめていたのだ。
――――――――彼らに向かって中指を立てて。
「ルーシー、なぜ中指を立ててるの?」
「…………なんとなくよ」
背後にいる黒髪の少年が彼女に話しかける。
しかし、少女ルーシーは後ろを振り向きもしない。
ただただ窓の外を見つめていた。
「えっと、ルーシー?」
「…………」
そんな彼女の様子に、少年は苦笑い。 部屋にいるのはルーシーとその少年の2人――だけではない。
椅子に座り、ルーシーを見つめる男女3人。
彼らもまた彼女を見守っていた。
彼ら4人はルーシーに聞こえないよう、小さな声で話し始める。
「ルーシー、最近元気がないね」
「そりゃあ、そうでしょう。婚約者が平民の女に取られているのよ。普通に考えれば、嫌になるわ」
「そうだが、ゲームのシナリオ通りではある」
紺色髪の少年がそういうと、3人は黙り込む。
彼らは学校入学までにも、ルーシーの幸せのために全力を尽くしてきたつもりだった。
ルーシーがあの王子と結ばれるか、それとも彼らがルーシーの新たなパートナーとなるか。
だが、現実はあの2人がひっつき、ルーシーは1人に。
誰もルーシーのパートナーとはなれていなかった。
なぜか、こうなってしまったのである。
シナリオとは全く違う動きをしているのにも関わらず、だ。
彼らの間に沈黙が続いていたが、ルーシーと同じ髪色、銀髪の少年が小声で話し始めた。
「………………姉さんが中指を立ててるのって、もしかして、2人対して?」
「そうだろうね。なんで中指を立てる意味を知っているのかはなぞだけど」
「ゲームの設定じゃないかしら?」
「え、そんなことも設定されているの?」
「じゃあ、なんでこんな中世ヨーロッパ風の世界に魔法があるのよ。普通はないでしょ、魔法なんて」
赤毛の少女が目を細めていうと、紺色髪の少年がゆっくりと頷き、
「……………………ゲームの設定だな」
と呟いた。
普通の人なら、『なぜファックサインが乙女ゲームに設定されているのか』という疑問が浮かび上がることだろう。
しかし、彼らに疑問が生まれることはない。
実際彼らはそんなことどうでもよかった。
今彼らにとって問題なのは『ルーシーの元気がない』ことだからである。 立っていた黒髪少年だが、彼は近くの椅子に座った。 そして、ルーシーに聞こえないようまた小さな声で話し始める。
「それにしても、ルーシーは何もしないね。ゲームのルーシーなら、とっくにヒロインへの攻撃を始めていると思うけれど」
「確かに」
座ってもなお、黒髪少年の瞳はルーシーの後ろ姿をはっきりとらえていた。
……………………ストーカー並みにじっと見つめていた。
「今回は僕たちがいるから、動いていないのかもしれないな」
いや、黒髪少年だけではない。
他の3人も今にもルーシーを食いつきそうなぐらいに見つめていた。
何も知らない人がこの光景を見れば、すぐにでもルーシーを保護するだろう。
そんな変態染みた瞳をしている彼らは――――――乙女ゲームの主要キャラクターたち。
そして、彼らから変態的な目で見られているとは知らず、窓際で黄昏ている銀髪の少女。
彼女の名前はルーシー・ラザフォード。
乙女ゲームの悪役令嬢であった。