テラーノベル
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いつかのpixivで見たネタ。オマージュです。
武装探偵社の静謐な午後に、異質な呼吸音が混じっていた。 太宰治はデスクに突っ伏し、力なく肩を上下させている。その口元を厳重に覆う黒いマスクは、まるですべての言葉を封じ込める鉄格子のようにも見えた。
「太宰さん、今日は早退したらどうですか?」
中島敦が背中に手を添えようとして、そのあまりの熱量に指を止める。 太宰の目元は、薄い皮膚の下で血が沸騰しているかのように赤らみ、焦点が定まらない。視線を向けようとするたびに、額からは一筋の汗が滴り、机の上の書類を湿らせていく。
「すごく体調が悪そうですし……。一言も喋れてないじゃないですか!」
悲痛な敦の叫びに、国木田が厳しい視線を向けるが、太宰はただ「ふぅー……、ふぅー……」という、熱く湿った吐息を漏らすのみだ。言葉を紡ごうと動くはずの喉は、不自然に固まったまま微動だにしない。
太宰は震える手でペンを握ると、殴り書きのような文字で『大丈夫』とメモを残した。しかし、立ち上がったその膝は生まれたての小鹿のように震え、死地へ向かうかのような危うさで探偵社を去っていった。
夕闇が街を飲み込み始める頃、中原中也の住むマンションの玄関に、その男は現れた。 不快な電子音を鳴らされ、ドアを開けた中也を待っていたのは、今にも崩れ落ちそうな宿敵の姿だった。
「……なんだ太宰か。今日は相手してやれねぇぞ。この後出るんだ」
突き放すような中也の言葉にも、太宰は反応しない。ただ、玄関の壁に手をつき、荒い呼気をマスクの隙間から吐き出している。その異様な様子に、中也の眉がピクリと動いた。
「やけに顔が赤いな。体調でも悪いのか?」
中也がその顔を覗き込もうとした、その時だ。 太宰の細い指が、自らの耳にかかったゴムをなぞり、ゆっくりと黒い布を剥ぎ取った。
「はぁ……っ、あ……」
マスクの下から露わになったのは、病的な発熱などではない。 口内を蹂躙し、喉の奥までを力尽くで占拠する、巨大で無慈悲な形状をしたディルドだった。 顎は限界まで開かれ、閉じることが許されない口腔からは、せき止められていた唾液が糸を引いて溢れ出す。
太宰は潤んだ瞳をさらに歪ませ、悦楽と苦痛が混ざり合った表情で、中也を見つめた。
「ひどい……なぁ……。中也が、付けろって……言ったのだよ?」
蹂躙された喉から漏れ出たのは、形を成さない、掠れた甘い悲鳴だった。 朝から数時間、仕事中も移動中も、彼はこの異物を呑み込み、誰にも悟られぬようこの熱に耐え忍んでいたのだ。
「中也の言う通りに……してたよ……」
その言葉を聞いた瞬間、中也の瞳に嗜虐的な光が宿る。中也は、太宰の濡れた顎を乱暴に掬い上げると、満足げに鼻で笑った。
「……もちろん、ご褒美の準備は出来ているよね?」
太宰の問いかけは、もはや言葉というよりは、懇願に近い響きを帯びていた。中也はその熱に浮かされた体を引きずるようにして、部屋の奥へと誘う。
「ああ。期待してろよ。その喉が壊れるまで、可愛がってやるからな」
閉ざされたドアの向こう側で、太宰の耐え忍んできた熱が、一気に爆発しようとしていた。
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